前世の恩恵
毎晩サンドボックスゲームサンドボックスゲーム…うわああああああああ!!
「何かと思えば一目惚れって…」
ユリカも頭が痛いと言わんばかりに片手でこめかみを押さえる。その気持ちは分かる。
誰だって目の前の人が迫真のある顔で「これは…」などと呟いていれば何事かと気になる。実際、俺もそうだった。
「で、どうにかなりそうなの?」
「あ、ああ!勿論だ!」
ユリカの問い掛けで我に戻ったアキラは慌てて返事をし、手を女の子へ翳した。
《治癒の精よ。我が呼び掛けに応じここに力を示せ。――かの者に平穏をもたらせ》
治癒魔法を使えるのかと感心するや否、俺はその魔法が通常とは異なるものだと言う事に気が付いた。ユリカは全く気付いていない様だ。
同じ異世界から来た者として、アキラが使用した力がこの世界のものではないと理解した俺は思わず目を見開いてしまう。
俺の様にアルテシア様から直接加護を貰ったなんてものでは断じて違う。あれはもっと別の――そう、謂うならばチート能力。
手に汗を握り、興奮を抑える。やはり、実在したんだ。チート能力は。
「イルニスヒール」
ゲームで言えばデバフ、バッドステータス、状態異常。これらのものを回復させるイルニスヒールと言う治癒の上級魔法は不治の病でもない限りは大体を治す事が出来る。
不治の病でなければ。
「そんな…嘘でしょ?」
イルニスヒールを掛けられた女の子のハーハーと苦しげだった呼吸がどんどんと和らぎ、スースーと安らかなものへと変化を遂げていく。不治の病とは、と問いたくなるまでに簡単に病を治してしまったアキラに対し、ユリカは驚きを露わにした。
しかし、今のイルニスヒールは通常のものとは明らかに違いがあったのをテキストの情報を得て俺は知っていた。イルニスヒールは対象の者に掛ける際、翳した手から緑系統の淡い光が放たれるのに対して今のイルニスヒールは黄金に輝いていた。
やはりこれは異常な力だと判断した俺は気付かれない様に数歩下がり、今まで空気を読んでかは知らないが黙り込んでいたテキストに視線で訴える。テキストはその意図を察してか耳元に近付いて小声で囁いた。
「はい、今の力が不思議に思ったのですね?」
「ああ。今のは何だ?」
「あれは世界を渡った者のみに与えられる恩恵です」
「恩恵?」
「はい。前世…マスターにとっては元の世界ですね。その世界で最も優れた部分を能力として授かったもの、それが恩恵なのですよ。私はアキラさんの事をご存知ではないのでアキラさんの恩恵がどの様な効能を持っているのかは分かりませんが…」
「そうか、サンキュー。後で俺の恩恵教えてくれ」
「了解です」
なるべく速やかに会話を済ませた俺はすぐに意識をテキストから外して目の前へ向けると、そこには目を覚ました少女と見つめ合う顔を赤くしたアキラがいた。
どうせなんて綺麗な瞳をしているんだー的な事を考えているに違いない。
「オニブタ」
見た目は何処にでもいる豚だがその愛らしさとは釣り合わない鬼の様な角が生えている。
角はおぞましいが別にオニブタ自体は危害を加えない穏やかな食用愛玩動物なので怯える必要はない。
ステーキにして食べると美味しいと評判がある。




