表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/87

悪者のお仕事

「それでは婿殿むこどの、頑張って悪者してきてくださいね」

 ロネリ姫が、抱きしめたくなるような笑顔を見せる。


「はい、行って参ります」

 俺は、姫の前に膝を折って答えた。


 悪事を働きにいくのに、こんなふうに平和的に送り出されていいんだろうか?


「ルシアネ様、姫とリタさんのこと、よろしくお願いします」

 一八式に乗り込む前に、ルシアネさんに頼んでおく。

 俺が一八式に乗っているあいだ、姫の警護が手薄になるけれど、ルシアネさんが守ってくれれば安心だ。


「ええ、任せてください」

 ルシアネさんが胸を張って言った。



 立て膝をついた一八式の手に乗って、そのままコックピットに入ろうとしたら、

「婿殿、忘れ物です!」

 姫がそう言って俺のところまで駆けてきた。

 何事かと振り向くと、姫が俺に飛びついて、俺のほっぺたにキスをする。

 姫の柔らかい唇が、チュって俺の頬に触れた。


「幸運のおまじないです」

 姫が照れながら言う。


 一八式とロネリ姫のおまじないがあったら、俺はもう、完全に無敵だ。





 昨日、俺達の食事中に暴れていたチンピラ騎士の親玉、この辺りをべるアドリアーノという領主の城に、一八式で飛んだ。

 城の上空で光学迷彩を解いて、その純白のボディが姿を現す。


 何本もの塔を備えて天高くそびえる城は、周囲に広がる城下町を見下ろしていた。

 何重もの堀が巡らせてあって、守りを固めている。

 これだけ大きな城は、領民から相当搾り取ってないと、建てられないだろう。


 突然現れた巨人に、城内や、城下町は大騒ぎだ。

 人の群れが右往左往している。

 異世界から召喚された巨人の話は知っていても、実際に本物を見るのは初めてで、皆、呆気あっけにとられていた。

 上空から見ていると、その場に固まったまま、動けない人達もたくさん見られる。



「領主! 出てこい!」

 俺は、空を飛んだまま、一八式の中からマイクで呼びかけた。


「この世界の神、全ての頂点に立つ男、冬樹様が来てやったんだ! 挨拶あいさつしろ!」

 俺は、悪者らしく、尊大そんだいな言葉で挑発ちょうはつする。



 しかし、いくら待っても、領主らしき男が出てくる様子はなかった。

 代わりに、空に向けて矢が放たれる。

 か細い矢で、この一八式を攻撃してるつもりらしい。

 けれどもその矢では、一八式の装甲に、ひっかき傷すら残すことが出来なかった。


「まりな、暑いし、水遊びでもするか」

 俺は、覆い被さっているスクール水着姿のまりなに言う。

「うん、そうだねお兄ちゃん」

 まりなは俺の言葉の意味をんで、城を囲む堀に、ケ○ヒャー的高圧洗浄機の取水ノズルを垂らした。

 あとは一八式の指先から出る水で、城の中に巣くう害虫やゴミを、綺麗さっぱり流していくだけだ。



 城の中庭に出てきたよろいの騎士や、城壁の上の弓兵を、面白いように水で流した。

 向こうは城から投石機のような物も出してきたけれど、それが設置される前に、周りの人間ごと水で流してしまう。

 その中には、昨日、食事のとき、食事処の店主を脅していたチンピラの姿もあった。


 そんなふうに水攻めを続けても、相手は抵抗を止めないし、領主も出てこなかった。


 やっぱり、水攻めだけだと、今一、この一八式の凄さが分からないんだろうか。


「まりな、この城の塔のうち、誰もいない塔で、倒しても誰も怪我しなさそうなやつ、あるか?」

 俺はまりなに訊いた。

「うん。あの、左から三本目の塔と、右から二本目の塔には誰もいなくて、倒しても被害者は出ないと思う」

