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忘却と妄執~ふたつの怪異~  作者: リレー小説マン
2/6

② calm 著

 冷静さを取り戻した私は、ハッと、あたりを見渡す。

 探した。しかし、見つからなかった。

 そう、有菜は引き釣りこまれてしまったのだ。

「有菜!」

 私はそうさけぶと、あわてて海を見る。

 紺碧の海だった海はもうどこにも無く、そこにはもう、灰色の荒波しかなかった。

「有菜…」

 私が力の抜けた声でそういう。

「どうしたん…?」

 ふと、後ろから聞き覚えのある声が聴こえる。

「田沢…」

 私は泣きそうな声でそう声の主に答えた。

 しかし、肝心の田沢は、

「どうしたん…?こんな所で一人で…」

 と、ポカンとしている。

「有菜が…有菜が…」

 私がそう言うと、田沢がありえないことを言う。

「有菜…?誰やそれ…?」

 驚愕した。

 あの、優しい有菜を、少しお茶目な、あの綺麗な、有菜を…

「覚えてないの…?」

 私は、驚愕が隠せないような言い方でそう言った。

「覚えてないも何も、誰なんやそいつ。今回のツーリングは俺とお前、二人できたやろ?有菜なんてやつ、そもそも大学にいな…」

 田沢のセリフがおわる前に、私は田沢に掴みかかっていた。

「ふざないで!有菜の事を忘れたの!?忘れたなら…思い出すまで殴ってやる!」

 と、私が拳を振り上げた瞬間。

 二人の身体が、ピタリと動かなくなった。

 そして、五感の内、聴覚以外が全て、なくなった。

 いや、そんな感覚に陥ったのだ。

 視界も灰色に染まったように動かない。

 なにも感じないような灰色の世界で私は聴いた。

 ペタン、、、チリン。ペタン、、、チリン。

 絶望を奏でるような、あの足音が。

 有菜をさらっていった、あの足音が。

 近付いてくる。

 脳は、逃げろ。逃げろ。と指示を出しているのに、身体はその命令に背き、動こうとしない。

 足音は近付いてくる。

 私の身体の下にいる、田沢にも聴こえたようで、一瞬、驚きと共に、顔をこわばらせる。

 一瞬、その足音の持ち主の思念のようなものが頭に流れ込む。

『身体は、手に入った。然し今は、何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。だから…』

 恐怖に身を浸しながら、私はその思念を“聴いた”。

『お前達から奪うことにした』

 今日何度目かの驚愕で、恐怖が掻き消える。

「奪うって…どういうことや…?」

 私は、もう一度よくその“物体”をよく見る。

 そして、もう何度目かわからない驚きで頭が、脳がゆさぶられる。

 完全に。その“物体”の見た目はあのとても綺麗な体をした有菜のものだった。

「まさか…有菜の身体を奪ったんか!?」

『奪ったには少し誤解がある。交換した。のほうが近い』

 落ち着いた調子で思念に語りかけてくる。

 しかし、私は落ち着いて入られなかった。

「有菜を…返して!」

 私はそう怒鳴っていた。

『それは出来ない。ほら、もうお眠り』

 瞬間。

 周りの風景が溶けた。

 微睡みに堕ちていくような深い快楽と、安堵が纒わり付く。


 目が覚めた時、私は病院にいた。

 白い天井。

 隣には田沢が同じ姿で横になっている。

「目を覚ましたんやな。二人して、森の袂に倒れていたんや。ツーリング客が居なければ危なかった」

 その優しげな声を聴き、私はフッと力を抜いたが、すぐ起き上がろうとした。

 しかし、起き上がれなかった。

 左手が、動かないのだ。

 左足も動かない。

 まるで左半身が凍ってしまったかのようだった。

「君は左半身不随、そっちの子は失明してた。理由は不明なんだ」

 私は絶望した。

 しかし、思う。

 有菜を助けなければ。

 あの“物体”から有菜を救うんだ。

 私はそう決意した。

著者(敬称略):calm

小説掲載サイトURL:http://mypage.syosetu.com/1064804/

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