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ただいま

 国王直轄(ちょかかつ)地のさかいまで来ると、そこで、騎士のルシアネさんが出迎えてくれた。

 十二騎を従えたルシアネさんが待っていて、そこまでの領主がつけてくれた騎士と、護衛と引き継ぐ。



「冬樹殿、よくぞご無事で」

 ルシアネさんは、馬を降りて馬車に乗る俺の所まで駆けて来た。


 銀色のよろいに身を包んだルシアネさん。

 相変わらず、凜々しい目つきで、胸を張った姿勢が美しい。


「お久しぶりです。どうにか、無事に戻りました」

 俺も馬車を降りて挨拶した。


 身長が180以上あるルシアネさんから見下ろされる。

 ルシアネさんは、年下か、せいぜい同年代なんだけど、姉のように優しい視線で俺を迎えてくれた。


「報告は聞いております。あのような試練を体一つで成し遂げられたこと、感服しております」

 ルシアネさんが深く頭を下げる。


 こんなふうに心から感動してくれてるってことは、ルシアネさんは、ドラゴンの卵に偽物が用意されてたこと、知らないのかもしれない。

 あれは、国王とそれに極近い人物だけのはかりごとだったんだろう(でもまあ、俺は本物の卵持って来ちゃったんだけど)。



「そちらは、お変わりありませんでしたか?」

 俺は訊いた。

「はい、国内はドラゴンの襲撃による大きな被害もなく、また、国境に不穏な動きもありませんでしたし、平和でした」

 ルシアネさんが微笑む。


 俺達は、固く握手をした。



「ロネリ姫様が、お待ちでございます」

 ルシアネさんが笑顔のまま言う。


「姫様、何か新しい情報が入っていないかと、日に何度も私の元においでになって、冬樹殿のこと、本当に心配されておりました」


「そうですか……」

 ちょこちょこと小型犬みたいにまとわりついて、ルシアネさんを追っかけ回すロネリ姫の様子が想像できた。


「姫様、少しの間に、大人になられました。冬樹殿に見合う、立派な女性になるのだと、今まで嫌がっておられた礼儀作法の先生など呼んで、一生懸命、学んでおられたのですよ」

 ルシアネさんが、楽しそうに話す。


「さあ、参りましょう。姫様に、冬樹殿を無事、城までお連れするよう、固くおおせつかっております」

 ルシアネさんが再び馬にまたがった。




 王城への道は、さながらパレードのようだった。

 城に近付くごとに、沿道で見送る人が増える。


 みんなが手を振ってくれるから、俺も振り返した。

 ホントは戦士と呼ばれるようなことは何もしてないし、せめて手を振って声援に応えたかった。


 荷台にはお祝いの品が一杯に積まれて、はち切れんばかりになる。

 運転台まで駆け上がってきた女性が、俺とまりなに花で作った首飾りを掛けてくれた。

 馬車の、ほろや荷台の板の隙間にも花が差し込まれて、馬車は花まみれだ。



 ルシアネさんの騎馬が先導する馬車に乗って、そんなふうにしばらくパレードをすると、やがて、遠くに王城の壁と城門が見えてくる。

 小麦畑の中に浮かぶ、巨大な城。


 懐かしい風景で、自然と目頭が熱くなった。

 ってゆうか、この世界のことがもう、俺の懐古の対象になってることに驚く。

 もう俺の心には、ここが俺の故郷って認識されているのか。



 さらに進むと、城門の前に立つ一八式が見えてくる。

 足を肩幅に開いて胸を張り、ヒーロー然と構えている一八式。

 青空に白い機体が映えている。


「もう、本物と入れ替えたのか?」

 俺はまりなの耳に口を寄せて小声で訊いた。


「ううん。まだホログラムのままだよ。本物は、光学迷彩で真上を飛んでる」

 まりなが平然と言う。


 それにしては、見えている一八式が本物としか思えなかった。

 まりなから種明かしされて知ってる俺ですら本物に見えるんだから、これを偽物だなんて思う人間はいないんだろう。


 おとり用のデコイに映像を投影してるから、足元にはちゃんと影も出来ていた。




 門をくぐって城下町に入る。


 城壁と城壁の間の城下町の人達が、俺を大喝采(かっさい)で迎えてくれた。

 城までの道は、建物の屋根や街路樹の枝の上まで、人がぎっしりと詰め掛けている。

 人があふれて、馬車が進まなくなるほどだ。


 空には紙吹雪や花びらが舞った。


 「よくやった!」とか、「姫とお幸せに!」とか、みんな俺を祝ってくれる。

 楽器の音がしたり、屋台から旨そうな匂いが流れていたり、お祭り騒ぎだ。


 そんな大歓迎の中で、一つだけ、気になることがあった。


 集まった女性達の中に、セーラー服姿の女性をかなりの人数、見掛けるのだ。

 青いセーラーカラーにスカーフ、ミニスカートっていう、基本的なセーラー服。

 旅の途中、ティートがまりなのデーターベースの型紙から作ったセーラー服が、もう、王都まで広まってるらしい。

 ついに、セーラー服まで広めてしまった。


 これは、良かったのか、罪なことをしたのか。


 まあ、女子はドヤ顔で着てるし、その周りの男達は嬉しそうだし、良かったんだろう。





 そして、城内に入る門の前に、その人はいた。


 門の前に、護衛の兵士とリタさんを従えたロネリ姫がいる。


 ウエディングドレスみたいな真っ白なドレスに身を包んだ姫。

 金色のさらさらの髪が、風になびく。

 深い青の瞳は、ルシアネさんが言うとおり、少しだけ大人になった気がした。

 小さくて、愛らしいのは変わらないけれど、どこか、大人を感じさせる、成長した表情をしている。


「冬樹様!」


 ドレスの裾を持って走ってきたロネリ姫が、俺に飛びついた。

 俺は、仔猫のようにジャンプする姫を受け止める。

 姫はそのまま、俺にぎゅっと抱きついて離れない。


「ただいま、帰りました」

 大歓声に包まれてるから、俺は姫の耳元に口を寄せて声を掛けた。


「お帰りなさいませ。婿殿」

 姫が俺を真っ直ぐに見る。


 さっさ、大人になったって思ったけど、訂正。

 涙をぽろぽろこぼして、鼻水を垂らす姫は、やっぱり、無邪気な子供のままだ。



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