とある日の真実と魔王の置き土産
長らくお待たせ致しました!!
投稿した新作の構成を練ったりしていたら日が大分空いてしまいました。
アルビノが特徴と言えよう歪な存在感を放つ男と目があった瞬間、私はあの時感じた視線はこの男のものだったのだと確信する。その確信と同時に思い出す記憶もあった。
視線の正体を確認しようとして、気付けば蹌踉めいたツヨシ様の支えになっていた事。全ての動作がスローモーションとなった世界で、ツヨシ様が離れると同時に意識が再び途切れた事。
全てを思い出した上で、この男がツヨシ様と対峙していた事が分かった。
「随分長い眠りだったじゃないか。まさか三ヶ月も眠り続けるとは思わなかったよ」
「三ヶ月…!?」
自分が三ヶ月も眠っていた事に驚愕し、直後にツヨシ様をどうしたのかと言う疑問が浮上する。
「そんなに睨まなくてもいいじゃないか。まだ何もしていないよ。僕には寝ている間にあれこれする趣味はないからね」
「ツヨシ様をどうしたの…?」
「ツヨシ?――ああ、あの男か。多分死んだんじゃない?僕の加護の影響結構受けてたし」
死んだ。そう聞いて私は絶句した。ツヨシ様の真の実力がどのレベルなのかは分からないけど、あのマシロちゃんでさえ従えてしまう力の持ち主だ。簡単に負ける筈がない。
そう、負ける筈はないと信じていながらも私の胸の中は不安と絶望で渦巻いていた。
「そん、な……わけ…!」
「あるんだよね、それが。僕の『衰弱』の加護と『洗脳』の加護があればさ」
男が自らの加護を明かす。『衰弱』と『洗脳』。確かにそれならばツヨシ様が『衰弱』の加護により弱っているところを洗脳する事で身動きを封じて殺す事が出来る。
ツヨシ様曰く、加護の力は常人では抗う事の出来ない絶対的な力で、使用されると恐らく自分はやられるだろう、らしい。あの言葉が無ければ私はここで嘘だと反論していたに違いない。
「現実を見なよ。こうして僕は生きてるし、君はここにいる……あんな他人に頼らなきゃ生きていけない様な雑魚のとこにいるより強い僕といる方が何倍も楽しめるだろ?」
そう言って片手で髪を掻き上げて高笑いをする男は、ツヨシ様を私から奪った挙げ句に雑魚と侮辱した。
渦巻いていた不安や絶望はもう消え失せた。今の私に宿る感情はただ一つ、殺意と、憤怒。
「雑魚って言ったな……」
「ん?」
「ツヨシ様の事を、雑魚って、言ったな…!!」
激しい負の感情が私の全身を暴れ回り、具現化し、周囲に影響を与え始めた。
黒く、黒く。私を中心に部屋が侵食されていく。
「何、だ……?この力は…?」
「許さない…!私はツヨシ様を殺したお前を、許さない……!!」
私の左目、紺青の瞳に突如として現われた紋様が怪しく光を放つ。
部屋全体に広がる光は、いずれ収束する。
「――許さないんだからあああああああ!!」
刹那、瞬きの一つもしないうちに光は光線となって男を飲み込んだ。
所謂目からビーム。ツヨシ様が初めて会って間もないある日、「せっかくの新ライフなのに目からビームも撃てないとか何だかなー」だとか言っていたのを思い出しながら何もいなくなった前方の空間をただただ私は見つめていた。
「ツヨシ、様……私は、仇討ち、ちゃんと出来たかな…?」
目尻に溜まる涙が溢れるのを泣くまいと堪えていると不意に頭痛が襲い掛かって来た。
それは侵食されていた空間が元に戻りきった瞬間の事だった。
蘇るはツヨシ様と出会う以前の記憶。何時の間にか忘れていた重大な真実。
私は、私達はただ、魔王城に誘拐されていただけではなかった。
