ユリカを取り戻す為に
いやっほい。
◇
部屋に飛び込んできたのは何やら慌てた様子のアキラだった。
「俺達は別に大丈夫だが…どうしたんだ?」
「無事ならよかった…ってそうじゃなくて!ユリカの様子が変なんだよ!」
「様子が変ってたまにある事だと思うけどな」
他人事みたいにしている俺達に気付けと言わんばかりに大きな音が鳴り響く。慌てて窓から外を見ると港の入り口付近から煙が上がっているのが分かった。
どうやら本当にただ事じゃなさそうだ。俺が裏世界に閉じ込められる直前に慌てふためいていた住人達の姿を作り上げた元凶に違いない。
「ああくそ。こんなのたまにでもあってたまるかっての!行くぞ、シュラ!」
「うん!」
宿を飛び出して騒ぎの元へと全力疾走する。脇腹が痛くなってきた頃に到着した。
「……あー、確かに様子が変って言うか」
嬉々、いや狂喜に満ちた顔で二刀流の男を圧倒するユリカを見て確信に変わる。
「――誰だ、あいつ?」
片手に持つ剣は多分魔剣だろう。だがあれ程禍々しい剣は初めて見る。何から何まで黒に染まり上がったその剣は、紫色で複雑な紋様を光らせて常時ユリカへと力を注いでいるようだ。
侵食されているとでも言えばいいか。魔剣を握るその右手から這う様にして黒い血管が伸びている。見るからに右腕は既にあれで埋め尽くされてる事だろう。
「宿から見えた煙はユリカちゃんから噴出されていたものでしたかぁ…」
「んな悠長な事言ってる場合か。テキスト、該当する情報はあるか」
「もちのろんですよ!魔剣を扱う者はそれ相応のリスクを負うと言われているそうですし、間違いなくあれは魔剣に肉体とか色々乗っ取られてますね!」
「だよなぁ。どうすればいい?」
「一般的な認識として、こうなってしまってはもう取り返しが付かないので殺してしまうしかないでしょう」
ですが、と続く。
「変質した魔力の塊と言われている魔剣を消す事が出来れば話は別です」
魔力は普通、触れられないし目に見えない。ましてや消す事など不可能とされている。
だがそれは人の身ではと言う話。魔法同士をぶつけてしまえば対消滅が起こるか押し負けた側が消えて無くなる。それは魔力でも同じ事だ。
しかしこの事実があったとしても魔剣を消す事なんて到底無理だろう。所詮魔法程度では聖剣の対となる存在に打ち勝つなんて事は出来ない。
だから、頼らざるを得ない。視線は自然とシュラへ。
「魔王の力、か」
魔力で駄目なら魔の根源である魔王が宿す力に賭けてみるしかない。
「やれるか、シュラ?」
「任せて」
たった一言。一歩ずつ、確実にユリカへ歩みを進めるシュラはどこからともなく溢れ出した黒い瘴気を纏い始めた。丁度、二刀流の男を打ち倒したユリカがその気配に気付いて警戒を強める。
「魔剣、使った事あるから分かるけど凄い力だよね。私は何も感じなかったけど、とても辛そう」
魔剣の干渉すら阻む魔王の力。流石にやばいと察しているユリカが一歩、退いた。
「すぐに楽にしてあげるからね」
土下座します。




