捕らわれた日
いやはや、まさかここまで日が空いてしまうとは思わなんだ…。
◇
魔王軍残党殲滅作戦は敵対象捕獲と言った形で終わりを迎えた。アレチェスカ王国の大勝利だ。
城へと戻る為、騒ぐ翼を生やした魔族の男を無視してツヨシは歩みを進み始める。私はただ、何も言わずに着いていくだけ。正直さっきの戦いで疲れている。
「ですがこの件で副団長にも認められて一石二鳥じゃありませんか?」
「あ、それもそうか!いや、ラッキー!」
疲労などは一切見せずにテキストと話すツヨシの後ろ姿を見ていると、不意に何処からか視線を感じた。冷たく、突き刺さる様な視線だ。
私は咄嗟に視線のする方へと―――気が付くと、私は見ず知らずの部屋で、如何にも高級なベッドで、理解の追い付かない脳で、徐々に定まる視点で天井を見つめていた。
何がどうなってこの状況なのか、全く理解出来ない。そもそも私は外にいた筈。
記憶を探ってみるが、駄目だ。視線を感じてからの記憶が何処にも記録されていない。
――そうだ、ツヨシ様は。テキストやマシロちゃんは?
「……いない」
それどころかいた痕跡すらない。少し考えて、私は真っ先にあの時感じた視線を怪しんだ。
記憶の欠落もそれが関係しているに違いない。少し探ってみよう。
一度決めた事は最後までやり通す、を出来る限りモットーにしている私の行動は早い。脱皮の如くベッドを降りて部屋の扉へ足音を殺して向かう。
まずは扉に耳をくっつけて向こう側の音を確認。物音の一つもしない事が分かるとドアノブに手を掛けゆっくりと扉を開く。
廊下だ。貴族街の宿屋かもしれないとも考えていたがその線はなさそうだ。何て言ったって現在私がいる廊下は豪華な装飾こそ飾られているものの、壁や床が石造りだから。
つい最近の記憶だ。あの光景を忘れるわけがない。
このまま一つ一つ部屋を覗いていくのは流石に手間が掛かるので、私は魔法を使う事にした。
《風の精よ。我が呼び掛けに応じその力を示せ。――舞い踊る風は物を知る》
「サーチ」
風属性の探知魔法を発動。私を中心に広範囲に渡って探索をする風が出現する。この探索魔法は範囲内に生命反応があれば、すぐに私へ情報が届けられる様になっている。
そして、その情報は発動して間もなく届けられた。場所は、下の階の広間らしき場所。
視認出来るわけではないのである程度の情報だけしか得る事が出来ないが、それだけで私には十分だった。
考えるよりも先に足を動かす。思考はその後だ。
駆ける。駆ける。駆ける。階段を数段ずつ飛び降りて、また駆ける。そうして辿り着いた先に――。
「ん?ああ、君か。おはよう、いや、こんばんは、かな?」
――歪はいた。
「魔力粒子」
魔法を使用した後に発生する残留魔力。視認は出来ないが魔法の素質を持つ者は
肌で何となく感じる事が出来る。魔力粒子を吸引しても身体に害はないが、吸い過ぎると
ごく稀に魔力酔いしたりする者もいる。