 スキャンした結果をすぐに報告するまりな。


「それじゃあ、ぶっ倒そう」

 俺は、腰に差している一六式液体金属軍刀を抜いた。


 それで、ワラ束でも切るみたいに、石組みの塔を真っ二つにする。

 斬られた塔は、地響きを立てながらゆっくりと城の縁を滑って、水の中に沈んだ。

 城よりも高い水柱が上がって、空に大きな虹がかる。


 この一八式の力を見せつけるには、ちょうどいいパフォーマンスだった。



「この城は俺が頂く、領主の一派と、雇われた騎士の連中は、今すぐここを去れ! 馬も、鎧も剣も、全部ここに置いていけ! 貯め込んだ金銭も、残らず置いてけ!」

 俺は、めちゃくちゃな要求をする。


 でもまあ、悪者なんだし、これくらいの要求するのが普通だろう。


 すると、アドリアーノという領主らしい、せぎすで口ひげの男が出てきた。

 いかにも領民をいじめてそうな、いやらしい目つきの男だ。


「ここを出て、二度とこの領地には戻ってくるな! 見かけたら、今度は命がないと思え」

 俺がマイクを通して言うと、男は哀れなくらい、何度も頭を下げた。


 まもなくして、着の身着のままの領主と、取り巻きの騎士達が城から出て行く。

 城や、城下町の住民に、それを悲しむ者はなく、却って、石を投げつけたり、出て行くことを喜ぶ始末だ。



 領主や、ごろつきの騎士が出て行った城で、皆が一八式に注目していた。


 桁外れの力を持った巨人に、これから何をされるのか不安そうだったし、俺のことを、領主の悪政から解放した救世主って見る向きもあった。


 悪役である俺がヒーローってみなされたらたまらない。

 だから俺は、俺が悪党だってことを徹底しておく。


「いいか、俺があの領主を追い出したのは、あいつらが俺のモノである女を、好き勝手にしてたから、腹が立っただけだ。それ以上でもそれ以下でもねえ! こんなちんけな領地には興味ないから、あとはお前達がここで好き勝手に暮らせ。この中から誰かが代表になって、自治をしてもいい。でも忘れるな! ここの女はすべて、俺のものだ! 特に幼女は、全部俺の所有物だ! 俺の女や、幼女に手を出す奴には容赦ようしゃしねえ! 俺の女や幼女が虐待ぎゃくたいされてるような噂を聞いたら、ここに戻ってきてきにするから、覚えておけ!」

 俺が言うと、城下町の領民は、喜んで良いのか、恐怖を感じるべきなのか、微妙びみょうな顔をした。


「それから、女どもよ! 俺の所有物であるっていう証拠の、セーラー服を着るのを忘れるなよ。ブルマかスクール水着でもよし。すぐにでも着替えておけ。いつ俺に抱かれてもいいように、毎日風呂に入って、体を清めておくのを忘れるな!」

 俺は付け加えた。


 我ながら最低の台詞セリフだと思う。


 悪役って、やっぱり大変だ。

 俺はそんなことこれっぽっちも思ってないんだから、そんな言葉を口にするのは、すごく疲れるのだ。





 悪者として一暴れして、みんなの元に帰る。


 姫達は、森の中で野営の準備をしていた。

 買ったばかりの馬車の脇にテントを立てて、火を起こし、夕餉ゆうげの支度をしている。


 俺が一八式を降りると、姫が一番に駆け寄ってきた。


「お帰りなさいませ。お仕事は、上手く行きましたか?」

 そんなふうに訊いてくる姫を、俺は抱っこする。

「はい、悪者として存分に暴れて、人々を恐怖のどん底におとしいれてきました」

「ご苦労様です」

 悪の限りを尽くして、ご苦労様って言われるのもどうかと思う。



「婿殿、お食事にしますか? それとも、ロ・ネ・リ?」

 姫が言った。


 ロネリ姫……


 そんな、新婚の若妻的なセリフ、どこで覚えたんだ……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