表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/87

深い森の中

「お兄ちゃん、お兄ちゃん、起きて」

 気がつくと、目の前にポニーテールの女の子がいて、俺を揺すっていた。

 スクール水着(旧型)の女の子が、膝枕ひざまくらしてくれて、心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。


「お兄ちゃん、気がついた? 大丈夫?」

 そうだ、彼女はアンドロイドのまりなだ。

 父親が作った十八式なんとかというロボットの頭脳で、妹型のアンドロイド。


 俺は、その十八式なんとかというロボットに乗って、宇宙人に戦いをいどんだところだった。

 宇宙人のUFOに向かって飛んでいたら、突然、真っ白な光に包まれて、そして意識を失った。


「お兄ちゃん、起きたんだね。よかった」

 まりなが微笑む。

 俺は、妹に起こされるという、二十九年間生きて初めての経験をした。


 頭に感じる太股ふとももの感触が柔らかい。

 やっぱり、まりなはどこをとっても本物の人間みたいだ。



「ここは? 俺たち一体、どうなったんだ?」

 俺はまりなに膝枕されたまま訊いた。


「うん、ここは一八式重歩兵のコックピットの中だよ。私達、UFOに向かってたんだけど、どこかに飛ばされちゃったみたいなの」


 全面がモニターになったコックピットから外を見ると、周りにはどこまでも木々が続いている。

 このロボットは、深い森の中に立っていた。


 その光景にちょっと混乱する。

 さっきまで街中にいて、その上空を飛んでいたはずなのだ。


「お兄ちゃんが気を失って倒れちゃったから、とりあえず十八式を近くに着陸させたの」

 まりなが言った。


 周囲に建物とか、人工物は見当たらない。

 遠くにかすんで、けわしい山々の稜線りょうせんが見えるだけだ。


 そして俺は、空に例のUFOの姿がないことに気付いた。

 街をおおうほどだった大きな機体が、どこにも見当たらない。


 あるときは目障めざわりで仕方なかったUFOが、こうしてなくなってみると少しさびしい感じがするから不思議だ。


「どこかに飛ばされたって、俺達を飛ばしたのは宇宙人なのか?」


「分からない」


「ここがどこだか分かる?」


「さっきから試してるんだけど、地上のあらゆる電波が受信できないし、GPSの電波が一つもつかめないの。だから、ここがどこか分からない」

 まりなが表情を曇らせる。


 俺は、まりなの太股から頭を上げた。


「お兄ちゃん、大丈夫?」

「ああ、ちょっと立ちくらみはするけど大丈夫だ。そっちは大丈夫?」


「うん、私も一八式重歩兵にも異常はないよ。全システムが正常に作動してる」


「そうか、よかった」


 それにしても、親父のやつ、このロボットなら宇宙人に絶対勝てるって言ってたくせに、惨敗ざんぱいじゃないか。

 UFOに向かってったら、どっかに飛ばされて簡単にあしらわれた。


 マジで死なないだけましだったのかもしれない。

 帰ったらこの件、徹底的に追求してやる。



「だけど、全システムが正常に作動してるのに、GPSの電波が掴めないってどういうことだ?」

 俺は訊いた。


「ごめんね。それが分からないの」

 まりなは、本当に困ってるみたいだ。

 AIである彼女にも想定外の事態らしい。


「こんな深い森、日本では見られない風景だし、遠くに見える山脈も見たことがないから、どこか、外国なのかな?」


「うん、そうかもしれない」


「突然こんなロボットが来て、外国の軍隊に敵と間違えられて攻撃されたらたまらないな」

 まさか、そんなことはないとは思うけど。


「大丈夫、この一八式重歩兵は、最大1024の標的を同時に攻撃出来るし、地上の兵器なんて相手にならないから」

 まりなが平気な顔で恐ろしいことを言う。


「少し休んでお兄ちゃんが元気になったら、空からこの近くに建物がないか探そう。それで、ここがどこか分かるかもしれない」


「ああ、そうだな」


 まりなはスクール水着(旧型)を着た中学生の姿なのに、なんだか頼もしかった。


「私は、周りに敵がいないかちょっと外を偵察してくるね。お兄ちゃんは、ここで待ってって」

 まりなが立ち上がる。


「大丈夫なのか?」


「うん、私はアンドロイドだし、身体能力は人間以上、両手に内蔵火器も備えてるから」

 見掛けによらず、物騒なやつだ。


「でも安心して。私はお兄ちゃんを守るようにプログラムされてて、お兄ちゃんには絶対に手を出さないから」

 すっ、すごく安心した。


「ちょっと、準備するね」

 まりなはそう言うと、コックピットの壁に触れる。

 すると、壁の一部が引き出しみたいに開いて、中からランドセルが出てきた。

 赤い革の、一般的な形のランドセルだ。


「なんだそのランドセルは?」


「これは電池パック。一八式には『コア』から無限のエネルギーが供給されるけど、私は、この一八式からワイヤレスで給電を受けて動いてるから、十八式から50メートル以上離れると動けなくなるの。だから、50メートル以上離れる時はこの電池パックを背負わないといけない。この電池パック一つで8時間まで動けるの」


「なるほど」


 まりながランドセルを背負った。

 電池パックのデザインをランドセルにした親父のセンス……


 まりなは、「スク水ランドセル」っていう、一部のマニアにスマッシュヒットする姿になっている。



「それじゃあ、ちょっと行ってくるね」

 まりながコックピットのハッチを開いた。

 外から、木々の香りを含んだ涼しい空気が吹き込んでくる。


 ところが、コックピットの外に出て行こうとしたまりなが、遠くを見て途方とほうにくれたように立ち尽くした。


「お兄ちゃん、ここ、地球じゃないかもしれない」

 突然まりながそんなことを言い出す。


「いや、なに言ってるん……」


「だってほら、むこうからドラゴンが飛んでくるもの」


 嗚呼ああ……


 両翼合わせて50メートルを超えるような大きな翼を羽ばたかせて、黒々としたうろこのドラゴンが一直線に飛んで来る。


 俺の知る限り、少なくともそれは地球上の生物ではない。



 宇宙人とUFOの次は巨大人型ロボットで、その次が妹型アンドロイドに、マッドサイエンティストだった父親、そして今、俺に向かって来るのはドラゴンだ。


 今の俺の心境しんきょうを表すと、もう、どうにでもなあれ~、ってとこだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