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忘却と妄執~ふたつの怪異~  作者: リレー小説マン
3/6

③ ペリー 著

 そうと決まれば行動だ。


 だが、今の自分に何が出来るというのだろう?


 まともに歩く事も出来ず、腕も片腕しか使えない。

 利き腕の右がやられなかった事は不幸中の幸いではあったが、だからといって状況が変わる訳ではない。


 はっきり言って、詰んだも同然であった。


「理沙さーん、面会の方がいらっしゃっていますがー?」


 誰だろう。


 そんな事を考えながらニコリと笑う看護婦をぼうっと眺める。


「彼氏さんだそうです」


 ……彼氏?


 そんな人は私には……


 だがその言葉が口に出るよりも先にスッとベッドに影が差す。


 思わずそちらの方向を向くと、所謂塩顔、という奴だろうか。

 そんな感じの背のやや高い男性が微笑を浮かべつつ立っていた。


「では何かあったら呼んでくださいねー」


 そう言い部屋を去っていく看護婦を止める事すら出来ぬまま、男性と目を合わせる。


「……あの」


 誰ですか、というよりも先に目の前に名刺が差し出される。

 そこに書かれていたのは。


「伊佐間探偵事務所……?」


「まぁこれは表の顔や。ほんまの顔はこっちやねん」


 間髪入れずに2枚目の名刺が差し出された。


「霊媒師、伊佐間。まどろっこしいんは嫌いやから単刀直入に聞くで。理沙さん、あんた……“怪異”におうたやろ?」


 理沙は思わず息を呑んだ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 ーーーーーーーーーーーー


「なるほどなぁ」


 理沙は伊佐間にその怪異の全てを話した。


 その物体の、ペタン、、、チリンという足音。


 その物体はおそらく有菜の身体、そして田沢さんの視力、そして私の左半身の感覚を奪ったという事。


 そして……有菜を救いたい、という事。


「あの……あの物体はなんだったんですか……?こういう事って頻繁にあるものなんですか!?」


「落ち着きぃや、理沙さん。……そうやなぁ、怪異っちゅーもんは実はそない珍しいもんやないねん」


 そう言うと伊佐間の目がすっと細められる。


「あんなぁ、理沙さん。世の中っちゅうんは軸に寄り添って出来とるもんやねん。簡単に言えば」


 そこで伊佐間は病室に置かれた戸棚を指差す。


「ああいう感じに、縦軸、横軸、高さ軸。立体を形成する軸やな」


「それだけじゃないんですか?」


「そうやなぁ……後は……時間軸だってあるやろ?他にも探せば軸はいくらでもある。ただな、理沙さん。世の中には通常認知される筈のない軸っちゅーもんがあんねん」


 そこで伊佐間の目がグッと開く。


「軸が増えれば世界が変わる。認識が変わる。常識が変わる。……その一本の軸だけで日常は容易く怪異へと引き摺り込まれる。理沙さん、あんた有菜っちゅー友人助けたい言うとりましたな?」


 その問いかけにコクリと頷く。


「そりゃあ無理な話でっしゃろ。もう住む世界が違うんでっせ。その有菜っちゅー人は」


 薄々分かってはいた。

 だが、その伊佐間の答えには、思わず絶望せずには居られなかった。


「…なら、なら何で、私なんかに会いに……」


「こうやって釘を差す為でっせ。ああ言う怪異と会うと、目に見えぬ糸……厄介なえにしが出来る。それに引き摺られんよう、被害者に釘を差しとくんですわ。まぁ情報収集ついでのボランティアみたいなもんや」


「……本当に、助からないんですか?」


 その私の瞳に何か感じるものがあったのか、顎をさすりながら何やら考え込む伊佐間。


「……そうでんなぁ……理沙さん、あんた……怪異の世界に足ぃ踏み入れる覚悟はありまっか?」


「……はい」


 そう私が答えると、伊佐間は私の顔に顔をぐっと近付ける。


「……そうでっか。ほんなら、また後日伺わせて貰いますわ。それまで、余計な事したらあかんで」


 スッと顔を離すと、伊佐間は名刺を枕元に置き、部屋を去っていった。

著者(敬称略):ペリー

小説掲載サイトURL:http://ncode.syosetu.com/n2716di/

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