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麒麟

自分の振り分けられた部屋で、さっきの出来事を振り返っている。

なぜ突然、罪も無く普通に生きてきた人たちが死ななければいけないのか。

湧き上がってくる怒りを抑えるものは恐怖だった。

さっきは怒りで周りが見えてなく、死ぬつもりでアイツをにらんだ。

どうにでもなれ、という気持ちだった。

しかし自分でも憎いことに、時間が経つにつれて怒りが薄れていく。

怒りは収まらないのだが、怒りよりも恐怖が強く反応する。

もうアイツに反抗するような勇気はない。

やはり、生にしがみ付こうとするのは人間の本能であって仕方ないのである。

それでも自分が嫌だった。

コンコン

誰かが部屋を叩いている。

「誰ですか?」

「開けてください」

会話になっていない会話を交わす。

「どちら様ですか?」

「お開けください」

このままでは永遠に続くだろうと思い、仕方なく戸を開けた。

そこにいたのは、白一色の男!

「あんたどうして……」

相変わらず不気味な笑みを浮かべながら、部屋へと入りこんできた。

この不気味な笑みは、神とどこか似ている。

ずかずかと、しかしゆったりとした足取りで勝手にソファーに腰掛けた。

「僕はあなたに忠告しにきました。先ほどのようなことは今後一切やめたほうが身のためです」

そんなことは分かっている。

次アイツに会うときは2度とあんなことするものか。

「あんたは誰、というかなんなんだ?」

俺もテーブル越しにある、向かいのソファーに腰掛ける。

「神の使いといったとこでしょうか」

アイツの……使い――!?

その言葉を聞いた途端、この男を見る目が変わった。

だからコイツの不気味さは神と何か似ているのか。

不気味さが似ているというより、神そのもののような気すらする。

「ともかく、さっきのようなことはやめてくださいね」

「なんで俺に肩入れするんだ?」

俺がたとえ殺されようと、関係ないのではないのか?

他に神となりゆるものはいくらだっている。

「勘違いしないでください。あなたのためではありません。世界のためです」

そういうと、立ち上がり、マントをひらりと回した。

途端、風が周りを囲み、男はハットを飛ばされないようにと手で押さえる。

「あんた、名前は……?」

風は非常に強く、俺までも巻き込んで吹き飛ばしてしまいそうだった。

「ありません」

きっぱり、一言。

いつもの笑いとは違い、少し悲しげな表情を一瞬見せて、消えた。

風もなくなり、さっきまでの部屋が戻った。



闘技場。

昨日の死が脳裏を過ぎる。

「時間厳守、いいデスね〜♪」

俺たち、685人が集まると神が現れた。

時間厳守、朝起きて部屋の扉を見ると9時集合と書かれていた。

追記で、守れなかったら死にますヨ、と書かれていたから、遅れてくるやつはいるはずもない。

「デハ今日のイベントを発表しマス★」

イベント?

どこからか、選択を迫られるときのBGMが流れている。

止まった。

「決〜まりましタ!ワタクシのペットと戦っていただきマスww」

ペット?

(さっきからよく意味の分からない言葉をベラベラと……)

「じゃあまずは麒麟からですネ!ドウゾ♪」

麒麟、それは動物園にいるやつではないことは想像がつく。

きっと伝説上の生き物、獣類の長……

「制限時間10分、逃げ切れたらそれで勝ちデスガ、死ぬかもしれないのでアシカラズ☆」

出口とは違う方の扉が開き、そこから出てきた怪物……

「ハーーーーーーーーーーーーージメッww」

大地を割りながら、全身に雷を纏いながらこちらへ突撃してきた。

みんな呆然とし、動くことすら出来ない。

「逃げろっ――!!!」

俺の言葉に反応したのか、みんな叫び声と同時に、一斉にバラバラに散らばる。

逃げ出そうと必死で、何人かが転倒した。

麒麟は進路の正面にあった岩にぶつかり、岩を粉砕。

転んだ人たちは運良く、麒麟の攻撃は当たらなかった。

あんな突進当たったら一撃で死ぬだろう。

しかし避け続けるのも無理に等しい。

何か策を……

周りを見渡すが、あるのは今皆が隠れている大きな岩くらい。

落ちている石では到底ダメージを与えるのは不可能だ。

考えていると、後ろから突然凄まじい音がした。

岩が、突進によって砕けた。

衝撃で俺と、近くで同じ岩に隠れていたやつらが吹っ飛ぶ。

命に別状はないだろうが、肺が圧迫されてうまく呼吸ができない。

うずくまっているところに麒麟が来たらおしまいだ。

また、岩が砕ける音。

他の人の所にいったらしい。

何とか呼吸を整え、立ち上がる。

「ヒヒヒヒーーン――!!!」

甲高い声とともに後ろ足を上げたかと思うと、足に雲のようなものが付き、空に浮かんだ。

(空中からも攻撃がくるのか――!!!)

