覚醒
『覚醒、しねぇかな』
啓作の言葉が自分に跳ね返った。
自分自身、その言葉を願っていた。
覚醒、しねぇかな。
覚醒、しろ。
俺も、覚醒、しろ。
覚醒したい、覚醒、覚醒、覚醒。
頭の中を何度も回る覚醒と言う言葉。
血がにじむほど、拳を強く握り締め、それに負けないほど、強い思いをめぐらす。
生きるためじゃない。
自分の居場所を作るためじゃない。
あいつらを助けたいのじゃない。
みんなを守りたいんだ。
神をぶっ飛ばして、元の世界へ戻りたいんだ。
覚醒、しろ――!!!
その想いを打ち砕くかのように、何も起こらなかった。
(なんて非力なんだ……俺は)
気持ちが足りない。
違う。
頭で理解してなるものではない。
体が反応するんだ。
自然と。
「おい、戻れ!!」
覚醒した男が叫んだ。
その言葉に我を取り戻し、もといた場所へ走る。
結局、啓作は戦いに加わった。
勝ち目のない戦いだと分かっていても、自分が役に立てないと分かっていても。
「が……はっ……」
俺が岩陰へ入ろうと思ったとき、嫌な声が聞こえた。
それは啓作のものだと、自分で勝手に決めつけて、また、戦いの最中に飛び込もうとする。
(啓作を連れ戻さないと)
そう、思っていた。
しかし予想を反した光景が、そこにはあった。
倒れているのは、覚醒した男のほう。
ともかく、彼の元へと走る。
「力は使えば減るものデス♪」
神の言葉にいちいちかまっている暇などない。
彼は限界を知らずに力を使いすぎた、ということくらい、倒れたときから彩斗は察していた。
「大丈夫か!?」
戦闘の真っ只中で、倒れたやつをたたき起こす。
「わ……るい……」
かろうじで息はしている。
腹に大きなアザがあるから、攻撃を防ぐ時にちょうど力が切れたのだろう。
(ここから移動しなければ……)
「啓作!そいつ頼めるか!?」
「無理だ!」
だろうな。
覚醒したやつが負けてるんだ、生身の人間が戦えるはずない。
うだうだとした考えをすべて取っ払い、倒れた男を抱え、岩まで走る。
相変わらず霊亀の攻撃は続く。
何発かかすったが、致命傷ではない。
「ぐわっ……」
あと数歩でたどり着く、と言ったところで、今度は啓作が嫌な声を出した。
パンチを受け、それこそまさに漫画のように吹っ飛び、闘技場の壁を破壊した。
人間なら確実に死んだ。
しかし、啓作は人間だが、驚異的な生命力で死んでいなかった。
動いている。
ただ、今追い討ちをかけられたら、まず生きていられないだろう。
抱えた男を下ろし、啓作のもとへと駆け寄ろうとしたとき、
「や、……めとけ」
とめられた。
「なんで?」
「死ぬぞ……」
「瀕死状態のやつに心配されたくねーよ。俺しか無傷なやついないし仕方ないだろ」
そういって走ろうとしたとき、また止められた。
「名前、は?」
「彩斗」
「そうか……悠二、だ……」
(早く啓作のもとへ……)
その気持ちが先走り、悠二との会話を途中で切り上げた。
啓作は壁を背に、立ち上がることが出来ずにいる。
やっと、彼の元に着いたとき、忘れていた音が響いた。
「キュルルルル」
近くに霊亀がいることを忘れていたわけじゃない。
ただ、現実逃避したかっただけだ。
「情けない……」
「いいから、喋るな」
今、啓作を背負ったところで、不意を疲れて2人ともお陀仏だろう。
それは1番よくない。
(かといって俺だけ逃げるわけにはいかないよな)
立ち上がり、啓作の前に。
こちらをずっと見て、攻撃の構えをしているあいつをにらむ。
守りたい。啓作を。
誰にも死んで欲しくない。
もし、自分が死んでも――
消えた。
ガシャンッ
霊亀の動きが見えた。
右からの攻撃、そう分かった。
しかし、それ以上のことが起こった。
腕でガードしたはずだったのだが、いつの間にか手にはトンファーが握られていた。
「オメデトーございマス♪」
(俺は、覚醒したようだ)
神の言葉で、そう確信する。
「キュルル」
まだ霊亀は攻撃をやめようとしない。
いや、きっと消えるまでしないだろう。
左前方から右後ろへ即座の動き、蹴り上げ――!
「キュゥ……」
「見える」
相手の動くタイミングに攻撃を合わせれば、当てることも出来る。
「お前、……覚……」
「あぁ、多分」
啓作が言い終わらないうちに、3回目の攻撃。
次はこちらからの攻め。
俺の勢いを殺さないようにして、俺の腹へもぐり、パンチを繰り出す。
そのカウンターを左のトンファーで叩き落とし、すぐさま右のトンファーで顔面を殴る。
「勝てる」
はるか前方へ吹き飛んだ、吹っ飛ばした霊亀を見て、少なからず希望が湧いた。
そのとき、霊亀がすぅ、と消えてしまった。
「10分経過デスww頭のいいコなら次何来るか分かりマスネ★フィナーレを飾ってくれるのはこのコ!!頑張っテ♪」
頑張れなどと微塵も思っていない神は、何の抵抗もなく、指をはじいた。
彩斗は勝てる、と思った希望を打ち砕くように現れた神が憎かった。