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「なんか今、この子にお兄ちゃんって呼ばれたような気がするんだが」

 俺は父親にジト目を向けて言った。


 俺は一人っ子だ。

 もちろん妹などいない。

 中学生くらいの女の子に知り合いはいないし、その子からお兄ちゃん呼ばわりされるわれもない。


 でも待てよ。


 まさか、いやまさか、親父のやつ、隠し子とか、他所よそで家庭とか作ったりしてたんだろうか?


 このくりっとした目の可愛い子が、実はまだ見ぬ俺の妹だったとかいうロマン……



「はははっ、冬樹、驚くでないぞ! この子は、この試製一八式重歩兵の頭脳である、超高性能AIを搭載した妹型アンドロイドの『まりな』だ!」

 父親が言い放つ。


「よろしくね。お兄ちゃん」

 その少女が小首こくびかしげながら言った。


 いやだから、まだ巨大ロボットの件も片付いてないのに、アンドロイドとか出してくるなよ。


 それも、妹型?


 ああ、ぼけが渋滞しすぎていて突っ込みが追いつかない。



「どうだ、どこから見ても、人間と変わらんだろう。この『まりな』は、私の最高傑作の一つだ」

 父親が、その「まりな」というアンドロイドの頭をでながら言った。


 確かに、父親の言う通り、そいつはどこから見ても人間の女の子にしか見えない。

 アンドロイドとか言うけど、動きが自然だし、ちゃんと呼吸するみたいに胸が動いてるし、時々、まばたきもしていた。

 肌の質感とか産毛うぶげとか、髪のおくれ毛とか、細部まで人間だ。


「アンドロイドとか馬鹿なこと言うな……」

 って言いかけたら、「まりな」が両手を頭にやって、そのまま胴体から引き抜いた。

 胴体から分離した頭を、両手が持っている。

 首の部分に胴体とのジョイントである金属のパーツが見えた。

 胴体から離れた頭が、にっこり微笑む。


 確かに、アンドロイドだった。

 ぐうの音も出ねえ……


 よし、こうなったら一つ一つ、解決していこう。


「で、なんでこのロボットのAIが人間型をしてるんだ? それも可愛い女の子で妹型ってどういうことだ!」

 俺は親父を問い詰めた。


「妹の形をしている『まりな』は、マンマシンインターフェイスとして、人間とロボットのけ橋に最適なのだ。従順な妹キャラが優しく操作方法を手取り足取り教えてくれる。となれば複雑なロボットの操縦も、スムースに行えるだろう? 彼女が優しくサポートしてくれる。ゆえに今回、この試製一八式重歩兵の頭脳として、妹型アンドロイドを採用してみた」

 父親が言う。


 なんか、解ったような解らないような……


「それにお前、小さい頃、よく妹が欲しいって言ってただろう?」

「はあ? まあ、言ってたかもしれないが」

 子供の頃の話だ。

 妹がいる友達をうらやましがって、そんなことを口走ったかもしれない。


「昔、私も、小さなお前の要望に応えて、妹を作ろうとしたんだ。しかし、残念ながらその頃すでに父さんと母さんの間は、すっかり冷め切っていた。私達は仮面夫婦だったんだ。だから父さんは、お前のために母さんと妹を作るのは断念した。私は、それをいつも心残りに思っていたんだ。そして、そんなお前に妹を作ってやる約束を果たそうと、今回、このアンドロイドを作る際、それを妹型にしてみた。どうだ、嬉しいだろう」

 父親が、恩着せがましく言った。

 余計なお世話だ。

 仮面夫婦とか、今さら父親と母親の悲しい過去を語られる俺の身にもなってみろ……



「国家的巨費を投じた、この試製一八式重歩兵制作の中でも、その頭脳であるアンドロイド『まりな』の制作には多くの予算をいたんだ。この子の声に聞き覚えはないか? この子のCVは、声優の結城彩菜ゆうきあやなが担当している」

 結城彩菜って、確か、売れっ子のアイドル声優じゃないか。


「彼女を6ヶ月この仕事専属にして、あらゆるパターンのサンプルを取った。だから、この子は自然な発音であらゆる言葉をしゃべることが出来る」

 父親がまりなの頭を撫でた。

 ああ、そう言えば、露出が少なくなったあの声優に、引退説とか結婚説が流れてたのはそのせいか。


 ってか、そんなことに巨費を投じていいのか!


「さらに、NGワードもない。エッチな言葉だってしゃべるぞ、なっ、まりな」

「はい、エッチな言葉もしゃべれます!」

 まりなというそのアンドロイドが、嬉々とした顔で言う。


 なにやってんだよ!

