おはよう裏世界
前書きは本文を書き終えた後に書いているんですがもしかしてこれって後書き(ry
◇
「――大変だよ、ツヨシ様!」
どれくらい寝ていたのか。窓をチラッと見ると既に陽は暮れかけていた。
寝起きの俺はシュラが慌てていると認識出来ずに起き上がって伸びをした。
「んーぁ…何だ?」
「何だ、じゃないよ!皆が、皆がいないの!」
「皆がいない?……そう言えば、アキラも帰ってきてないな」
ようやく思考が追い付いてきた俺は寝る前の事を思い出す。そう言えばアキラは外の様子を見てくると言って出て行った筈だ。
ベッドから離れて外の様子を確認してみるが、既に慌ただしさは消え、物音の一つも聞こえなくなっていた。
――物音の一つも?
「ちょっと待て、皆ってどう言う意味だ?」
「港の皆!私とツヨシ様とテキスト様以外誰一人として残ってないの!」
「な、何!?アキラも、ユリカも、アエスティーもか!?」
「そうだよ!」
「な、なんてこった……」
唖然とする。こんな事があり得るのだろうか?
「テキスト!何かあったか分からないか?」
「私にもどうしてこうなっているのかがさっぱり……ですが、一つだけ該当するものがあります」
「教えてくれ!」
「はい。これは恐らく鏡術による、術式対象者のみを固定し、その他空間ごと裏世界と取り替えてしまう広域転鏡術かと思われます!」
「……っつーことは俺達を付け狙う奴がいるって事か」
まさか俺が寝ている間にこんな事になっていようとは。しかし一つ、気になる事がある。
それは、何故俺だけならずシュラまでもが術式対象になっているのかと言う事だ。術者が俺達と認識のある奴なのだろうか。
「とにかく、どうにかして元に戻さねえと!」
「それなら核となっている鏡を壊すのが手っ取り早いですよ!」
「核って、この裏世界をまた旅して探すってか?何時になるんだよ」
「いえいえ。広範囲に及ぶ術式とは言え限界がありますし、少なくともこの港で精一杯だと思いますよ!」
「だったら何とかなるか。よし、早速探しに行くぞ!」
何時までもこんな不気味な世界にいてられない。早急に戻って術者をぶちのめさなければ。
「ちなみに港の外へ出ようとしたら肉体が弾け飛んでしまうかもしれないので気を付けて下さいね!」
「はじけっ…!?」
駆け足気味に部屋を出ようとした俺とシュラの動きが停止する。シュラが青い顔をして声を漏らした。
「出ようとしなければ大丈夫ですよ?」
「ならいいんだけど…あんまり怖い事言わないでよ?」
「了解致しましたー!」
「じゃあ気を取り直して探索開始だ!」
シュラ、テキストを連れて部屋を出て宿の階段を降りる。俺達の歩く音だけが響き、あまりの静けさに寒気がした。嵐の前の静けさ、と言うやつならどれだけいいか。
一応警戒しつつ、宿屋の出入り口の扉を開いて外へ出る。外にいた人型の何かと多分目が合う。扉を閉めた。
「………………何だ、今の」
「………………何、だろうね?」
「いやー、忘れていました!そう言えば裏世界には異質者と言う不可解な生命体が生息しているんでした!」
「軽く言ってくれてんじゃねえよ!?」
「そうだよ!絶対やばい奴だったよ!!」
テキストの胸倉に掴み掛かるが如く勢いで迫る。当の馬鹿本は何処吹く風だ。
しかしどうしたものか。異質者がどう言った存在か分からない以上下手に遭遇するのは危険だ。かと言ってずっとここにいるわけにもいかない。
「ぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「ひゃっ!?」
いきなり行き詰まって異質者の対処法を考えていると不意に扉が叩かれ、そして耳栓をしてヘッドホンを付け音楽を最大音量でガンガンに流したくなる程の声が扉越しに聞こえ始めた。生理的に受け付けないと言えばいいか。
シュラが小さな悲鳴を上げて俺の腕に抱き着いた。もう発育する事のない控えめな胸が押しつけられて俺の脳を刺激する。少女最高。
少女と密着状態になった事により冴えた俺の脳が逃走ルートを即座に導き出した。
「屋根だ!屋根を伝って移動するぞ!!」
「も、もうそれしかないよね!」
「急ぎましょう!この木の扉でどれだけ足止め出来るか分かりません!」
今にも壊れそうな扉を尻目に階段を駆け上がる。二階へ着いたと同時に一階で木が粉砕される音が鳴った。
「もう入ってきやがった!」
自分達の部屋まで行く時間も惜しいので俺は近くの部屋の扉を蹴破って窓に駆け寄り開けた。窓から顔を覗かせて隣の家の屋根まで行ける事を確認するとシュラに先を行く様に催促した。
「先に行け!隣の家の屋根まではそんなに距離はない!」
「ツヨシ様も早くね!」
「ああ!」
シュラが窓から身を乗り出し、屋根へと飛び乗る。俺も行こうと足を一歩踏み出した途端、後ろで声が聞こえた。
「ぇぇぇぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「のおおおおおおおおおおおおっ!?」
ゾワゾワって全身に鳥肌が立つのを感じ、俺は慌てて窓へ走って縁に足を掛け、そのままの勢いで屋根まで飛んだ。ギリギリ距離が届かない、落ちる―――そう思ったところでシュラが俺の腕を掴んで助けてくれた。
「た、助かった!サンキュー!」
「あ、危なかったね。流石にヒヤヒヤしたよ…!」
振り返って俺がさっきまでいた部屋を見ると窓から異質者が何もせずにジッと見つめてきていた。不気味極まりない。
「い、行こう。あんなのに構っていられない……」
「私もあれを何度も見るのは勘弁だよ……」
「夢に出そうですね!」
「お前寝ないだろ」
「おっと、そうでした!」
くるくると回転して陽気にはっちゃけるテキストを見て旅が終わったら雑誌と一緒に捨てようかと本気で迷ったのはここだけの話だ。
「ゴリ車」
本来馬が引くはずの馬車をゴリラが引いている事からツヨシにゴリ車と名付けられた。
実際はゴリラではなくタイタンでゴリ車の正式名称はタイタン車。
普段はノソノソと歩いているのだが速く走れと指示を出すと馬にも負けず劣らずの速度で走る。
乗り心地が凄い良くさらにタイタン自体強力な生き物なので魔物に襲われても安心出来る事で人気。




