⑥ こっとん1999 著
「時間だ……」
作戦決行時、伊佐間が呟いた。
「……はい」
私は、やはり怖かった。「心」に巣食う怪異に打ち勝てるのか?
このままあっさりと負けてしまうのではないか?そんな疑念が渦巻き始めた。
大丈夫、きっとやれる。私は決めた、絶対にやってみせると。そう言い聞かせた。
「よし、時間だ……作戦、というほどの物ではないけど、一応確認をしておこう。君はここに居るだけでいい。おそらく怪異はすぐ君に取り憑き全身の機能を奪いに来るだろう。精神力を最大まで増強した君なら確実に耐えられる。後は……自分を忘れないことだ。辛く厳しい戦いになると思うけど……頑張ってくれ」
「はい!」
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それからどのくらい時間が経ったのだろうか?5分?10分?その時は唐突に訪れた。
「っ!?」
確実に……空気が変わった。何かがおかしい……
重く苦しく、ねっとりと絡みついてくるような寒気。まるでこの世のものではない何かが隣に居る!
『カラダ……チョウダイ?カラダ……』
突然、右半身が重くなる。まるで鉄のような……気がつくと目の前には黒い靄が……
『カラダァ……ワタシニ、カラダァ!』
「嫌だ!」
『……ノコリモ……ヨコセェ!』
だんだん感覚がなくなっていく……手が、足がそこにあるはずなのに、なにもない。怖い……私が私じゃ無くなるような……辛い……何もかも投げ捨てて楽になりたい!そんな時、彼の言葉が浮かんだ
《君なら確実に耐えられる》
そうだ!自分を助けてくれる人がいる。先程の決意は飾りだったのか?軽く答えたのか?断じて違う!私は、負けない!
「理沙君!良く頑張った!もう大丈夫だ!六根清浄、急急如律令!急急如律令呪符退魔!お前を全力で滅する!!」
『ッ!?』
伊佐間が素早くお札を私に貼り、呪文を唱える。
六根清浄、急急如律令(ろっこんせいじょう、きゅうきゅうにょりつりょう)
意味は、至急に六根(眼、耳、鼻、舌、身、意)を清めよ。これにより体に取り付くモノを落とす。
急急如律令呪符退魔(きゅうきゅうにょりつりょう、じゅふたいま)
意味は呪符を用いて魔を直ちに退散させよ!だったかな?
『ッ!!……!?……』
どうやら効果は抜群、怪異は私の体から離れとても苦しんでいる。
『カ……ナイ………』
「え?」
『カイ…ハケ…テ、オワラ…イ。……トキガ……ラ…………』
こうして、怪異は消えた。私は無事に体が動くようになり、涙した……また立って歩けることに感謝した。
その後、いつも通りの日常が帰って来た。伊佐間とはたまに連絡を取りあい、充実した毎日を楽しんでいる。
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あの日から五年。私は小説家になった。あの日の事を忘れないためにと書いた物語が大ヒット!そう考えると、あの出来事も悪くはなかったのでは?と思えたり思えなかったり。ただ、気になるのが……怪異が消える直前に呟いたのは……なんだったのか……まぁ、気にしてもしょうがないか。生きてるって素晴らしい!
カイ…ハケシテ、オワラ…イ
カイイハケシテ、オワラナイ。イズレ、トキガキタラカナラズ…………
カナラズ……
著者(敬称略):こっとん1999
小説掲載サイトURL:https://syosetu.org/?mode=user&uid=143786