 そんなんだから母親に愛想あいそ尽かされたんじゃないのか。



「それはいいとしてだ……」

 ホントはよくはないけど。


「それはいいとして」

 さっきから、俺には確認しておくべき謎があった。


「なんでその妹型アンドロイドは、スクール水着(旧型)を着てるんだ!」

 俺は言い放った。


 ロボットのコックピットから出て来たときから気になって仕方なかった。

 この「まりな」というポニーテールのアンドロイドは、裸足で、紺のスクール水着(旧型)だけを身にまとっているのだ。

 そのスクール水着(旧型)には、ご丁寧に、胸に「まりな」と書いたゼッケンまで付けていた。


「なんだ、そんなことか」

 父親が、ヤレヤレみたいな顔をしやがる(こっちのほうがヤレヤレなんだが)。


「このまりながスクール水着(旧型)を着ている理由はもちろん、ある。それは、この子がこの一八式重歩兵の頭脳であると同時に、マスタースレーブのマスターであるからだ。操縦するときに体の動きがよく分かるようにとの配慮はいりょで、スクール水着(旧型)を着せている。別に、鑑賞目的とか、そういう理由ではない」

 父親が言った。


「マスタースレーブ?」


「ああ、この試製一八式重歩兵は、この『まりな』をマスターとして、その動きに同調する。そうだな、たとえば、この『まりな』の腕を上げると、この十八式の腕も上がる。従って、一八式を操縦するときは、『まりな』の後ろに回って、こうやって手を取るスタイルになる」

 父親はそう言って、まりなの後ろにまわった。

 「まりな」の右腕を取って、それを空に向かって挙げる。

 すると、目の前の巨大なロボットも同じように右手を挙げた。

 続いて「まりな」の左手を挙げると、ロボットも左手を挙げて万歳した。


「もちろん、足を上げれば一八式の足も上がるが、歩いたり走ったりするときは、ただ命令すればいい。一々、足を一歩一歩動かす必要はない。倒れそうになってバランスを取るときも、自動的にバランスを取る」

 父親が「まりな」の腕を下ろさせると、この一八式なんとかというロボットも腕を下ろした。


「さあ、お前もまりなの後ろに回って、動かしてみろ」

 父親に言われて、俺も、まりなというアンドロイドの後ろに立った。

 その細い腕を取る。


 到底アンドロイドには思えない、柔らかい感触だった。

 本当に人間の女の子みたいだ。

 さらには、髪からシャンプーの香りがするし、スクール水着(旧型)からは、微かに甘い柔軟剤の香りがした。


 それはいいとして……


「おい! 操縦してる姿が、スクール水着(旧型)の少女におっさんが後ろからおおかぶさっているっていう、事案じあんでしかないんだが!」

 自分の今の状態を客観的に見て、そう思った。

 まりながちょっと恥ずかしがって上気してるし。


 ロボットを操縦するって、なんかもっとこう、カッコイイ感じじゃないのか。

 ア○ロ行きまーす! 的な掛け声があったり、エントリープ○グ的なカッコイイコックピットだったり。


「おかしなことを言うな。これはマスタースレーブだと言っただろう。これが正しい操縦姿勢だ。それに大丈夫。このコックピットの中は、基本、外に見えない」

 基本、ってなんだよ。

 例外を作るな!


「なんだお前、この『まりな』が不満か? そんなに不満なら、他にお姉さん型アンドロイド『みさき』とか、熟女型アンドロイド『かおる』とか、S型アンドロイド『ちあき様』とか、M型アンドロイド『みくる』とか、色々用意してるが、そっちに替えるか?」


「いや、そういうことじゃなく!」


「チェンジですか?」

 まりなが、涙目で僕を見上げる。


「チェンジとか言うな!」

 まったく、アンドロイドになに覚えさせてんだ!


 それにしても、スクール水着(旧型)の少女に涙目で見詰められて、なんかこう、情のようなものがいてくる。

 本当の女の子から見詰められてるみたいだ。


 これが、妹型アンドロイドの魔性か……



「まっ、まあ、この『まりな』でいいから」

 おい俺、なにこのロボットに乗る前提で答えてるんだ……


「ありがとう! お兄ちゃん、大好き!」

 まりなが抱きついてくる。

 その感触は柔らかかった。

 抱きつかれて、中学生らしい少し固い胸の感触が伝わってくる(いや、俺は女子中学生の胸は触ったことないんだけど。ええ、断じてないです)。



「とにかく、操作方法はこの妹型アンドロイド『まりな』が教えてくれる。だからお前は、これで宇宙人と戦うのだ!」

 父親が俺に向けて親指を立てた。

 口元から覗いた歯が、キラッと光る。



「ちょっと待て!」

 勢いに流されるもんか。


 俺は、これから根本的な質問をしようと思う。


「そもそも、なんであんたがこんなロボットを作ってるんだ!」

 俺は父親に訊いた。


「てか、あんたは何者なんだ!」


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