思い出してみればそう、私達は魔王による実験の為の実験台だった。
何人もの子供を世界各地から手下に誘拐させ、その中から自分の後継者に相応しい者を抜擢して魔王の種を埋め込む。埋め込まれた殆どの者は内側から侵食し、支配せんとする魔王の力に耐えきれずに消滅してしまった。
勿論、私も埋め込まれた実験台の一人で、残り少なくなった未だ耐えていた十数人の子供達と共に膨大な力に藻掻き苦しまされていた。
そんなある日、魔王は殆どの手下を引き連れて魔王城を発った。発つ直前に遺跡云々と話していたのを今更ながら思い出す。
魔王が離れてからも魔王の存在は近くで感じられた。恐らく埋め込まれた魔王の種が関係していたんだろう。まだ近くにいる、そんな恐怖に怯え、全身の苦痛に耐えるばかりで逃げる事も出来ずに魔王城の一室に籠もっていたある日、気付けば周囲の子供達は姿を消していた。
とうとう魔王の種に消されてしまったか、はたまたチャンスと見て城を出たか。どちらにせよ、死んでしまった事には違いがなかった。
その日を境にだろうか。私の中の魔王の種による苦痛は綺麗さっぱりに無くなっていた。その時点で尚、魔王の存在は感知出来ていたけれど。魔王を討ったあの日、誰よりも早く察知出来たのはそれが原因だった。
そうか。私は、知らないうちに魔王の種を受け入れて適応してしまっていたんだ。
「つまり、私は、魔王……?」
魔王が死んだ今、魔王の種を制御している私はそう言う事になるんだろう。
それに、恐らく今の光線も魔王の力の一端だ。負の感情で動いたと言う事はつまり私が魔王として機能している事を指していた。
「私、どうしたら……」
ツヨシ様はもういない。私の居場所はもう何処にもない。となるともういっその事、魔王として活動してしまうのもいいのでは?
そんな黒い考えが脳裏に過ぎる。駄目だ。これではせっかくあの城から出た意味が無くなってしまう。ツヨシ様との悪を根絶する旅が、全て嘘になってしまう。
悩む。頭を傾げ、歩き回り、最後に壁に背を預けて座り込み、溜め息を吐く。
どうすればいいんだろう。そうもう一度心の中で呟いた時、急に私の足下に魔法陣が出現した。
「きゃっ!な、何これ!?」
驚愕し、混乱する。突然の事で慌てふためいていると、もう二度と聞く事が出来ないと諦めていたツヨシ様の声が、頭の中に響いた。
《今世界の理を詠み解き、楔を打ちて汝に命ずる。我が剣よ、今権化たる魔の力を糧にその身を転じ、そして付き従え。――忠実なる我が隷よ。応じるのならば、ここに顕現せよ!!》
知っている。マシロちゃんのとは少々異なってはいるものの、この詠唱を私は知っている。
ツヨシ様だ。生きている。ツヨシ様は生きていてくれて、私を呼んでくれている。ただの私としてではなく、ツヨシ様の剣としての私を。
ならば、応じなくてはいけない。今度こそこの内にある温もりを手放さない様に。
「――承りました、ツヨシ様……!」
光に包まれる。一瞬の出来事だ。私は迷わずツヨシ様に抱き着いた。
溢れる涙は今度こそ止まる事なく、頬を流れた。温かい気持ちが胸を満たす。
私は、泣きながらも笑顔を見せた。私は大丈夫、元気だと。嘘偽りのない笑顔を。
するとツヨシ様は情けない泣き顔を見せてくれた。それは私を本気で心配してくれた証なんだとすぐに理解し、改めて感じたのだ。
嗚呼、なんて私は幸せなんだろう、と――。
「ルカリナ学園」
魔術師を育てる為の学園。世界で一番大きく、毎年優秀な生徒を送り出している事で有名。




