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RETURN ~少女好きの俺が悪者を倒す~  作者: 半裸紳士
悪討疾走編
4/81

亡世の支配者

初戦闘回です。

「ツヨシ様!私も魔法使える様になったよ!」


俺が異世界に来てからおよそ一ヶ月が過ぎた。こうしてやせ細っていたシュラの体付きは健全な女の子そのものになり、俺も大体この世界の事や魔法、加護の扱いを理解してきていた。


「おお、属性は何だったんだ?」

「ええっとね、雷と風ってテキスト様が言ってた!」

「基本属性だけじゃなくて希少属性も持ってるなんて本当に凄いな!」


そう言って頭を撫でてやると、シュラは目を細めて気持ちよさそうにした。長い事ここで監禁されていたらしく、普段された事のない頭を撫でられるのが好きなんだとか。

ちなみに希少属性は雷以外にも闇、光がある。基本属性は火、水、風、地と言った定番なもので、俺はその中で火と地の属性を持っている。


「シュラちゃんの潜在能力は非常に高くて正直私もびっくりですよ!」

「そうだな、俺から見てもぐんぐん成長していってる気がするぞ」


不意にこの一ヶ月であった出来事を思い出す。


『私ね、強くなってツヨシ様のお役に立ちたい!』


シュラがそう言い始めたのは何時頃だったか。確か二週間くらいしてお互い慣れてきた時期だったと思う。シュラが突然俺の役に立ちたいと言い出して積極的になり始めたんだ。

最初こそは危ないからと雑用をさせていたが、次第にシュラが自分で危ない事から避けさせてるのだと感付き、激しい訴えをしてきた。だから俺は仕方なく『改造』の加護を使い、肉体の強化を施してみたんだ。

まず俺はシュラの基礎体力と腕力、肉体の頑丈さ等を大幅に上げ、並大抵の攻撃では傷一つ付かない強さを求めた。そして外見が高校一年生以上まで成長しない様にもした。俺の好み的に。

実験台みたいな感じで聞こえが悪いが、このシュラの改造は難なく成功を収めた。だがここで問題が発生するとは誰が思おうか?

その問題とは、ステータスの急激な変化に応じてシュラの外見が中学一年生から高校一年生まで成長してしまった事にあった。この事の重大性はシュラがこれから外見的に成長する事が出来ないと言うところにある。

つまり死ぬまで高校一年生。俺の趣向の仕業で。


『えっと、シュラちゃん?』

『ううん。シュラって呼んで、ツヨシ様?』

『ああ、シュラ…その、何処も痛くないか?』

『ん、痛くないよ?寧ろ何時もより体が軽い!』

『そう、か…』


あの時程後悔した事はない筈だ。まさかちょっとした願望を混ぜただけでこんな事態を招く事になるとは思いもしなかった、では済まされない。俺はシュラから肉体的な成長を奪ってしまったんだ。

