表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

85/87

二人の子供

「どうして、ロネリが冬樹様の子供なのですか!」

 ロネリ姫が、ほっぺたをぷうってふくらませて、突っかかってくる。

 俺を見上げて、腰に手をやって足を肩幅に開き、姫は一歩も引かない構えだ。


「どうしてと言われましても、やはり、世間的には、姫はどうしても小さすぎますし、やはりここは、私の娘ということで……」

 俺は、姫に頼んだ。


「そんなのは嫌です! ロネリは、冬樹様の妻なのです! 冬樹様の愛妻なのですから!」

 姫は本当に怒ってるみたいなんだけど、怒ってるその姿と仕草しぐさが可愛いから、自然と顔がほころんでしまう。

「私が真剣に話してるのに、なにを笑ってるんですか!」

 姫に怒られた。




 俺達は、シルドラッド王国を離れ、一八式で、遠く、内陸の国まで飛んだ。

 そこで、一八式を光学迷彩で隠して、服装を変え、旅の商人として人々の間に溶け込んで過ごすことに決めていた。


 ずっと悪役を演じ続けるのは疲れるし、こうやって、世界を旅しながら色々と見て回るのもいいと思ったのだ。

 それは、後々、ロネリ姫のためにもなると思う。

 姫の見聞けんぶんを広めるためにもその方がいいだろうと、リタさんやルシアネさんと話し合って決めた。



 旅の商人になりすますとして、姫が俺の妻なのは周りからすればどう見てもおかしいし、不幸にもロリコン男として世に知れ渡っている俺と、その妻ロネリ姫を連想させるから、正体がばれてしまう。

 だから、リタさんと俺が夫婦で、ロネリ姫がその娘、ルシアネさんが用心棒兼使用人ってことに役割を決めた。


 それを説明したら、ロネリ姫が怒り出したのだ。


「私は、冬樹様の妻なので、このまま妻で通します!」

 姫が言い張った。


「いえ、その……」


 俺が困ってると、

「姫様、そんなに聞き分けないお方は、冬樹様に嫌われてしまいますよ」

 リタさんがしゃがんで、ロネリ姫の視線に目を合わせて言う。


「こんなことで駄々っ子になるなんて、姫はやっぱり子供なんだなって、冬樹様、失望されると思います」

 リタさんが続けると、ロネリ姫は、はっと気付いたように表情を変えた。

 俺に対して、上目遣うわめづかいでしょんぼりした顔をする。


「ごめんなさい」

 ロネリ姫が、俺を向いて謝った。


「いえ、姫様。姫様が、そこまで私のことを思ってくださってるって分かって、とても光栄です。姫様に愛されている私は、世界一幸せな男です。ですが、人前ではしばらく、私の娘ってことで我慢してください。でも、安心してくださいね。私は、いつまでも姫様の夫です。姫様が嫌だと言っても、ずっと姫様とご一緒しますから」

