親交を深めて
寝落
◇
「――えーっと?つまりもう俺を殺したとか言う男はいない、と?」
「そう言う事になるね」
シュラから語られた俺と離れていた三ヶ月間の出来事。正確には一日にも満たないのだが、その話を聞いた俺は戸惑いと言うよりも言い表せない気持ちになっていた。
かつて俺を半殺しにした男は既にこの世にはいない。旅の最終目標であるシュラの救出は呆気なく成功し、当のシュラは酷い目に遭うどころか方面はとにかく覚醒イベントまで起こしていた。それも魔王の力だ。
俺の知らないところでシュラが大きく行動を進めていた事にショックを隠せなかったのだ。せめて、この目で見たかったと言うだけだが。
「そっか…って言うか、シュラの荷物って何処にあるんだ?見る限り持ってないけど……」
「荷物……あ、多分、屋敷にあった!」
「マジかー!マジかー!屋敷何処にあるか分かんねぇよ!ごめんユリカ魔剣もう諦めようぜ!」
「無理」
「うほおお!?びっくりしたぁ!!寝てたんじゃねぇのかよ!!」
「流石にあんな派手な事してたら起きるわよ」
俺の背後で腕組みして立っていたユリカ。音も立てずに俺の背後を取るとこは流石と言うべきか。
「アキラも起きたみたいだし取り敢えずその腕と目治してもらいなさい」
「うお、バレてたのか」
「そりゃ不自然に腕垂らして片目の挙動も可笑しければ怪我してる事くらい分かるでしょ」
観察眼も優れているのか、と思っていると丁度欠伸をしながらアキラが歩いてきた。途中雑草に隠れていた地面の窪みに足を引っ掛けて転びかけていたが見なかった事にしよう。
「そろそろ交代の時間……って誰だその子?」
「紹介しよう。俺の仲間のシュラだ」
「正式にはシュララって言うんだけど、気軽にシュラって呼んでくれてもいいよ!」
「そっか!じゃあよろしく、シュラ!」
「うん、えーと」
「アキラだ」
「アキラ、うん、覚えた!」
互いに握手を交わして自己紹介。ユリカとは既に魔王軍残党殲滅作戦の時に済ませているから省いた。
そんな二人を見てふとこの中にアエスティーがいない事に気が付いた。辺りを見渡して探すと普通に馬車でぐっすりと眠っていた。
それもその筈。アエスティーは今の今まで病に侵されまともな睡眠を取る機会が殆ど無かったのだから。
「――って、シュラ!?何処かに連れ去られてたって話じゃ!?」
「今更過ぎでしょアンタ」
天才と馬鹿は紙一重。目の前で今更な事に驚愕しているアキラこそがアエスティーを救った。そしてアエスティーは俺達の目的地、ネイムロストへ向かうと言っていた。
きっとこの出会いも俺の『邂逅』の加護による絶対的なものなんだろう。きっとこの先、この出会いが必要な事だったと実感する日がくる筈だ。ここにいる皆と会えて本当に良かったと心の底から思う日が。
俺は目の前で談笑する皆を見て、一人微笑んだ。
「クラス対抗戦」
文字通り、クラスの代表者を選出して長期休暇で蓄えた力を見せ合う対抗戦。