ちなみに改造後は土下座して深い謝罪を行った。シュラは首を傾げていたが、その姿がもっと俺の良心を痛めたのはここだけの話。


「…………来た」

「え?」

「―――私達に酷い事した人が、帰って来た…!」


その言葉に俺は、俺とテキストは絶句した。最初こそは何を言ってるのか理解出来なかったが、確かに俺達にも感じられた。

禍々しい気配と背筋が凍り付く様な錯覚を覚えさせる殺気。加えて意思とは無関係に体が震え出す状態に陥れる程の威圧感。

震える体に叱咤を入れて俺は部屋の窓から外を覗く。―――殺戮の権化と目が合った。


「っ!!」

「なるほど…!可笑しいとは思っていました!こんな大きな城に住む主とは一体何者なのか…!今、それを理解致しました!マスター、ここの主は――」


高鳴る心臓の音。揺らぐ視界。硬直する肉体。全身の毛穴が逆立つ感覚を覚えて、やっとの事で俺はそれを理解する。あれは、あの化け物は。


「――魔王、だって言うのか…!」

「どうします、マスター…?今なら、逃げると言う手段がありますが…」

「逃げたいのは山々だっての!!けどよ、そんな事したらここで死んだ奴らに申し訳ねえんだよ!逃げたら、同じ事がまた起きて悲しむ少女が増えるだけなんだよ!!」


荒い呼吸を整えて、俺は一度落ち着く。そして不敵に笑んでみせる。


「それに、俺達には力があるって事を忘れんなよ」

「嗚呼、失敗を顧みないその確固たる自信!そんなマスターに私、脱帽致しました!こうなれば何処までもお付き合いしましょうぞ!!」

「ツヨシ様…」

「安心しろ、シュラ。いざって時は俺が守る」


頭にポンッと手を乗せて俺はテキストを手元に呼び寄せた。


「テキスト。俺達がこの一ヶ月、何をしていたか見せつけてやるぞ」

「了解しました、マスター!」


テキストが独りでにパラパラと開き始め、開かれたページが光を放つ。俺はそこに浮かび上がった文字を詠んだ。


《今世界の理を詠み解き、楔を打ちて汝に命ずる。亡世の支配者よ、今権化たる魔の力を糧にその身を解き放ち、そして付き従え。――忠実なる我が隷よ。応じるならば、ここに具現化せよ》


『使役』の加護の可能性。テキストは俺にその全てを教えてくれた。真竜から悪魔、そして天使までも使役出来る程の強大な支配力を持った『使役』の加護には、まだ歴代所持者が試した事の無い可能性が存在すると言う。その一つに、『使役』の加護を『召喚』の加護の上位互換として扱う可能性があった。

ならば『使役』の加護程の支配力を持つ力を持ってすればこの世に漂うと伝えられる亡世の支配者の魂を『召還』の要領で呼び出せるのではないか?

そう考えた俺はテキストに可能かどうか聞いてみたところ、前例は無いが可能性はあると言っていた。ならば試さない手はない。

詠唱を済ませた俺は魔力と加護を併用した『使役』を発動した。本来交わる事のない魔力と加護の力が織り成す独自の力の奔流が全身を駆け巡り、放出される。


「―――亡世の支配者、マシロリバウド!!」


俺以外の時が止まる。同時に色の無い世界に降り立った紅の少女が告げた。


「契約はここに果たされた」


世界が動き始める。気付くと少女が立っていた場所には炎を纏った人型の支配者(マモノ)が立っていた。

『使役』に成功したと見ていいだろう。現に亡世の支配者らしき者が目の前に存在しているし、先程の少女も契約が果たされたと言っていた。


「―――マシロリバウド」


俺の呼び掛けに亡世の支配者、マシロリバウドは無言で頷いた。


「やれ」

「―――――GOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」


劈く咆哮と共にマシロリバウドが炎に包み込まれて姿を消した直後、外で轟音が鳴り響いた。急いで一階に降りて外へ飛び出すと、そこには激しい攻防が繰り広げられていた。


「ぐっ、この強さ、何者だ貴様!?」

「GURURUAAAA!!」


マシロリバウドが腕から炎を噴出させ、加速力を増した拳で魔王の頬を捉えて叩き込む。漫画やアニメでしか聞かない様な打撃音が聞こえたかと思えば魔王は目でやっと捉えられる速さで壁まで吹き飛んだ。


