視察団
今日もまた、ロネリ姫のお尻に顔を潰されて起きた。
朝、目が覚めると、白いフリフリのネグリジェを着た姫の可愛いお尻が、俺の目の前にある。
姫の寝相、悪すぎだろ。
それなのに、右隣に寝ているリタさんとのラッキースケベはなぜか起こらない。
その大きな胸が、俺の横、10㎝と離れていない所にあるのに……
「お兄ちゃん、おはよう」
左隣に寝ているまりなが、首をこっちに向けた。
「うん、おはよう」
アンドロイドのまりなは眠る必要がないのだけれど、一晩中ベッドサイドに立っていたらロネリ姫やリタさんが不審に思うから、一応、ベッドに仰向けで横になっている(でも、一晩中、寝返りも打たずにぱっちりと目を開けているのは止めて欲しい)。
「異世界に来てすぐに、こんなふうに可愛い女子三人を同じベッドに寝かせるなんて、お兄ちゃん、そのうち国王以上のハーレムを築くんじゃない?」
まりながそんな憎まれ口を叩く。
「そんなわけあるか!」
確かに、俺はロネリ姫とそのメイドリタさん、そしてまりなと一緒に一つのベッドに寝ていた。
でもこれは、向こうから押しかけて来たのだ。
ロネリ姫が俺の部屋に強引に引っ越してきて、俺達はこの部屋に四人で暮らしていた。
部屋の中はロネリ姫の好みに合わせて、すっかりメルヘンチックに変えられている。
家具は、パステルピンクと白を基調にしたもので揃えられていた。
クローゼットやチェストの中は、姫の服7割、リタさんの服2割5分、俺の服5分っていう割合で埋まっている。
「どうでもいいけど、姫を元に戻してあげれば? いつまでも、そのお尻に敷かれてないで」
まりなが言った。
確かに、俺のほっぺたは姫のお尻で潰れされたままだ。
「ああ、そうだな」
俺は、姫をお姫様抱っこして元の位置に寝かせた。
リタさんを挟んだ場所に姫を寝かせる。
姫のネグリジェの裾がまくれ上がってパンツが丸見えだから、直してあげようとしてたら、
「おはようございます」
そのタイミングでリタさんが目を覚ました。
起きたばかりのリタさんと、ばっちり目が合う。
リタさんは俺と姫を見て目を剥いた。
俺は今、ロネリ姫のネグリジェの裾を持っている。
姫のパンツと可愛いお臍が見えていた。
この場面だけ切り取られると、俺が姫のネグリジェをめくって、パンツを覗いているように見えないこともない。
ってか、それにしか見えない。
次の瞬間、目の前が真っ白になって意識が飛びそうになった。
リタさんの鋭い右拳が、俺の頬を捉える。
リタさん、グーパンチはダメだ。
俺は、リタさんにKOされて無様に絨毯の上を転がる。
俺の無実を説明するのに、小一時間かかったのは言うまでもない。
「冬樹殿、そのほっぺたどうなされた?」
朝食のあと出仕すると、俺の顔を見たルシアネさんに心配された。
「いえ、ちょっと転んでしまって」
俺は適当に誤魔化す。
「そうでしたか。私はてっきり、冬樹殿がまた、辺り構わず女子の胸を揉みしだこうとして、殴られたのかと思いましたぞ」
ルシアネさんがそう言って笑う。
また、ってなんだ?
俺、そんなことしてたのか……
もしかして、あの記憶をなくすほど飲んだ祝勝会で、俺はそんなことをしたのか?
