アキラの買い物
今回はアキラ視点です。
◇
ツヨシやユリカと一旦別れた俺はまずは食料確保の為、果物屋に目を付けた。
「すみません」
「ん?見ない顔ですね。もしかして旅の方ですか?」
「はい。実はこれからちょっと大陸を渡ろうかと思ってまして」
「となるとそれまでの飲食料が必要になるわけですね」
中々話が分かる人だな、などと思いながら俺は「そうなんです」と返事をする。すると果物屋の男性は少し考える素振りを見せると手慣れた動作で果物を幾つか選び始めた。
「旅のお供と言えばこいつらですよ」
「これは?」
「マックォとヘイツァ、そしてブォイジェです」
「えっ!?」
思わずそんな声を上げてしまった。何なんだろう、その発音しにくい名前。
「知らないんですか?ははぁーん?もしかして旅初心者ですね?」
「…まあ」
急に腹の立つ言い方をしてきた男性へ抱いた感情を表に出さない様に対応しつつ、俺は男性の持つ赤色のマックォ、紫色のヘイツァ、黄色のブォイジェへ視線を移らせた。
「マックォはこう見えてそのまま食べても美味しいですし絞って飲んでも美味しい極上な果物なんですよ」
「リンゴみたいですね」
「リンゴ?何ですか、それ?」
しまった。そう言えばこの世界には元の世界にあった果物の名前は通用しないんだった。
俺はうっかりミスした自分に心の中で馬鹿と言いつけながら両手を慌てて振った。
「あ、いえいえ、何でもないです!そう言えば他の果物の良い点は何なんですか!」
無理矢理感が否めないが、何とか誤魔化す事が出来た様で男性は今度はヘイツァの説明を口にした。
「このヘイツァはですね。この少し硬い表面部分を少し砕いてストローを挿したら飲み物の様にして飲む事が出来るんです」
「へえ、そりゃあ凄い!」
ヤシの実に近い果物だろうか。大きさは拳二個分くらいだから喉を潤すのには丁度良い感じだ。
「そしてブォイジェ。これがまた不思議な果物でしてね!匂いを嗅げばたちまち気分がハイになり、口にすれば全身が温かくなって難しい思考をせずに済む、そんな効果があるんですよ!」
「そ、そうなんですか。取り敢えずマッカォとヘイツァを五つずつ下さい」
ブォイジェは完全にやばい物だと理解した俺は適当に話を流し、マッカォとヘイツァだけを男性に要求した。この世界では危ない薬に近い物が違う形で存在し、しかも罪に問われないらしい。
「へい!ありがとうございます!銅貨140枚となります!」
「どうぞ」
聖銅貨一枚と銅貨四十枚を取り出して男性へ手渡すと今度は男性から果物の入った袋を渡された。これで俺の買い物は終わりだ。戻ってまだ誰もいなかったら他のところも見に行ってみよう。
「ありがとうございます」
「また来て下さいね!」
男性と別れ、ゴリ車を止めてある場所まで戻るとそこには既に戻って来ていたツヨシがいた。ユリカはまだいないらしい。
「お、アキラは果物を買ったのか!」
「おう。お前は…干し肉?」
「旅と言えばこれだろ!つーか食べた事無かったから食べてみたかったんだよな!」
「まあ食べる機会は滅多にないだろうな」
そう言えば俺も長い間干し肉なんて食べてないな、と考えながらツヨシと雑談を始めるのだった。
「七聖魔術師」
アレチェスカ王国が誇る七人の魔術師のこと。
一人一人が勇者一行に匹敵する力を持っていると言われているが、真相は不明。
アレチェスカ領の遺跡を調査しに行った際に鉢合わせた魔王により壊滅させられた。




