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まりな大好きアタック

「やっぱあれって、ドラゴンだよな」

 俺は、まりなに訊いた。

「うん、ドラゴンだね」

 まりなが答える。


 こっちに向かって飛んで来るドラゴンを、コックピットのふちでしばらくながめた。

 緊張感がないって言われるかもしれないけど、実際に大空を羽ばたくドラゴンを見たら、誰でもこうなってしまうと思う。



 黒いうろこを、ぬめぬめとにぶく光らせたドラゴン。

 その頭には、二本の立派な角が生えている。

 とがった口には、黄色く薄汚れたきばが並んでいた。

 翼から鋭い鉤爪かぎづめが生えている。

 その翼は、広げると50メートルはゆうに超えそうだった。

 その羽ばたきで、木々がねじ曲がって地面に押しつけられる。

 丸々と太った胴体の後ろでは、電車くらいありそうな太い尻尾が、意思を持ったようにうねっていた。



 インスタえしすぎる。

 ドラゴンをバックに自撮りしたら、いい写真になりそうだ。


 いや俺、別にインスタとかやってないんだけど。




 こっちに向かって一直線に飛んで来たドラゴンが、大きく息を吸い込んだ。


「お兄ちゃん、中に入って!」

 まりなが腕を取って俺をコックピット内に引き込む。

 すかさずハッチを閉めた。


 次の瞬間、ドラゴンは吸い込んだ息を火炎に変えて吐き出した。


 俺は反射的に目をつぶる。

 そして、まりなを思わず抱きしめていた。

 抱きしめて、スクール水着(旧型)のなめらかな肌触りがする。



 目を開くと、辺りの木々が炭になっていた。

 上空のドラゴンから、森が放射状ほうしゃじょう禿げてしまっている。


 しかし、この一八式なんとかというロボットのコックピットでは、少しの熱も感じなかった。

 このロボットは、何事もなかったかのようにそのまま立っている。


「大丈夫だよ、お兄ちゃん。この一八式は、溶鉱炉ようこうろの中に放り込まれたって無傷だし」

 抱きしめたままのまりなが、上目遣うわめづかいで言った。


 ドラゴンが大気を震わせるような咆哮ほうこうを上げる。

 火炎にびくともしない一八式を見て、こいつなんなんだって驚いてるのかもしれない。



「それじゃあお兄ちゃん、反撃しよっか」

 まりなが悪戯っぽく言った。


「目から出るビームとか、胸から出すミサイルとか、腰の刀でるとか、爪先にバリアを集めてキックするとか、ドラゴンのえさに毒を混ぜて三日三晩、もだえ苦しみながら殺すとか、反撃の方法は色々あるんだけど、どれにする?」