なんか、一気に周りの目が気になり始めた。
俺は、異世界から来た強靱な戦士ではなく、エロ戦士として見られてるのかもしれない。
女子の胸を揉みしだいた上に、ロリコン疑惑って、俺、どんな奴なんだ……
ってゆうか、もし俺が酔って辺り構わず女子の胸を揉みしだいたなら、せめてその記憶が残ってて欲しい。
今日は朝から、隣国の視察団の前で一八式を披露して欲しいと頼まれた。
「軍師や騎士からなる視察団が来ているので、余興の代わりに彼らの前で巨人を動かしてください」
ルシアネさんに頼まれる。
隣国とは同盟関係にあるのだけれど、向こうは一八式に興味津々らしい。
そういうわけで俺は、久しぶりにまりなと二人で一八式のコックピットに入った。
俺はコックピットの中でスクール水着(旧型)のまりなに覆い被さる(あくまでもこれは、操縦するときの標準姿勢だ)。
この国の騎士とは違う、紫色の制服に身を包んだ視察団の前で、俺は一八式を歩かせた。
腰の刀を抜いて、それを振って見せる。
20メートルを超える巨人が歩くだけでもびっくりしているのに、それが滑らかに刀を振る姿を見ると、視察団の誰もが顎が外れそうなくらい口を開いて驚いていた。
「国王様は、隣国の軍師や騎士に、この一八式を見せつけたかったんだろうね」
まりなが言う。
「ああ、そうだな」
国王は、召喚に成功した俺と一八式を見せたいんだろう。
この国には絶対的な力を持つ兵器があるって、自慢したいのだ。
そして、万が一にも隣国がこの国への領土的野心を持たないようにと、牽制するのが目的らしい。
「だったら、お望み通り、見せてやろうよ」
まりなが悪戯っぽく言う。
「みんなをびっくりさせてやろう」
まりなはそう言うと、一八式を宙に浮かせた。
そのままスピードをつけて視察団の頭の上をぐるりと飛ぶ。
一八式はマントをなびかせて青空を舞った。
モニター越しにみる視察団の面々は、驚きを通り越して固まっている。
まりなは一八式を彼らの目の前で止めて、すっと静かに下りた。
視察団の団長である軍師の前に下りて、膝を折って見せる。
視察団はどうにか拍手で応えたけれど、その表情は明らかに引きつっていた。
次に、草原に置いた100体のかかしを同時攻撃するデモンストレーションを見せる。
1024の目標を同時攻撃出来る一八式にとって、100体の目標は造作なかった。
木の剣や盾を持ったかかしは、100体同時に一瞬で灰になる。
外科手術のような正確さでかかしだけ燃やして、他には草木1本傷つけなかった。
隣国の視察団は、最初から最後まで驚きっぱなしで帰って行く。
帰って行く視察団に向けて、一八式で手を振って見送ってやった。
「冬樹殿! 大義であった」
視察団を送り出して城に戻ると、興奮気味に近づいてきた国王が俺の両肩を掴んだ。
「あっぱれな働きぶりであった。これで、我が国の力をまざまざと見せつけることが出来たであろう。隣国との無用な戦を避ける意味でも、大変有意義であった。そなたの働き、騎士100万騎にも値しよう」
国王が、満面の笑みで言った。
大袈裟すぎるけど、悪い気はしない。
向こうの世界での上司も、この百分の一でもこんな態度を見せてくれたら、仕事だってもう少しやりがいがあったんだろう。
「褒美はなんでも取らそう。好きなものを申せ」
国王は太っ腹にそう言った。
「お帰りなさいませ!」
一仕事終えて部屋に帰ると、ロネリ姫がドアの前で待ってくれていた。
「ただいま」
俺はそう言って姫の頭をなでなでする。
すると姫は、嬉しそうに俺にされるまま頭を差し出した。
俺が姫の婿になるかどうかは別にして、やっぱり、こうやって「お帰りなさい」と言ってもらえるのは嬉しい。
そして、「ただいま」と言える相手がいるのが嬉しかった。
元の世界では、一人暮らしのワンルームマンションに寝るために帰るだけの毎日だったのだ。
「冬樹様、お顔、大丈夫でしたか?」
リタさんが心配そうに訊く。
「ええ、なんでもありません」
ホントは、まだ奥歯の辺りが痛かったけど(俺は、もう絶対にリタさんを怒らせないって決めている)。
「冬樹様、お風呂にしますか? それとも、ロ・ネ・リ?」
ロネリ姫が上目遣いで訊いた。
お姫様ジョーク、ちょっと俺にはレベルが高すぎる。




