それぞれの想い
タイトルと内容がミスマッチ案件!
◇
「ユリカ」
揺さぶって声を掛ける。少し間が空いたが、ユリカは無事に意識を取り戻した。
「ツヨ、シ…?」
「ああ、そうだ」
「私」
「話は後でゆっくりしよう。今はここから離れるんだ」
ここの住人達にとってこの事態を招いた俺達は迷惑でしかないだろう。街の被害も考えれば俺達も街の修復に手伝うべきだが、残念ながらゆっくりはしてられない。
ネイムロストで待つマシロの下へ向かわなければいけないし、俺とシュラに術を掛けた鏡術使いが近くに潜んでいる可能性もある。
更なる被害を避ける為にも俺達はもうここに滞在する事は出来ない。
俺はユリカに肩を貸して集まる皆のところへ向かう。
「皆!まだ近くに敵が潜んでいるかもしれない!取り敢えずここを出るぞ!」
「分かった!アエスティー、歩けるか?」
「大丈夫です、少し足首を痛めたみたいですけど……いたっ」
「ほら、無理するな。俺がおんぶするから」
「すみません…」
どうやらアエスティーは足を怪我してしまってるみたいだ。アキラにおんぶされて申し訳なさそうにするアエスティーを尻目に俺は外を目指した。
ちなみに3本の魔剣はシュラの魔王の力で異空間に保管され、魔剣を取り上げられて元に戻ったラスタは気を失ったままシュラに引き摺られていた。
外に出てしばらくして、俺達はようやく歩みを止めた。空は既に真っ暗で星が一面に瞬いている。
「ここまで来れば一先ず安心か…」
ユリカを座らせて俺も隣にドカッと腰を降ろす。他の者も同様、地べたに尻を突く。
「……すまない、俺のせいだ」
訪れた沈黙を破ったのはラスタだ。ラスタは少し前に目覚めて自分のした事を思い出し、悔いているようだった。
「魔剣に乗っ取られてたんだろ?結果がどうであれ、しょうがないだろ」
「違うんだ」
「違うって?」
「俺は、自分から体を明け渡したんだ…!」
驚いた。国に忠を尽くす騎士として仕えていた男が、自ら魔剣に呑まれた事に。
「魔王軍残党を殲滅したあの日、俺はそこのシュララに負けた」
それは知っている。あれはラスタが魔剣を手放してしまったから、と降参を認めて決着が着いた。
しかしそれがどうこの件に繋がるのか。
「力量的にも、魔剣使い的にも、俺は敗北して悔しかった。だからもっと強くなろうと力を求めたんだ」
そう言えば魔王軍残党殲滅作戦の時、ラスタの姿はなかった。敗北してからすぐに修行に出たと見るのが妥当だろう。
「そしたら、魔剣から声が流れてきて……力が欲しければ身を委ねろと言われた。俺は、その時何故かその問い掛けに応じてしまった」
その結果がこれだ、と続ける。
つまり、シュラを打ち負かしたいが為に己の鍛錬に出て挙げ句に魔剣と契約を結び自我を失ったと。よくある話だ。
力を求めすぎるのはよくないとその身で実証してくれたわけだ。
「……魔剣を手にした時点で、魔剣使いに魔剣を拒む事は出来なくなる」
誰もが黙り込んでいる中、ユリカがふと呟いた。静かなだけに、その声は皆にも届く。
「私のは比較的大人しい方だったけど、それでも抵抗は無駄に終わってこの様よ…」
「何時から、乗っ取られてたんだ?」
「ツヨシと初めて会った時には、既に」
まさかそんなに早い時期に乗っ取られていたとは思わなんだ。
「私が持ってた魔剣は気まぐれで、日常の殆どは表に出てこなかった。私が抵抗してるのを見て楽しんでたのよ、何時でも意識を乗っ取れたクセに」
陰湿な魔剣だ。ユリカに抵抗させるだけさせておいてそれを見て楽しんでいただなんて。
「魔剣には試練があって、それが己を貫き通す事だと信じ続けてきたわ。でもそれはデマカセ」
隣にいるユリカが力むのが分かった。悔しいんだろう。まんまと騙されていた事が。
「手にした時から、私の中に潜伏して、ずっと嘲笑ってたのよ…。馬鹿みたいに、馬鹿みたいに魔剣に抵抗してた気になってた私を見て…!」
ユリカの目に涙が浮かぶ。やっぱり許せない。少女を泣かせる者は絶対に。
ましてや、大事な仲間であるユリカを傷付けた魔剣が、俺はどうしようもなく許せなかった。
「もういい。事情は分かった…ユリカ、お前は悪くない。悪くないんだ…」
けれど、俺には何も出来ない。こうして抱き締めて宥める事しか、俺には出来なかった。
無力が歯痒いのは分かる。俺はここまで他力本願で乗り越えてきた。その気持ちは、痛い程分かる。
宥められて限界を迎えたのか、とうとうユリカは俺の腕の中で、初めて泣いた。
泣き止んだのはそれから何時だったか。泣き疲れて眠ってしまったユリカを横にしていると不意にラスタが立ち上がった。
気付いたアキラが声を掛ける。
「どうした?」
「…港に戻ろうと思う。今の俺に出来るのは、迷惑を掛けた人達に尽くす事だけだ」
何処までも生真面目な奴だ。アキラのアイコンタクトに俺は頷いてみせる。
「そうか。夜は危険だ、気を付けるんだぞ」
「気遣い、感謝する。今度会う時は相応のもてなしをさせてもらう」
それだけを告げると、ラスタは背を向けて元来た道を戻っていった。
「今度は正しく強くなれるといいな」
「……ああ、そうだな」
仰いだ先は満点の星空。これから向かう先には一体何が待ち構えているのか。俺に、それを乗り越えられる力はあるのか。
今更ながら、改めて強くならないと。そう強く決心した夜だった。
ちなみにシュラはここに座って少ししてから爆睡してしまっていた。
「異質者」
文字通り、異質な存在。裏世界を闊歩していて、外部からの人がやって来るとノソリと追跡をしてくる。
捕まると猟奇的に殺される。こちら側から干渉はほぼ不可能とされ、手を出したら死が待っている。
最終手段は巨大化と言う小物臭い事をしてくるが裏世界範囲外に出してあげると生命活動を停止する。