高く、高く上がると、物凄い勢いで急降下してきた。

幸いにも、向かっているところは誰もいないところ。

地面に着地した途端、地割れが起こった。

「……っ!!」

その地割れは皆の足元へと罅を広げる。

亀裂の入ったところに足をとられたら危険だ。

すぐさま亀裂から離れ……

「フヒーーン――!!!」

空に向かってさっきよりも大きな鳴き声を上げたかと思ったら、突如雷が落ちてきた。

その雷は麒麟に当たり、罅割れたところを通り、地割れの隙間から雷が吹き上がる。

(アイツが避雷針の代わりに……)

こんな雨も降っていない、乾いたところで雷が落ちて、しかも乾いた地面を雷が伝うなどといった常識離れしたことが起こってもよいのか。

吹き上げた雷に当たり、倒れている人が何人かいる……

すぐさま一番近くにいた人に駆け寄った。

「っく……」

体を揺すると、反応がある。

まだ息はあ――

「ヒヒヒーーーン――!!!」

麒麟の声に反応したかのように、今度は雷が空から直接降ってくる。

落ちる前には地面が光るようだ。

とはいえ、かわすのは難しい……

俺のいた地面が光っ――

ズドォン

かろうじで避けたが、静電気が雷の周りに纏わりついていたため、体が麻痺する。

そんなことよりさっきの人は……

……目の前の光景が信じられない。

黒い、ただの残骸となっている彼は、さっき確かに俺が接触した人。

「くそぉ、くそぉ……」

絶対に、今、ここに、彼はいたんだ!

それが、一瞬で、すべて消えて、何もかも無くなって……

「いたんだ……ここに、いたのに……なんで……」

なんで……

「ヒヒーン――!!!」

相変わらず、常識はずれのスピードで、常識はずれの力で突進を続けている。

俺はさっきの雷を(直撃ではないが)受け、体が麻痺して動かない。

麒麟は向きを変えた。

シマウマを狙うライオンの如く向かってくる。

一歩一歩が大地を砕き、纏う雷は付近にバリバリという音を立てながら空気を乱し、突っ込む。

体は依然として動かない。

死……

いや、死んでいない。

恐怖で閉じた目を開けると、そこには黄色の服を着た大柄な男が立っていた。

しかしどこか子供っぽく、高校生くらいだと分かる。

どうやら横からタックルで麒麟を吹っ飛ばしたようだ。

「大丈夫か?」

体を起こしてもらって、なんとか立ち上がる。

「どうして俺を助けて……」

「あんたが叫んでなかったら死んでた」

一番初めのことだろう。

なんとか命拾いしたが、まだ危険が去ったわけではない。

立ち上がろうとしている麒麟が、怒りの矛先を彼に向ける。

「危ない、早く俺をおいて逃げろ!」

「そうしたほうがお前にとっても安全だろうし、そうする」

麒麟は眩い光で包まれていた。

空気が、痛い。

さっきとは比べ物にならないほどのスピードで走ってきた。

俺を助けてくれた男は、出来る限り俺から離れるように走っていく。

体の痺れが大分直ってきた。

彼は大岩に隠れるが、このままではきっと岩もろとも粉々にされてしまう。

「こっちに向かって、飛べぇ――!!!!!」

俺が大声を張り上げたとき、麒麟は岩にぶつかる寸前。

彼は俺の声にすぐに反応し、こちらへ力の限り飛んだ。

あと1秒遅ければ、麒麟に激突し、命は無かっただろう。

それくらいギリギリだった。

しかし、彼は倒れている。

麒麟はそれを探すように、周りを見渡している。

見つかったら、お終いだ。

まだ完全ではない体を起こし、近くにあったハンドボールくらいの岩を掴んだ。

それを思いっきりぶん投げる。

見事に麒麟に命中し、標的をこちらに変えた。

次の突進を避ける策は、ある。

「ヒヒーン――!!!」

突進してくると思っていたが、首を回し、俺に頭を向けるように振った。

「なっ――!!!」

すかさず横に飛ぶ。

が、飛んできた雷を完全に避けることは出来なかった。

左肩から左手にかけて麻痺した。

それにこのままでは死ぬと予想される量の出血。

加え、麒麟はこちらに向かって突進してきた。

さっきのように助けてくれる人は絶対にいない。

来た。

当たる。

そう思ったとき、麒麟が消えた。

死の寸前、助かった理由も分からないまま安堵する。

「ジャスト10分デス♪なかなか見応えのある戦いでしタ。ン?一方的な攻撃は戦いって言わないのでしょうカネww」

安堵の思いが一気にぶち壊された。

逃げるのに必死で、忘れていた声。

むしろ忘れたかった声。

腹立たしい笑い声が闘技場に響き渡る。

「しかしながら、28人しか死んでませんネ……デハ続けて第2ラウンド行ってみましょうカ♪」

(ぐ……今来たら、確実に死ぬ)

とはいえ、何も出来ない。

ここ、闘技場にあるものは砂と岩だけ。

「その前に大サービスをしちゃいますヨ★」

また、初めの人を殺したときのように、中指と親指をこすり合わせてピンと弾いた。

「やめ――」

ろ、と言おうと口を開いたとき、異変に気づいた。

傷が治っていく……

「フフフwwさすがに惨い戦いを見る趣味はないですヨ♪」

あいつは何を考えている?

このまま傷を治さなければここにいるほとんどの人は死んで、すぐに神が決まると言うのに。

神の仕事が嫌になったんじゃないのか?

嫌になったんだったらすぐにでも神をかわりたいはずだ。

どうして……

「デハ気を取り直しテ、第2ラウンドスタートッww」



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