「は、ははぁ…物凄いファイトしてますね…?」

「俺はもしかするととんでもないチートキャラを使役してしまったのかもしれない」

「す、凄い…!」


それぞれの感想を漏らす俺達は激しい攻防、それもマシロリバウドによる一方的なリンチ光景をただ呆然と見つめるしか出来なかった。

だって、レベル違い過ぎるんだもん。魔王と互角がせいぜいかと思ってたのに。


「可笑しい…こんなの可笑しいぞ!我は魔王だ!この世の支配者となる王の中の王だ!!なのに、何故!?」

「亡世の支配者マシロリバウド。数世紀前までこの世界を支配していたのはこいつなんだぞ」

「ぼぼぼ、亡世の支配者マシロリバウドォ!?」


そんな間抜けな声を上げて驚愕する魔王を俺は嘲笑うと、両腕を広げて叫んだ。


「そうだ!!そして俺が、亡世の支配者をさらに支配する亡世の支配者の支配者、ツヨシ様だ!!」

「その名乗り最高にだっさいですね!!」

「支配者の支配する支配者は支配…?あうぅ…」


俺の最高に格好良い名乗りを賞賛せず批判するテキストを睨み、俺の名乗りを理解しようとして頭からプシューっと煙を出すシュラに癒やされる。俺はそうして、片膝を突いてボロボロになっている魔王へ歩み寄り、顔を覗き込んだ。


「おい」

「な、何だ!?」

「てめぇ、何人の少女を殺した」

「何人の、少女を殺したかだと…?そんな物、覚えている筈がないだろう!!」


そんな物、と言う言葉を聞いて俺は完全にプッツンした。


「そうか、なら一つだけ教えてやる」


俺は立ち上がると背を向けてテキスト達の下へ少し歩いた。そして途中で立ち止まり、魔王へ顔だけを向ける。


「―――お前は死ぬよ。死ぬべきしてな」


テキスト達の下へ向き直すと俺は再び歩み始めた。直後、背後で何かが潰される音を聞いた。俺は振り返らない。振り返ると、吐いてしまいそうだから。


「少女は世界だ。それを否定し、殺したお前に生きる場所なんて無い…」

「言ってる事の意味不明さに気付いて無さそうですねぇ…」

「ん?何か言ったか?」

「いえいえ!無事に戦いが終わって良かったですねと!」

「ああ、そうだな。あれもこれもマシロリバウドのお陰――ってあれ?あいつ何処行った?」


振り返って見渡してみるがあれ程の存在感を放つマシロリバウドが消えてしまっている。もしかすると毎回呼び出さないといけないのか?

そんな事を思っていると、不意に俺の服の袖で誰かに引っ張られた。見ると、そこには紅の少女がいた。


「…マシロリバウド?」


コクリと紅の少女、マシロリバウドが頷く。あの少女姿ってイベント専用じゃなかったのか。


「わー、私よりちっさい!この子がさっきの強い人?」

「そうだぞ。マシロリバウド…マシロって言うんだ」

「マシロちゃん!よろしくね、マシロちゃん!」


マシロはまたもやコクリと頷く。あんまり喋らないタイプの様だな。さっきまでの咆哮がまるで嘘の様だ。所謂クーデレってやつだろうか。

俺はシュラがマシロと戯れている姿を微笑ましく眺めながら、テキストに話し掛けた。


「明日、ここを出るぞ」

「やっと出れるのですね!レッツアドベンチャー!私ワクワクしてきましたよ!!」

「正直魔王より強い奴がいるのかどうかが不安でしょうがねぇんだけど、女神から何も言ってこないとこを見る限りまだ世界には恐怖に怯える少女がいるって事でいいんだよな」

「その怯えてる人が少女とは限りませんが、そうなりますね!」

「こりゃ長旅になりそうだ。よっしゃ!シュラ、マシロ!飯食うぞー!」


まだ戯れていた二人に呼び掛けるとシュラが大喜びする。シュラは本当に食べるのが好きだな。対してマシロは無表情のまま腕を上げて喜んでいる。喜んで、いるのか?

とにかく、俺達は最初の危機を楽して乗り越える事が出来た。この先どうなるかは分からないが多分、大丈夫だと思う。俺は城へ駆け込んでいくシュラと、シュラに引っ張られて着いて行くマシロ、そしてその二人を見て苦笑しながら追い掛けて行くテキスト達を後ろから見て、そう思ったんだ。

ころころとサブタイが変わるのはきっと私の優柔不断が原因だと信じていたいです。

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