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わたしたちの落神様  作者: サカシタテツオ
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004 冬の日・お客さん

❏冬の日


雪がチラチラしてる。

本格的に冷えだした。

サナさんも部屋に居る時間が長くなり、色々な話を聞かせてくれる。ありがたい。



雪が降るほど寒いのは20日ほど。

大雪になる年がたまにあり、そんな年は氷室を準備したりする。

里の北側には高く険しい山脈があって、そこから吹き下ろす風がとても冷たいので風の強い日は誰も外に出ないとか。


そんな里山話の1つ。

北の山の方からやってくる森人(もりびと)の話。

北の山に住むという森人。

すごく長生きの人達で、古代遺跡が現役の時代を知っているそうだ。

-- ワクワクする!!え?しない?俺だけ?



長く生きてるだけあって何でも知っているらしい。文字通りの生き字引。


言い伝えだと山の中で森人を見つけて追いかけてもすぐ見失う。森に溶けてしまう。

見失った後も諦めずに探していると森に惑わされ遭難、そのまま帰らぬ人に。

まあ、森には気をつけようねっていう教訓めいたお話だ。


そんな神秘の森人が風の強い日にフラッと里にくる事があるので運が良ければ話を聞けるかもしれないとサナさんが教えてくれた。

-- オラァ、ワクワクしてきたぞ!

-- 森人って言うからには毛に覆われたUMA的な感じ?




冬の夜は長い。

夜間の照明は火が基本。

日が長い季節は蓄光能力のある優石(すぐれいし)を使う。

見た目は白く濁り透明度の低い石英。

これを日中お日様に当てて置くと5、6時間は光を出してくれる。

単体ではボンヤリとした光。2つ並べると明るさが大幅に増すので基本二個セット。その場合は3、4時間が限界。

赤っぽい優石を使うと電球色で光ってくれる。


透明度が高い水晶のような結晶は明かりとしては無価値。

もったいないと思うのは俺の価値観。こちらではやっぱり無意味なんだろう。


そんな優石も真冬の20日間はあまり役に立たない。

日中も雲がでて薄暗い日が多くなるからだ。

その間はロウソクやランプの心細い明かりの中で生活をすることになる。

電気のある現代日本が恋しい!



そんな心細い明かりの中で日記を開く。

ヨシオ日記ではい。ジョン日記。



筆記具はヨシオのモノを拝借している。

日記の内容はサナさんの話やヨシオ日記で気になった事をメモしているだけ。

記憶の補助装置。


きっかけは一本松落雷事件。俺も色々考えさせられたのだ。


それに何と言っても再現実験の日の衝撃的な出来事。

リアの笑顔機能発動事件。

俺日記の輝かしい最初の1ページの記録内容だ。




□お客さん


一番寒いという20日間が終わった。終わってしまった。

何事も無く。


サナさんの話で一番心がときめいた森人さん達は来なかった。

色々と話を聞きたかったのに。

もちろん一番聞きたいのはじいちゃん家の裏山へ戻る方法。ここに落ちてくる前の世界。

元の世界に戻るため足掻いたヨシオ達の挑戦は本当に無駄だったのか、俺もやっぱり戻れないのか。



戻れる可能性と希望が捨てられない。

こちらで生きるための覚悟も足りない。

宙ぶらりんな気持ちの俺。

そのあたりにケジメをつけたいとも思っていた。

-- 森人に聞くまでもなく戻る事は出来ないのだろうとは思っているけどね。口にはしない。




期待の森人さん達は来なかったけど、多々良ノ里の人達が来た。

どうしても直接会って話したいらしい。


広間に行くと土下座している男達。

多々良ノ里から来たお客さん。

-- これは何事なの?

-- 俺は代官様かな?


「うむ。苦しうない面をあげよ」

俺はキメ顔をしてみた。ニヤリ。


ドスッ!とお尻に生じた衝撃。

リアの膝蹴りが尾骶骨に決まる。

鈍く重い痛みに耐えきれず、その場で五体投地ポーズになる僕ちん。

「ジョンのくせに調子にのるんじゃないわよ。」


お客さんの前でなんてカッコ悪い。

本当に折れるよ。砕けるよ。ガラスのマイハート。






お客さんの用件はヨシオの発注品について。

完成した第1号を急遽運んで来たと言う。

「こいつの出来を確かめて欲しい。」

と言ったのは職人代表。


注文された品の制作が難航しているらしい。

-- ヨシオはどんな意地悪な注文をしたのやら。

-- よその里の人達がこんなにも恐縮しちゃってるじゃない。アイツ悪人だな。ヨシオ=悪。うん。そのはずだ。間違いない。


第1号の完成で、さまざまな問題点が解消され今後はスムーズになるはずだと。

「すでに2年も遅れていますが、あともう半年お時間をいただきたい。」

と言って再び頭を下げたのは多々良ノ里青年部の代表。


時間をくれとかなんとか言われても俺自身はまったく知らない事なので、

-- いいよ、いいよ。気にしないで大丈夫だよ。


と対応したんだけど…マズかった?

リアの目がヤバイ感じに曇ってる。





その夜は宴会。

多々良ノ里のお客さんに加えて雷撃再現検証チームも参加。

ヨシオが発注した手押しポンプの開発メンバーがいるらしいのだ。

サナさんが機転を利かせ招集しておいてくれた。

ありがとうございます。本当。



酔いが回ると口もよく回る。それはこちらの世界も同じ。


『ヨシオ様から注文が来たときは楽勝だと思ったんだけどな。』

開発初期の試作機が多々良ノ里に持ち込まれ便利に使われているとのこと。


『改良の要望もわかりやすくまとめてあったしな。』

『なのに本当、申し訳ない。』

と言って再度頭を下げているが最初に比べて口調も態度もくだけてきている。


初対面が土下座だったので、なるべくフレンドリーに振舞っていたのだが。

-- うん、効果はしっかり出ているようだネッ。


みんなが和気あいあいと盛り上がっているのを横目に俺は忙しく動き回る。


「ジョン。じゃがマヨ追加よ」

「こちらにエビマヨ追加お願いしまーす。」


宴会は鍋料理がメインなので調理は簡単、食材の準備ができていれば比較的ゆっくりできるはずなのだが・・・。

自分用のつまみを調理したあたりから流れがおかしい。


好評なのは嬉しいけど。けどね。

俺いつの間に料理長なの?


俺が調理しリアが運びオーダーを取る。

キラキラ組もリアを手伝いはじめ、今は忙しく動き回っている。

-- これ、なんて言う居酒屋さん?



一方スイは鍋奉行に徹している様子。

なかなか良いポジション。

サナさんも楽しそうにしているようだし、まあ、コレはコレでありかな。


「ジョン!鶏カラと揚げ芋追加よ!」

「鶏皮も一皿追加でぇす!」


俺、神様扱いされないね。これっぽっちも。





2019/01/09 優石の読み変更。ルビ追加。他の章は確認中。

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