灯台モトグラシー
章タイトル変更しました。
もうこの作品、急展開過ぎて着いていけません。
あ、明けましておめでとうございます!!今年もぜひよろしくしてご愛読お願い致します!!
追伸、ちなみに僕は船が沈んで死にそうな時、一人用の板が目の前にあれば他の人は蹴り飛ばしてでもしがみつきます。
村を出て二日が過ぎようとしている。地図を見るからに港へは後少しみたいだがその姿はまだまだ見えない。
焚き火を囲んだ俺達はそろそろシチューとか食べたいなどと思いつつ干し肉にかぶりつく。
「干し肉美味い」
「美味いって言うのは否定しないけど、そろそろ飽きてきたわ」
「ユリカに同意」
「むぐぐぐ…!」
干し肉に手こずるアエスティーを横目にユリカがスクッと立ち上がって握り拳を作った。
「そもそも何でもっとまともな食材揃えなかったの!?」
「と、俺に申されましても…」
ユリカの非難めいた視線を受けつつ、俺は顔を逸らす。確かに干し肉チョイスは間違ったとは思う。
けれど、それでも俺は後悔も反省もしていない。干し肉は世界を救うんだと信じているからだ。
突飛な発想だと笑いたければ笑うがいい。どんな文句だろうと受け止めてみせよう。でも罵倒だけは止めて欲しいな。
「まあまあ!落ち着いて下さいな!港へ着けばもっと沢山の食材を仕入れる事が出来ますので!」
「ほんと?」
「本当ですとも!」
ほぼ間違いないだろうテキストのフォローによりユリカの爆発寸前だった不満は一時的に抑えられ、俺とアキラはホッと胸を撫で下ろす。
「だったらいいんだけど…」
「港まで後少しの辛抱なんだ。今日はそろそろ休んで明日に備えよう」
やや不満はあるものの、何時までも喚いていられないと自分に言い聞かせてユリカは大人しくその場に腰を降ろした。その判断力は流石Sクラスと言ったところか。
アキラの提案も出たところで、明日すぐにでも港へ到着出来る様にと早めに寝る事にした。勿論、ここは屋内ではなく何時何が襲って来ても不思議じゃない環境下なので見張りが必要だ。
見張りには俺が立候補して他の三人には寝てもらう事になった。誰が見張りするかで少し揉めたが結果的に女性陣が見張りをするのは男である俺とアキラ的に抵抗があったので、数時間毎に俺とアキラで交代しながらと言う形に収まった。
今は皆、馬車で毛布に包まって夢の中だ。俺は焚き火の前で暖を取りつつ周囲に何かいないか警戒している。
こうしていると数ヶ月前にアレチェスカ王国までの旅路の途中に俺達を襲ってきた連中、微睡みの盗賊団の事を思い出す。あの時も俺が見張りをしていて、テキストから情報を搾り取っていたところを盗賊団の加護にやられたんだった。
「セイン達、元気にしてるかなぁ…」
「あの皆さんの事です!きっと元気に決まってますよ!」
「だといいな…っと、そう言えば忘れるところだった」
「どうしたんです?」
「ほら、俺の恩恵教えてくれる約束だったろ?」
「あっと、そう言えばそうでした!マスターの恩恵は…これです!」
テキストがふわっと俺の手の上に降り立ち、白紙のページを開く。そこへ新しい情報が記載されていく。
もう見慣れた光景となっているが、これを目にすると毎回俺は異世界にいるんだなと実感させられる。恩恵とは名ばかりのチート能力も然りだ。
「何々……『邂逅』?」
そのページには、辞書の様に邂逅の意味だけが載っていた。
邂逅――めぐりあうこと。「偶然の巡り会い」。
「えっ…つまり、俺の前世の恩恵ってそう言う事なの…?」
確かに俺がアキラと出会ったのも、フィーユと言う少女と出会ったのも、異形と出会ってしまったのも謂わば偶然の出会いに過ぎない。でも流石に邂逅が前世の恩恵って言うのはどうなんですかアルテシアさん。
「まあそうなりますね…何と言うか、お疲れ様です!」
「そんな馬鹿な…!俺の、チート無双伝説が…!!」
密かに思い浮かべていた俺のチート無双伝説が始まる前に音を立てて崩れ始める。もう俺に残された道は覚醒イベントしか残っていないのだと脳がアラートしてくるのが何とも腹立たしい限りだ。
でも逆に考えれば、寧ろこの『邂逅』のお陰で俺はシュラ、マシロ、勇者一行そしてユリカと学園の皆諸々と巡り会う事ができ、さらにはアキラとも再開を果たす事が出来たのかもしれない。そう考えると『邂逅』様々ではないか。
「いやしかしこの恩恵のお陰で皆と会えたのも事実……認めざる得ないか、この恩恵の効能を!」
自分の地味な恩恵の良いところを把握出来たところで、テキストから提示された今までの情報を読み流し始める。そして、とあるページが目に付いた。
それはなんて事はない、『使役』の加護についてのページだ。
「―――あっ」
「どうし――」
テキストを手放し、不意に立ち上がった俺に一瞬疑問を抱いたのも束の間、テキストも『使役』の加護に載ってある一文が指し示す事を瞬時に理解し、言葉を詰まらせる。