 俺が言うと、姫が俺の胸に跳び込んでくる。

 その小さな手で、ひしと俺にしがみついた。


 本当に、子供みたいだ(いや、子供なんだけど)。



 ロネリ姫を説得して、ひとまず庶民しょみん的な服に着替えた俺達は、馬車とか、商人らしく見せる旅の道具をそろえるために、近くの街に立ち寄ることにした。


 街外れの森で一八式から降りて、街まで歩いて行く。


 一八式にはまりなが乗って、光学迷彩で隠したまま俺達の真上を飛んだ。

 なにかあったら、すぐにでもまりなが対応出来るような体制を整えている。



 夫婦役の俺とリタさんの間にロネリ姫が入って、姫は俺とリタさん、両方と手をつないだ。

 あれだけ嫌がってたくせに、俺とリタさんに手を繋がれて、姫は嬉しそうだ。

 考えてみれば、早くに母を亡くして、リタさんが母代わりだった姫にとって、こんなふうに親子っぽく振る舞うのが新鮮で、嬉しいのかもしれない。



 街は、多くの商人や旅人が行き交って繁栄はんえいしていた。


 ここはシルドラッド王国から遠く離れてるし、この時代まだ写真もないから、俺やロネリ姫の顔を知る者もないだろうし、顔を隠すこともないだろう。

 俺達は、そのまま街に入った。


 街を守る城壁の入り口に、さっそく馬や馬車を扱う商人を見付けて、頑丈がんじょうそうな馬車と、それを引く馬を買う。

 そして、護衛役のルシアネさんが乗る馬とくらも買った。

 旅先で野宿することも考えて、テントや、鍋や食器、ナイフや毛布なんかの野営道具も揃えた。

 これで、それなりには見えるだろう。



 他国の街を歩くロネリ姫は、楽しそうだ。

 そういえば、姫は国内でも、城やその城下町からほとんど出たことがなかったのだ。

 俺と出会うまでは、ずっとその中にいたと聞く。


 異国いこく情緒じょうちょあふれる町並みや、人々の服装、屋台の物売り、そのすべてが姫には珍しいみたいだ。

 姫は、目の前のすべてに興味津々(きょうみしんしん)で、目を輝かせている。


「宿に入る前に、なにか、食べて行きましょうか?」

 俺が訊くと姫は、

「はい!」

 って、良い返事をした。



 にぎわっている食事処を見付けて、中に入る。


 三十人くらい入ると一杯になるような店内は、ほぼ満席だった。

 俺達はなんとかテーブルを一つ確保して、そこに座る。


 料理の名前が分からずに、適当にメニューから選んだら、ペペロンチーノっぽい麺料理と、豚の角煮っぽい料理、きのこたっぷりのピザに、香草が効いたスープが出てくる。


「ロネリは、きのこが嫌いなのです」

 姫がそんなことを言って、ピザをルシアネさんのほうに追いやるから笑ってしまった。


「姫様、好き嫌いしてると、大きくなれませんよ」

 リタさんが、母親のように言う。


「だってぇ」

 姫が口を尖らせた。

「私のように、胸が大きくならなくていいんですか?」

 リタさんが訊く。


「大丈夫です。婿殿むこどのは、ちっぱいが好きなので、このままでいいです」

 姫がそんなことを言った。


 うん、まあ、ちっぱいも好きだけど、どちらかというと、巨乳のほうが……



 城の中にいたときよりも、姫が生き生きしているのが嬉しい。

 この笑顔をいつまでも守りたいって、その誓いを新たにする。



 俺達がそんなふうに楽しく食事をしていると、店に、五、六人のグループが入って来た。

 腰に剣を刺した大男達がずかずかと入って来て、辺りを見渡す。


「感じ悪いですね」

 ルシアネさんがそう言いながら、テーブルに立て掛けた剣のつかに手をやった。


「おい店主! 俺達が食べに来てやったんだ。席を空けろ!」

 グループの中で、坊主頭の二メートル近い巨漢が、店主を呼びつけた。


「ご覧のように、どのテーブルもいっぱいで……」

 店主の老人が申し訳なさそうに言うと、

「うるせえ! 俺達が誰か、分かってるだろ? アドリアーノ様の騎士だぞ。てめえ、誰のおかげで商売出来ると思ってんだ!」

 男達はそう言って、目の前でまだ食事の最中だった男女を追い払って、そこに無理矢理席を空けた。


「ほら、酒持ってこい! あるだけ持ってくるんだ」

 男達はさっさと席について、店主に命令する。


「ですが……」

「なんだてめえ、ここの営業権、取り消されてえか?」

 鷲鼻わしばなの一人がおどすように言った。


 会話の内容からするに、アドリアーノっていうのは、この辺りの領主らしい。

 この男達は、その領主が雇っている用心棒のような連中だろう。



「婿殿、次に悪者として大暴れする場所が見つかりましたね」

 ロネリ姫が悪戯っぽく言った。


「ええ」

 俺は答える。


 さっそく、俺はこの領地で一八式を使うことになるらしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