表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/87

勲章

 まずい、飲み過ぎた……


 俺は、馬車に揺られながら、頭にズキズキくる二日酔いの痛みに耐える。

 二日酔いに馬車の振動が加わって何度も吐きそうになった。


 しかし、俺の活躍を祝ってくれるパレードの最中だし、つらそうな顔をするわけにもいかない。


 俺は、沿道に詰めかけた人達に手を振って答えた。

 苦痛でゆがむ顔に、無理に笑顔もひねり出す。


 ドラゴン殺しの英雄を演じるのも、中々大変だ。




 昨日の夜、二匹目のドラゴンを倒したあと、城内で開かれた祝勝会でワインを浴びるほど飲んだ。

 大柄なルシアネさんや他の騎士達が勧めるままに、次々に注がれるワインを飲んでたら気持ち良くなって、そのうち意識が飛んだ。


 朝になって目が覚めると自分の部屋にいて、真っ裸でベッドに寝ていた。

 眠らないアンドロイドのまりなが、ベッドサイドで俺をジト目で見ていた。


 今日は、国王が俺の武勲ぶくんたたえて勲章くんしょうをくれるってことで、会場のホールに行く前に、こうして城下町を馬車でパレードしている。


 俺は、仕立屋が徹夜で用意してくれた礼装を着ていた。

 前立に金色のボタンが二列並んだ紺の詰め襟に、白いパンツ、膝丈のブーツを履いて、ベルベットのマントを羽織っている。


 一応、格好だけは立派な騎士に見えた。


 二頭引きのオープンの馬車にまりなと乗って、城下町を回りながら民衆の声援に応える。


 こんな派手な場所は俺の趣味じゃないけど、民の声に応えるのも戦士の役割だと説得されて、仕方なくパレードに応じた。


 ここでも、相手を説得するより、粛々(しゅくしゅく)と済ませてしまったほうが早いっていう、社畜時代に身についた習慣が出てしまう。


 だけど、無理に駆り出されてみると、こうしてパレードするのもまんざらでもなかった。


 沿道のみんなが、拍手をしたり、手を振って俺を迎えてくれる。

 小さな女の子に花束を渡されたり、綺麗なお姉さんが馬車のステップに飛び乗って来て、ほっぺたにキスをしてくれた。

 空には花びらや紙吹雪が舞っている。

 みんな、心から喜んでくれていた。


 ドラゴンを退治した俺は英雄だった。


 自分にも人の役立つことがあるんだって思えて嬉しい。

 この城下町と人々の笑顔をドラゴンから守れて、素直に嬉しかった。



「まりな、どうしたんだ?」

 ところが、せっかくの祝いの場だっていうのに、馬車で隣の席に座るまりなは、俺に口を聞いてくれない。

 まりなは朝から怒っている。

 スクール水着(旧型)を着て、ランドセル型電池パックを背負ったまりな。


「ほら、まりなも手を振って。どうしたの?」

 俺はその顔を覗き込んだ。


「どうしたって、自分の胸に聞いてください!お兄ちゃんが、昨日の夜、何をしたのか!」

 まりながそう言って口をとがらせる。


「ごめん、全然、覚えてないんだけど」

 つぶれて、ぷっつりと意識がなくなって、全く記憶がなかった。

 部屋までどう帰ったかさえ分かっていない。


「まさか、お兄ちゃんが、メイドのリタさんとか、騎士のルシアネさんに、あんなことするなんて思わなかったよ」

 まりなが投げ捨てるように言った。


「はっ?」


「妹として、恥ずかしかったよ」

 何も見たくないって感じで目をつぶるまりな。


 そんな……

 俺は、リタさんやルシアネさんに何をしたんだ?


「お兄ちゃん、エッチなのはいけないと思います!」

 アンドロイドのまりなが、どっかで聞いたようなセリフを言う。


 ちょっと待て、俺はホントに何をしでかしたんだ……

 リタさんやルシアネさん相手に、何をした。

 思い出せ俺。

 頑張れ俺のシナプス!

