変幻自在の支配者
更新再開です。
「テキスト!あの男の情報を!」
「微睡みの盗賊団のボスにして数年前アレチェスカを騒がせた猟奇睡姦魔、レイザ・テルシュケン…水属性の魔法を扱います!」
マシロが長身の男、レイザと戦闘を繰り広げている中、俺はテキストからレイザの情報を聞き出す。得意属性さえ判明すれば後はマシロの勝利が確定される。
本来亡世の支配者と謳われ魔王ですら瞬殺した力を持つマシロリバウドがこうして互角を強いられているのは相性が悪いからだ。圧倒的な力を持つ者には必ず何処かしらに弱点があるのだが、マシロの場合それが相手の魔法属性との相性なのだ。
確かに人間形態である事で弱体化しているのもあるが、現在火の属性の姿を取っているマシロに対して相手が水属性を持っているのも最も大きな弱体化の要因でもある。
マシロの力の本質は状況に応じてその姿を変える事にあるらしいのだが、何分まだレイザが魔法攻撃を行っていないので変えるに変えれないと言うのが現状だ。相手の属性が判明するまではこうして悪戦苦闘せざる得ないと言う欠点付きである事を予めに教わっていなかったらいずれ敗北を見ていただろう。
だが俺は知っている。マシロがそう言う便利かつ不便な力を持っている事を。さらに、相手の情報を得る為の手段さえも。
出来る。テキストの膨大な情報を駆使すればマシロに相手の属性を伝えて戦況を覆す事が。そして俺は知った。レイザの属性を。
「覚悟しろよ、悪党」
息を大きく吸い込み、そして叫ぶ。
「――マシロ!水だ!奴の属性は、水だ!!」
「……!」
俺の声を確かに聞いたマシロの動きが一瞬だけ止まって再び動き始める。全身の力を脱力させ、振るわれた拳をしゃがんでかわす。直後、片手片膝を突いたマシロが赤く発光する。
炎が周囲を取り巻き始め、流石に直撃すれば危ないと判断したレイザが即座に後方へ飛び退く。しかしそれで終わらせる程レイザも馬鹿ではない。高等技術である詠唱破棄を成し遂げたレイザの突き出された左手を起点に水が溢れ出し渦と化す。
「スパイラルハイドロリック」
螺旋を形成す水がホースのジェットよろしくの水圧で炎に身を包むマシロへ放たれる。レイザの放った魔法はマシロを炎ごと飲み込み、そして弾け飛ぶ。文字通り、弾け飛んだ。
直後、マシロのいた場所に竜巻が発生してその中にシルエットを生み出した。竜巻の中から現われるのはレイザの属性に合わせて姿を変えた人型の支配者。全身目に見える風で出来たマシロだった。
「な、に…?何だ、何をしている、何が起きている?これは、何だ!?」
「喜べよくそ。お前は亡世の支配者の本質に触れたんだからよ」
「亡世の支配者、だと?そんな筈は、奴は数世紀前に死んだと…ははぁーん、嘘っぱちだなぁ?君、僕を動揺させて隙を突こうとしたんだぁ。笑止、いや、笑いさえ起こらないさ。そうだとも、君は卑怯な手で僕を陥れようとした。許されない許さない許してはいけない!!早急に命を落とせ、死ね、殺してやる!!」
レイザが片手を天井へ突き上げて吠え始めると同時に、何やらその突き出された手の先の空間が歪んでいる様に見えた。俺は不思議に思いつつ、ついその場所を凝視してしまう。
徐々に空間の歪みが確実に歪み始め、そこから何かの柄らしき物が現れ始める。
「テキスト、あれは…?」
「召喚武器、ですね。中々どうして高等技術ばかりお持ちで」
「ファンタジーでありがちなあれか…実際こんな感じで出てくるんだな」
感嘆していると、とうとうその全貌を晒した召喚武器がレイザの手に収まり切っ先が俺へと向けられた。その武器は一見ただの装飾が格好良いだけの剣であるのだが、レイザが魔力を籠めると途端に水が噴出して高水圧の刀身を作り出した。あの武器で斬られたら、と思うと思わず身震いしてしまう。
しかしどうしてレイザは一々戦う相手を間違うのか。今レイザが本気で戦わなくてはいけない相手は俺ではなく、マシロだと言うのに。