 まりなが訊いた。


「刀でいい……」

 最後の、毒で三日三晩悶え苦しませるってなんだよ……



「それじゃあ、私の後ろに回って、腕を取ってみて」

 俺は、まりなに言われた通り後ろに回る。

 そして、まりなの腕を取った。


 おっさんがスクール水着(旧型)の少女にかぶさるこの姿は、やっぱり、いつポリスメンを呼ばれてもおかしくない。



「それじゃあ、腰の刀を抜いてみて」

 俺は、言われた通り、まりなの腰の辺に腕を動かす。

 すると、まりなの動きをトレースして、この大型ロボットも同じように手を動かした。

 そして、腰にあった刀を握る。


 そのまま俺が腕を持ち上げると、ロボットも刀を上段に構えた。

 巨大な刀は、表面が濡れたようにあやしく光っている。


「お兄ちゃん、ちょっと待って」

 そこでまりなが急に俺を止めた。


「んっ?」

「ドラゴンに切りつける前に、何か掛け声を叫んだほうがよくない?」

 まりなが変なことを言い出す。


「掛け声って?」

「たとえば、『エクスカリバー!』とか、それっぽいやつ」


「ああ」


 確かに、こういう巨大ロボットに乗ったら、必殺技の前になんか言ってるイメージがある。

 剣の名前とか、技の名前とか。


「でも、『エクスカリバー!』は、ちょっと恐れ多くて恥ずかしいな」

「そう?」

「ああ、ちょっとメジャー感あるし」

 エクスカリバーは、あらゆる物語に引っ張りだこだ。


「この刀の正式名称は、なんて言うんだ?」

 俺は訊いた。

一六式いちろくしき液体金属えきたいきんぞく軍刀ぐんとうだけど」

 まりなが答える。


「『一六式液体金属軍刀ー!』って叫ぶのは、ちょっと字余じあまりかな?」

「うん、ちょっと語呂も悪いかも」


「『一六式ー!』って所だけ叫ぶのは?」

「背中に『一六式スタングレネード』っていう他の武器があるから、『一六式』だけだと被っちゃうかも」

「そうか、困ったな」


 俺とまりなが話し合っていると、しびれを切らせたようにドラゴンが二発目の火炎を俺達に向けて発射した。


 しかし、もちろんこの一八式なんとかというロボットには、傷一つ付かない。


「なんか、ドラゴン怒ってるみたいだな」

「うん、おこだね」


「はやく決めないとな」

「うん、そうだね」

 俺とまりなは考え込む。



「それじゃあ、『まりな大好きアターック!』って叫ぶのはどうかな?」

 まりなが顔を赤くして、少し照れながら言った。


 親父おやじのやつ、アンドロイドのまりなに何を仕込んでるんだよ……

 照れる仕草とか、芸が細かすぎる。


「ダメ?」

 まりなが可愛く訊いてくる。

「絶対ダメ、却下だ!」

 俺が言うと、まりなが「お兄ちゃんの意地悪!」って、口を尖らせた。


 アンドロイドって分かっていてもニヤけてしまう。

 やっぱ、妹っていい。


 俺がそんなことを考えていると、ドラゴンが鉤爪で一八式の肩を掴んで、太い尻尾を巻き付けてきた。

 火炎が効かないとみて、直接攻撃に切り替えたらしい。


 俺はびっくりして上段の構えから刀を振り下ろしてしまう。


「あっ!」


 刃がドラゴンの左肩辺りに入って、そのまま、胴体を真っ二つに斬った。

 切り口は滑らかで、すっぱりと骨まで切れている。

 まるで、熱したナイフでバターの塊を切ったみたいだ。


 二つの肉塊になったドラゴンは、そのまま地響じひびきを立てて地面に崩れ落ちた。

 もうもうと土煙が上がる。


 すると、地面に落ちたドラゴンが、しゅうしゅうと水蒸気を上げながら溶けて、一瞬で骨だけになった。

 ドラゴンの炎で禿げた森に、その骨が散らばっている。


 あっという間の出来事だった。



「つ、つええ……」

 俺は自然と口走っていた。


 TEEEEのは俺じゃなくて、このロボットなんだけど。


 父親が、UFOと戦っても勝てるって言ったわけだ。



「お兄ちゃん、すごい! なんにも教えてないのに、もう一八式を使いこなしてる!」

 まりなが喜々とした顔で言った。

 まりなの頭の後ろで、ポニーテールが跳ねている。


 いや、俺はただびっくりして、刀を振り下ろしちゃっただけなんだけど……



 しかし、この世界は俺を休ませてはくれなかった。


「お兄ちゃん、何かいる!」

 笑っていたまりなが、急に真顔に戻った。


 森から何かが出てくる。

 ドラゴンに焼かれて森が切れたところから、小さな何かが出てきて一八式を囲む。


「馬、かな?」

 一八式は、騎馬に囲まれていた。

 馬に乗った鎧の騎士に囲まれている。


 どこに隠れていたのか、木々の間から、わらわらと無数の騎兵が現れた。


 その先頭に立つ白馬に乗っているのは、銀色の鎧を身に付けた、長い髪の女性のようだった。


 ドラゴンの次は、鎧の女騎士か……



 でももう、俺は大抵のことには驚かなくなっている。


 それに、これはよかったのかもしれない。


 ここは地球ではないみたいだけど、人間が暮らす世界のようだったからだ。



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