 だけど、何も思い出せない。


 このあと、リタさんやルシアネさんに会うのが怖い。




 城下町を一周したパレードが終わると、俺は、叙勲じょくん式のために城内のホールに案内された。

 まりなを控え室に置いて、式には俺一人でのぞむ。


 高さ5メートルはありそうな重厚なドアが開いて、ファンファーレで迎えられた。

 ファンファーレを鳴らしているのは、ラッパのような金管楽器を持った軍楽隊だ。


 壁中に貼られた金箔きんぱくで黄金に輝くホールには、礼装の騎士や文官、大勢のきさきや姫が並んでいた。

 総勢、1000人規模が整列している。


 俺はホールの真ん中にかれた赤い絨毯じゅうたんの上を歩いて、国王の前まで進む。


 奥の玉座ぎょくざの上で、国王は満足げな笑顔をたたえていた。

 やはり、シャンプーハットみたいな襞襟ひだえりに、ちょうちんズボン、ぴっちりとした白いタイツというスタイルは変わらない。


 俺は王の前まで進むと、ホールの入り口で言われた通り、膝をついて王にかしずいた。


今般こんぱんの貴公の働き、大いに目覚ましく、よってここに、アメーデオ武功勲章を授与する」

 侍従がお盆のような長方形のプレートに載せた勲章を持ってきて、女官が俺の肩にそれをつけた。

 星形の銀のメダルに、赤と深緑の長いリボンがついた飾りが、この国の勲章らしい。

 ホールに居並ぶ騎士や文官も、肩からたくさんのリボンを垂らしているのが見えた。


「戦士殿、これからもと余のたみのためにくして欲しい」

 国王に言われて、俺は頭を下げる。



 叙勲式のあとは、そのお披露目のために城のバルコニーに移った。

 繊細な彫刻が施された石造りのバルコニーは15メートルくらいの高さがある。

 バルコニーに面した城の前の広場には、そこを埋め尽くすほどの民衆が集まっていた。


 バルコニーから、国王と共に民衆に向けて手を振る。

 広場に拍手と歓声が響いた。


 ふ・ゆ・き!

 ふ・ゆ・き!


 と、人々が俺の名を連呼する。


 するとそこに、ロネリ姫が現れて俺の隣に立った。

 俺は、国王と姫に挟まれた形になる。

 ロネリ姫も、広場に向けて一緒に手を振った。

 さすが人気者の姫だけあって、歓声は一際ひときわ大きくなる。



「冬樹殿」

 手を振りながら、横に立つ国王が俺に話しかけてきた。


「はい、なんでしょう?」


「冬樹殿、どうだろう? 姫を、ロネリを妻に迎えてみる気はないかな?」

 国王はなんの前触まえぶれもなく、そんなことを言い出す。

 柔和にゅうわな王の眼光が、一瞬、鋭くなるのを見た。


「はい?」

 返事をする俺の声は、四回転半くらい裏返ってしまう。

 一体、何を言い出すんだ!


「ロネリをめとってはくれないだろうか。そなたのような戦士が婿むこになってくれれば、余も心強い。この国も安泰あんたいで、領民もドラゴンの襲撃におびえることなく、安心して生活出来る。民がすこやかなら、この国も安泰あんたいだ」

 国王が、眼下の領民を見ながら言った。


「いえ、しかし……」

 突然のことで、まだその言葉の意味も理解できない。


 ロネリ姫が、妻に?

 俺の?


「い、いえ、俺なんかに姫は……それに、ロネリ姫のお気持ちもあるでしょうし……」

 って、姫の方を見たら、姫は目をうるうるさせて、嬉し涙を流さんばかりの顔をしている。


 いつでも私をもらってください的なオーラを出していた。


 姫、いいのか……


 いや、いくらなんでもまずいだろ。


 元の世界でいえば、ロネリ姫は小学校高学年くらいの年齢なのだ。


 元の世界なら俺は、英雄どころか犯罪者だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