プロローグ
巨大な人型ロボット。
お兄ちゃん大好きな可愛い妹。
ロリでツルペタで生意気なお姫様。
母性本能にあふれた巨乳メイド。
忠実で腕の立つ長身の女騎士。
俺は、およそ男がこの世に生まれ落ちて欲するであろう、すべてを手に入れた。
その全てが今、俺の手の中にある。
他に望むものはない。
これ以上、なにを望むというのだろう。
これ以上を手に入れたとしたら、その時俺は、神と呼べる存在になっているのかもしれない。
しかし、それを手に入れた代償に、俺は帰るべき場所を失った。
愛すべき故郷を失って、こうして異世界で暮らしている。
「ほら、婿殿、あーんをするのじゃ」
目が覚めると、俺の口に林檎の破片がねじ込まれようとしていた。
「ロリうるさいぞ。もう少し寝かせてくれ」
俺は布団を被る。
あえて「林檎の破片」と評したのは、それが下手くそなナイフ捌きで剥いてあって、「林檎の破片」としか表現しようのない代物だったからだ。
「うー、余の名はロネリじゃ。余の名を略すでない!」
布団が剥ぎ取られた。
金色の髪の少女がほっぺたを膨らませている。
少女の青い瞳は、真っ直ぐ俺に向けられてた。
「ロリはロリだろ。そんなぺったんこなおっぱいしてるし」
俺はそう言って背を向ける。
「ぺぺぺっ、ぺったんことな!」
ロネリは顔を引きつらせた。
上品な紺色のワンピースドレスに身を包んだロネリ。
「うわぁん、リター、婿殿がロネリのこといじめるのじゃー」
ロネリはメイドのリタに抱きついた。
リタのふくよかな胸に顔を埋める。
「はいはい、姫様お可哀想に。冬樹様、女子にそんなことを言ってはいけませんよ」
リタに怒られる。
彼女は元々、ロネリ付きのメイドだったのが、ロネリがこうして俺の押し掛け女房になったことでついてきた。
栗色の長い髪に、目尻が下がった優しい顔つき。
二十代前半で俺よりも年下なのに、落ち着いていて、こうしてたびたび諭される。
年下なのに、お姉さん感がハンパない。
そしてなにより、巨乳だ。
巨乳であり美乳だ。
「姫様、大丈夫です。私も、姫様くらいの頃はぺったんこでございました」
リタはロネリを抱きしめて、優しく背中をさすった。
「本当か?」
涙目のロネリが顔を上げる。
「はい、本当でございます。もう少しすれば、姫様もきっと大きくおなりになります」
リタがロネリに優しく語りかけた。
見たところ、そんなに大きくなるとは到底思えないのだが……
「姫様の大きくなったお胸で、冬樹様を見返してやりましょう」
「そうじゃな。婿殿、その頃になってぱふぱふさせてくださいとか言っても、遅いんじゃぞ!」
ロネリが言う。
なんだよ、ぱふぱふって……
俺達がいつもと変わらないそんな会話をしていると、馬の蹄の音が近づいて来た。
リタが窓を開ける。
窓から、白馬に乗った騎士の姿が見えた。
「冬樹殿! ドラゴンがこちらに向かっております!」
馬上にいるのは、銀色の鎧を身に纏った騎士のルシアネ、通称ルーシーだ。
「分かった。ルーシーはロネリとリタを頼む。二人を守れ」
俺はベッドから起き上がった。
「畏まりました。この命に代えて」
騎士はスカートを翻して馬を下りると、胸に手をやって膝をつく。
この騎士、忠実で礼儀正しいのはいいけど、ちょっと大袈裟すぎる嫌いがある。
丁寧すぎて、慇懃無礼な感じだ。
だけど、俺より背が高いし、剣の腕は確かだし、彼女に背中を任せておけば大丈夫だという、絶対的な安心感があった。
「婿殿、ご武運を」
ロネリが言って、爪先立ちで俺のほっぺたにキスをする。
こいつ、ロリのくせして、ちょっとませている(そして、キスが上手い)。
「いい子にしてろよ」
俺はそう言ってロネリの頭を撫でた。
俺が指笛を吹くと、それまで光学迷彩で隠れていた二十メートルを超える巨大人型ロボットが姿を現す。
ロボットは手を伸ばして、俺を地面から胸のコックピットへ運んだ。
「お帰りなさい、お兄ちゃん」
コックピットの中で、ポニーテールの少女が俺を待っていた。
「よし、まりな、行こうか」
俺はその少女の背後に回って、腕を取る。
「はい、お兄ちゃん」
さあ、ドラゴンなんて、刀の一振りで蹴散らしてしまおう。
巨大な人型ロボット。
お兄ちゃん大好きな可愛い妹。
ロリでツルペタで生意気なお姫様。
母性本能にあふれた巨乳メイド。
忠実で腕の立つ長身の女騎士。
俺は、およそ男がこの世に生まれ落ちて欲するであろう、すべてを手に入れた。
その代償に、帰るべき場所を失った。
愛すべき故郷を失って、こうして異世界で暮らしている。
なぜ、こんなことになったのかと、それを説明するには、少し時間を巻き戻す必要がある。