洞窟に棲まう化け物との遭遇
一向に、進まない…!
◇
「うおっ…!?」
一瞬の出来事だ。砂に吸い込まれて咄嗟に目を閉じた俺が次に感じたのは尻を打った痛みだった。
目を開けばそこは既に砂漠ではなくて薄暗い洞窟の中。唯一の灯りが壁に埋まった結晶のみで気味悪くも思えるし幻想的にも思える。
「砂漠の下に洞窟…?」
頭上に見えるのはごつごつとした洞窟の天井のみ。どう考えても砂漠から転移させられたとしか思えない。
「つーか皆が見当たらねえな…」
立ち上がって辺りを見渡すも皆の姿は見つけられず、はぐれたのだと察した俺は手元に練達を召喚して目の前に繋がる通路へと足を運んだ。
誰かいるといいんだけど。
「あ、マスター!」
「おっ!…って何だテキストか…」
「何ですかそのあからさまにがっかりした反応は!?」
「どうせ再会するなら本なんかより人の方が良かった的な?」
「ひ、酷いです!」
通路を進んですぐの横道から現れたテキストに文句を垂れつつ、何とか得体の知れない空間に1人でいる不安から免れた俺は歩みを止める事なく他の皆を探す。
そんな時だ。不意に、聞き慣れない鳴き声のような音が聞こえたのは。
「今の聞こえたか?」
「聞こえましたねぇ…前方からでしょうか?」
「ぐぎゃ」
今度ははっきりと聞こえた。割と近い。
「テキスト、灯り」
「そんな便利な機能はついてません!」
「空は飛べるくせに?」
「それとこれとは別ですぅー!」
役の立たないテキストはさておき、俺は薄暗くて見えにくい前方に目を凝らす。練達を構えて、唾を飲み込む。
そして、とうとう音の正体は姿を見せた。醜悪な顔面が薄暗い闇からヌッと顔を出す。
「ぐぎょげぇ!」
「うわっ!何だこいつ…!?」
「あれは…砂漠ゴブリンです!」
「砂漠ゴブリン?ここ砂漠じゃないだろ?」
「砂漠の下に巣を作る少々厄介なゴブリンです…!」
ここに来て初ゴブリン。まともに魔物と戦った事がない為、実質これが初めての対魔物戦だ。
「何が厄介って、砂漠ゴブリンは人の欲望を幻として具現出来る力を持ってるんですよ!所詮は幻ですけど、現実との区別が付きにくいって言うか……そうです!さっきのオアシスも砂漠ゴブリンによる幻覚だったんです!」
「何だって!?じゃあ俺達の清らかな希望はあの醜悪なゴブリン野郎によって汚されちまったって事か!許せねえ!」
天にも昇る気持ちでいよいよ水が飲めると馬鹿騒ぎしていた俺達をこの砂漠ゴブリンは嘲笑っていた。それがとても許せなかった俺は砂漠ゴブリンに怒りの突撃を繰り出す。
「あ、ちなみに言っておきますが単純な戦闘能力でも普通に強いです」
「それを先に言ってぇぇぇぇぇ!!」
余裕で棍棒で殴られた俺は弾丸に等しい速度で吹き飛ばされるのだった。グッバイ。
「詠唱破棄」
魔法を使用する際に行う詠唱を行わない事を指す。上級テクニックで相当魔法に長けた者でないと難しい。
実力によって詠唱を破棄した場合の魔法の威力が変動するが、その分通常より素早く魔法を使えるので重宝されている。




