別れ
「離婚しましょう。私はもう、あなたの妻ではありません」
覚悟を決めたようにロネリ姫が言う。
その顔は凜としていて、王族の気高さ、誇り、のようなものが感じられた。
幼くても、やっぱりロネリ姫はプリンセスなのだ。
「冬樹様が、私を置いて出て行くというなら、私はもう、止めはしません。離婚しましょう。だけど、冬樹様はそれでいいんですか?」
姫が真っ直ぐに俺を見て訊く。
水色のドレスの上に、白いエプロンをしたロネリ姫。
窓からの光で金色の髪が縁取られて、神々しいオーラに包まれているように見える。
「冬樹様は、本当にそれでいいんですか? ロリコンで、妹君にいつもスクール水着を着せてる上に、時々、体操着とブルマをはかせたり、セーラー服を国中に流行らせたりする冬樹様が、ロネリを逃がしてもいいんですか? この、ちっぱいでロリロリしいお姫様を置いていくなんて、もったいなくはありませんか?」
姫が、そんなふうに訊く。
いや待て、俺はロリコンじゃない。
まりなにスクール水着を着せたのは俺じゃないし、戦闘服をブルマの形にデザインしたのも、バックパックをランドセル型にしたのも俺じゃない。
「こんなに可愛くて、愛らしくて、そしてそして、この世の中で誰よりも冬樹様のことが好きなロネリを、置いていってもいいんですか? もう、こんなふうに一途に冬樹様を愛する幼女は、二度と現れないかもしれませんよ」
姫の目尻に、じわっと涙が浮かぶ。
「昨晩、ロネリはなんと言いましたか? 世界が敵になっても、ロネリだけは冬樹様の味方だと、言ったではないですか。それを忘れたのですか? あの言葉は嘘ではありませんよ。私は、真剣に言いました」
確かに昨晩、姫はそう言った。
でも、あのときは、まさか俺が本当に全世界を敵に回すことになるとは思わなかった。
すべての悪を引き受ける、大悪党になるなんて思いもしなかったのだ。
「私は、なにがあっても絶対に冬樹様の味方です。父王様と敵対することになっても、冬樹様が極悪人になっても、ロネリは冬樹様を支持します」
姫が拳を握りしめて力強く言う。
「だから、冬樹様は、ただ、ロネリに『ついてこい』って言うだけでいいのです。そうすれば冬樹様のことが大好きなロネリは、黙って冬樹様についていくのです。父王様も、プリンセスとしての立場もポイって捨てて、迷わずついていきます!」
姫の目尻から、一筋の涙が伝った。
「だから冬樹様は、ロネリに『ついてこい』って、言うのです!」
「本当によろしいんですか?」
俺は訊いた。
俺に、この姫を受け止める甲斐性はあるんだろうか。
姫に訊いていながら、俺は自分にも問いかけていた。
「はい」
姫がきっぱりと言い切る。
「分かりました」
俺は、覚悟を決めた。
「それではロネリ姫、どうか、私についてきてください」
姫の前に跪いて、頭を下げる。
「全世界を敵に回した大悪党の妻として、一緒に世界を騒がせましょう」
「はい。喜んで」
姫がとびきりの笑顔で答えてくれた。
泣いた後で目が潤んでいて、瑠璃色の宝石のような目が、俺を優しく見詰めてくれる。
俺は、膝を着いたままロネリ姫を抱きしめた。
姫が俺の頭を胸に抱くようにする。
姫の胸はまだちっぱいだけど、この胸の中は、どこよりも安心できる場所だった。
「姫様が冬樹様についていかれるなら、私ももちろん、ご一緒致します」
俺と姫の様子を見ていたリタさんが言う。
リタさんも少し涙ぐんでいた。
「ならば私も、お供しなくてはなりませんね」
ルシアネさんが言う。
「ルシアネさんまで、そんな……」
俺は驚いてルシアネさんを見た。
「私は、以前、冬樹殿から、ロネリ姫をお守り申し上げるよう、頼まれたではないですか。私はその時、一生をかけて姫をお守り申し上げると固く誓ったのです。ですから、姫が行くところ、私も参ります。それに、全世界を敵に回す。それは腕が鳴るではないですか。騎士として、これ以上の大きな敵はありません。これ以上、自分の力が試される場所はない。騎士冥利に尽きるというものです」
ルシアネさんが、そんなふうに言ってくれる。
「本当にいいんですか?」
俺が訊くと、ルシアネさんは無言で深く頷いた。
俺達がそんなふうに部屋で話していると、中庭に停めてあった一八式が移動してきて、部屋の窓から顔を覗かせる。
「お兄ちゃん、国王とその軍勢が追いついて来たよ」
一八式を操作していたまりなが、コックピットから顔を出して言った。
どうやら、国境にいた国王達が、このレオネス城に戻って来たようだ。
河原に残っていた馬を捕まえて、少しの軍勢を整え、どうにかここまで飛ばしてきたらしい。
「父王様には、やっぱり、ご挨拶したほうがいいんでしょうか? ここを出ていくって、冬樹様と行動を共にするって言った方が」
ロネリ姫が訊く。
確かに、このまま黙って去るより、一言残したほうがいいのかもしれない。
国王はロネリ姫の父親なんだし。
唯一の肉親だし。
だけど、幼い姫にそれを言わせるのは酷な気がした。
「そうだ、私に、考えがあります」
頭を回転させたら、俺に、良い方法が思い付く。
「ロネリ姫、リタさん、ルシアネさん、みんなを縛ってもいいですか?」
俺が訊くと、ルシアネさんとリタさんが顔を赤らめた。
ロネリ姫だけ、わけも分からずぽかんとしている。
「冬樹殿、普通のプレイもまだなのに、縛ったりするのはどうかと思いますぞ」
ルシアネさんが言う。
いや、プレイとか言わないでください!
「そうです。姫にはまだ早すぎます。それに、こんな立て込んだときに……」
いやだから、リタさん、縛るって言っても、そういうプレイではありません(ってゆうか、姫には早いってことは、リタさんやルシアネさんにはそういうプレイしていいのか?)。
「少しだけ、縛られてください。それで、姫が国王様を裏切らずに、ここから立ち去ることが出来ます」
咄嗟に思い付いたけど、これからすることは、我ながら良いアイディアだと思う。




