思わぬ関連性
ここで出すつもりのなかった恩恵登場で僕は困惑している。
「大丈夫か…?」
「――はい、この通り、大丈夫です」
アキラの確認に、女の子――否、ここは少女と呼ぶべきか。その少女が一度目を瞑り、静かに、区切り区切りに返事をした。再び開かれた瞳は潤んでいてかつ目尻に涙が溜まっていく。
今、彼女の胸の内を乱反射するのは、歓喜、感謝、安堵と言った感情。不治の病と断言され、とうとう村人からも隔離されて挙げ句に薄汚い小屋の中で人生を終えるのかと諦め絶望しきっていた心に差し込まれた一筋の光、希望。
それらが少女に涙をもたらした。
「ありがとう、ございます…!」
長い間不治の病に全てを蝕まれていたからこそ分かるのであろう、病が完治したと言う感覚。ここに、感涙極まれり。
一度流れ出した涙は止まらず、少女が何度拭っても拭っても、それでもポロリとこぼれ落ちる。その姿を何故か微笑ましく思ったのかユリカが何処か優しげな表情を浮かべているのが伺えた。
「礼はいらないさ。俺は当然の事をしたまでだからな」
そうだ。アキラは人一倍正義感が強く、目の前の困った人を見捨ててはおけない奴なんだ。長い間隣にいた俺が一番よく知っている。
あまりものお人好しさにあっち行きこっち行きと日頃手を焼いていたのが今では遠い記憶の様に感じ、俺は思わず目を細めてしまった。幸い、誰にも見られていなかったのでどうしたなどと問われる事はなかったが。
「全く、お人好しさは相変わらずなんだな」
苦笑しつつ言うと、アキラも同じく困った様に笑い返してきた。
「これしか取り柄がないからな」
「で、これからどうするんだ?」
「どうするって…まずこの子の病気が治った事を村長辺りに報告しに行った方がいいんじゃないのか?」
「それもそう」
「――ま、待って下さい!」
俺の台詞を遮って制止の声を上げたのはユリカではなく、アキラに抱えられたままの少女だった。
「あの、もしかして皆さんって、外から来た人、ですよね?」
「そうだけど」
「でしたら、その…ご迷惑でなければ私を、ある場所へ連れて行って欲しいんです…!」
「…理由を尋ねても?」
「実は、私、この村の出身じゃなくて…」
その言葉にユリカが反応を示す。心当たりがあるんだろうか。
「もしかして、村の連中が言ってた捨て子って話?」
「捨て子?」
「何かある日ふと村の入り口に捨てられていたらしいわよ」
もしかしてその頃から既に病持ちだったのか、と脳裏に過ぎるが口には出さず話に耳を傾けた。
「ある場所って言うのは?」
「ネイムロスト…私の、故郷、らしいです」
「っ!!」
少女除いた一同が驚愕する。ネイムロスト、それは俺達の旅の最終目的地ではないか。
何より驚いたのがこの少女の故郷がネイムロストだと言う事に他ならない。
「ま、待て。待ってくれ!ネイムロストには、人が住んでいるのか!?」
「ふゅ…!わ、分かりません!その、声が聞こえるんです…」
「声?」
「はい。女の人の声、です。不治の病だと告げられた日からずっと、頭の中に語り掛けてくる声が、「来たるべき外の者達と共に、ネイムロストへ帰還せよ」って…」
アキラとユリカは首を傾げているが、俺には何となく心当たりがあった。確かテキストが提示した亡世の支配者の情報には実は喋る的な事が書かれていた筈だ。実際、使役する時と夢の中で言語を発した。
思わぬ関連性にこれは何かあると確信を持ち、俺は一歩前に出て言った。
「分かった。実は俺達の目的地もネイムロストでな。利害の一致ってやつでよろしく頼むぜ!」
決め顔サムズアップ。瞬間、皆は俺から視線を外してそそくさと小屋を出て行った。一人取り残された俺は佇む。
「ああ、哀しきかな?」
記憶がない時を除けば出もしなかった筈の涙が流れた、様な気がした。
「ファヴル二ア国」
所謂魔法の国で、他のどの国よりも魔法技術が優れている。
中で一番有名なのはルカリナ学園で、毎年その学園から魔法のエキスパートが生み出されている。
世界地図でアレチェスカが中心とするとそこから右下に位置する場所に存在している。
機械の国と呼ばれるレーゼン帝国とは仲が悪い。