『使役』の加護――中略、『使役』の加護は『召還』の加護の上位互換としても扱う事ができ、その力には例え何者であろうと抗う事は出来ない。ただし上位互換として扱う以前に対象の名前とある程度の知識を持っている必要がある。
まさに灯台下暮らし。実際にこの方法を行ってマシロと言う強力な存在を召喚する事に成功しているではないか。しかも運が良い事に、シュラは"使役されていない"。
「なあ、テキスト」
「何です、マスター?」
「俺らって、馬鹿だな」
「全く以て同意見でございます…」
少しの沈黙を破り、俺はスゥッと息を吸い込むと静かに吐息を零し、両頬を軽く叩いた。空気が漏れる要領で気合いの声を上げ、焚き火から離れる。
これより俺達の旅の目的をシュラの奪還ではなくマシロとの合流へと変更する。異論は認めない。
「行くぜ、テキスト」
「何時でも準備は出来ていますよ!」
「何処の誰がシュラを奪ったのかは知らねえけどよ…返してもらうぜ、大切な仲間を」
テキストを手に取り、マシロを召喚した時の感覚を記憶より呼び起こす。
『使役』、発動。以前とは比較にならない量の魔力が奔流し、加護の力と混ざり合い俺の肉体を蝕んでいく。実は言うとユリカのマジックウェポンシリーズのダメージが完全に治りきっていないので肉体に掛かる負担が大きいのだ。
アキラの前世の恩恵、『解決』は何かを解決する事に特化した恩恵らしい。曰く、不治の病を治したい。その為には治癒魔法が必要だ。でも不治の病だから治癒魔法だけでは治らない。なら『解決』の恩恵を使ってみよう。するとあらま不思議、不治の病が治らないと言う問題を解決する出来ました、と言う風に何か解決出来ない問題があれば「これだ!」と言う要素を触媒に解決出来ないと思われていた問題を解決してしまう事が出来る――と言うのが『解決』の恩恵の効能だとアキラは言っていた。
実に正義感が強く探偵として様々な仕事を熟していたアキラらしい恩恵だ。
そして突然説明したこの恩恵がどうしたのか、どうしてそんな恩恵があって俺の肉体にダメージが残っているのか、と言えばそれが俺の頼みだったからだ。
アキラの恩恵で解決してもらった問題は俺を死の淵から救い出すと言ったもの。どうせならその後も治癒魔法で怪我一つない状態まで治療してもらえばよかったものを俺は自業自得が招いた怪我だからそこまでしてくれなくていいと治療を断ってしまっていたのだ。
まさかその遠慮も仇となって返ってくるとは思わず、そもそもこの名付けて使役召喚に負担が伴うとは知らなかった俺は、今容赦の無いダメージに苛まれてしまっている、と言うわけだ。
しかし、思い立ったが吉日。俺の確固たる意思はその程度では折れない。痛みが何だ。そんなもの死に際から三度復活を成し遂げた俺からすれば可愛過ぎる。
《今世界の理を詠み解き、楔を打ちて汝に命ずる。我が剣よ、今権化たる魔の力を糧にその身を転じ、そして付き従え。――忠実なる我が隷よ。応じるのならば、ここに―――っ!?」
暴れ狂う力の奔流に耐え切れずに掲げた右手の指先が歪に捻れた刹那、得体の知れない衝撃が右肩まで駆け抜けた。不思議と冷静を保っていた俺は横目に右腕を確認してみるが既に痛みは感じられず、ただ後方に吹き飛ばされそうになっていた右腕が歪な形でダラリと垂れ下がっていた。
右腕を持っていかれた――だが、それがどうしたと言うんだ。足は立っている。喉はまだ潰れちゃいない。まだ、イケる。
「……ここに、顕現せよ!!》
代わりに突き出した左手より混合せし膨大な力が解き放たれる。同時に、右の瞳より光が失われた。
「――来てくれ、頼む……シュラ!!」
左目を覆う光。突然の事だったので直撃をいただいてしまった。少しして、光に目が慣れてきた頃には既に時は止まっていた。
呆然としていると色のない世界で懐かしくも感じる仄かな甘い香りと共に俺の胸に一人の少女が飛び込んできた。その可憐な少女は止めどなく溢れる涙を拭う事なく、満面の笑みで俺の顔を見上げる。
「――承りました、ツヨシ様……!」
「シュラ…シュラ!」
ここに契約は果たされる。例え体の一部を失ったとしても、それ以上に大切な者を迎えられるのであればこの代償は容易い物だ。
俺は震える左腕でシュラを抱き寄せると、そのまま歓喜のあまりに涙を流した。
「…全く、私も丁寧に扱って欲しいものですねぇ」
隣で背表紙に付いた土を払いながらテキストが文句を言っているが気にしないでおこう。
「魔術都市アズワール」
ファヴル二ア国南部に存在する魔術都市。名の通り、魔術を取り入れた生活をしている。
魔の国と呼ばれる所以はこの都市にあり、数少ない学園の一つ、ルカリナ学園を中心に構えている。
魔法を頻繁に使うので非常に濃密な魔力粒子が魔術都市全体に漂っている。




