船旅で
私は設定を『置き去りに』しているっ!!(格好良く言ったつもり)
◇
「何とか船に乗れたな…」
「超ギリギリでしたね!」
本なので疲れを感じる必要がないテキストが余裕な声音で俺の呟きに返事した。尻目に他の皆を見ると慌てて全力疾走したせいか体力の消耗が激しかったのもあり、中腰で荒い呼吸を繰り返していた。
乗り遅れがいないか心配したが大丈夫そうで安心した俺はその場でゆっくりと腰を降ろした。
しばらく休憩して皆がそれぞれ船旅を満喫し始めた頃。俺が壁に背を預けて座り込んでいると、アキラのところに向かうアエスティーの姿を見た。
「えっと、その、アキラさん。途中、背負ってくれて、ありがとうございます…!」
「気にするな!あのままだとアエスティー、乗り遅れてただろ?」
「は、はい!何だかすみません……」
「謝んなくていい!元々病弱なんだから、無理しなくていいんだ。辛くなったら俺や皆を頼ってくれ、な?」
申し訳なさそうにするアエスティーの頭に手を置いてイケメンスマイルを決めるアキラは相変わらずお人好しみたいだ。あの爆走劇の中、周りを気にする余裕のなかった俺とは違って病み上がりに等しいアエスティーの様子を把握して尚且つ、背負うだなんて芸当を成し遂げた。
アキラとアエスティーのやり取りを微笑ましく眺めていると不意に影が俺を覆った。不思議に思って顔を正面に向けてみるとそこにはユリカが腰に手を当てて立っていた。俺は立ち上がって手すりにもたれ掛かる。
「どうした?」
「今更ながら一つ疑問に思った事があるのよ」
「疑問?」
「そう。アンタって確か魔王を倒したのよね?」
そう言われてギクッときた。表には出さなかったが内面では冷や汗が滝のように流れ出している。
確かに魔王は倒したが、それは俺の手ではなくてマシロの圧倒的な力によってだ。正しくは俺、何もしていない。
「あ、ああ、そうだけど」
「だったらどうしてそんなに弱いのよ。本来なら魔王を倒したアンタに私が敵う筈ないのに」
「手加減してるって言ったら?」
「それはないわね。アンタの本気は多分、あのアキラと戦った時に出し切ってる」
見破られていた。とんだ観察眼だ、と苦笑して俺は空を見上げた。
「偶然だったんだよ、全部」
そう、偶然だったのだ。異世界のスタート地点が魔王不在の魔王城だった事も、テキストとシュラとの出会いも、マシロと言う存在を知って使役した事も。全てが加護である『邂逅』が起こした偶然に過ぎない。
「偶然が重なって俺は、あのどうしようもない魔王を倒す事が出来た」
倒した理由はこの際黙っておこう。流石の俺でもこの雰囲気の中、殺された少女達と傷付いた少女の為に魔王を倒したとは言い難い。
「実は言うと俺の得意分野は召喚術で召喚した奴ら使って倒した」
「他力本願…って言いたいところだけど召喚術も歴とした戦術だから素直に認めざるを得ないわ」
「あれ?信じるのか?」
「だってそれ以外でアンタが魔王倒せるわけないでしょ」
「ひっでぇ!」
別に加護の力とかを隠す必要性はないのだが俺が言った事は強ち間違いでもないので気にしないでおいた。納得もしてくれたようだし一石二鳥だ。
ユリカの心外な言葉に文句を垂れていると何時の間にか側まで来ていたシュラが青白い顔で俺の服をちょいちょいと引っ張ってきた。嫌な予感。
「……ツヨシ様」
「ど、どうした?」
「きもちわるい……―――うぷっ」
「船酔いか!?ちょ、ここで吐くなよ?吐くなよ!?落ち着いて素早く、海に顔を出すんだあああ!!」
見事に的中した俺の予感。騒ぎを聞きつけた仲間達は慌ててシュラの船酔い騒動の鎮圧を行うのだった。
「ネイムロスト」
名を持たない国に与えられる名称。一般的には知られておらず、ネイムロストの存在を知っている者は
限りなく少ない。現在、ネイムロストと称される国はマシロリバウドが治めていたエレストフェレスのみ。
名前消失を文字ったもの。