「さあ、君はここで死んで僕に報いるべきだ。そして君を殺した後はそこの男の命も貰おう。後はまあ…僕の加護で眠らせて遊んであげるとしようかな?嗚呼、楽しみだ」
「勝手な計画立ててるところ悪いけどな。お前、ちゃんと周り見た方がいいぞ」
「は?」
そう言われて初めて気付いたのか、レイザは自分自身を囲む風の刃を見て唖然とした。どれも見た目はただの一般的な風の刃なのだが、魔力の密度や濃度は一般のそれとは段違いだ。
何せ、あの亡世の支配者、マシロリバウドが生み出したのだから。その当の本人は既にこの場に形を残していない。今この場に流れ漂う風全てがマシロと言っても過言じゃないだろう。
火属性に強いのが水属性だとして、その水属性より強いのは風属性だ。まさに火の支配者から風の支配者へと姿を変えたマシロはその名の通り、この空間の風を完全に支配してしまったのだ。
風の刃で自分を取り囲んだ元凶であるマシロをキョロキョロと探すレイザを見て俺はほくそ笑むと、右手を高々と天へ掲げた。
「やれ」
「が、あがあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
音速を超えた風の刃が一瞬でレイザの全身へと叩き込まれ、悲鳴と共に攻撃を受けた部位、ほぼ全身から血が噴き出る。その光景の異常さと残酷さとショッキングさに顔を歪めながら俺は続けさせる。
「ああ、そうだ。一つ言っておくぞ」
「あ、いぎっ、いっだい!い、だい…!いだい、いだいいだい、いだいいだいいだいっ、いっだ、いよぉぉぉおうおぅおぅおぅおぅぅうがががががっ!!」
血溜まりにぶっ倒れ陸に打ち上げられた魚の様に跳ね回るレイザを睨み付けて、俺は死の宣告を告げる。
「お前の敗因は、少女に手を出そうとした事だ。何万、何億回と悔やみながら自分のしでかした罪の大きさを測るんだな」
「だ、ずげ、だずけっ、たすげっ」
レイザの死に様から逃げる様に背を向け、俺は吐きそうになるのを押さえながらレイザの最後の音を耳にした。振り向く事は出来ない。今振り向くと、吐いてしまうそうな気がするから。
ジッとその場から動かないでいる俺の服の袖が不意に引っ張られる。見ると、そこには緑の髪を靡かせた少女、マシロがいた。
「属性変えると『人化』した時の髪型髪色まで変わるんだな…」
「………」
髪は変われど他はマシロ。やっぱり無言で頷く姿に俺は苦笑しつつ、気を取り直して呆然としている皆の下に行く。一番最初に我に返ったセインが驚きの声を上げた。
「ちょ、ちょっと待って!その子、亡世の支配者だったの!?」
「あ、ああ。そう言えば言ってなかったな?」
「軽い!しかも亡世の支配者を仲間に連れてるって、前代未聞だよ!こんなの世間に知れたら大騒ぎだよ?未だに世界には亡世の支配者を憎んでる人達がいるし、逆に亡世の支配者を崇め称える宗教団体までいるんだし…」
「そんな事言われてもなぁ…何かまだ世界に未練ある様だったし俺の加護からすれば支配可能だし…?」
そう言えばテキストがそんな事言っていた気がするなどと思いながら、俺は次々と正気に返って質問攻めしてくる勇者一行を対処するのだった。何はともあれ、蔓延る悪がまた一つ減らす事が出来た。恐らく女神様が俺に与えた命はこう言う事なんだろう。
次々と阻む悪を取り敢えず片っ端から倒していけと言うならば喜んでこの身を駆ろう。それが少女を救う為の架け橋となるのならば。
俺は切にそう思った。
『上限解放』の加護
シュラが女神アルテシアより授かった最上級の加護。
成長し続ける事を可能とした加護で、加護の所持者が成長限界を迎える度に自動で発動する。
世界で一人しかこの加護を持つ事が出来ず、選ばれた者は意思次第で永遠と強くなる事が出来る。
勿論常に鍛え続ける事が第一の条件。なので自動では強くなれないと言うところが欠点と言える。