大丈夫のポーズ
投稿ペースが…!
10/26 追記:タイトル決まるまでRETURNに戻しておきます。
…何か良い案ないですかぁ(震え声)
「で、調子はどうなの?アンタ急に倒れたけど」
ソファーに深く座ってペチャクチャと喋るのを止めないテキストをいい加減焼いてやろうかなどと考え始めた頃、朝食を作って用意していたユリカがふとそんな事を口にした。
「大丈夫だ、この通りピンピンしてるぜ!」
そう言って上腕二頭筋を押さえて元気アピールをしてみせるとユリカはポケーッと俺の顔を見つめてから眉を寄せた。どうやらユリカには俺の鍛え上げられた上腕二頭筋が服越しでも見えたらしいな。
「…アンタ、もしかして記憶戻ってたりする?最初のウザさ加減が滲んでみえるんだけど…」
「お前俺をそんな風に思ってたのか」
訂正。ユリカは俺の上腕二頭筋ではなく俺から滲み出ると言うウザさ加減を見ていたみたいだ。テキストよりはマシな筈だが。
そんな冗談はともかく、確か俺とユリカの出会いは魔王軍残党殲滅作戦の時だと聞かされていた。少なくとも完全な記憶喪失の状態で目覚めた奴がウザさ加減を覚えさせる言動なんてしない筈だ。
つまりユリカの言う最初とは魔王軍残党殲滅作戦の時を指しているに違いない。そう考えてみるとやはり俺はこの異世界に来てからもあまり変わっていないと見ていいんだろう。
変わったところと言えば俺のゴリラと言われ続けた原因でもある肉体がやけに細くなっている事と髪が生えている事だ。言うなれば学生時代に戻った気分だ。
「まあ、そんなとこだよ。皆との記憶とか魔王倒した記憶とかそんなのは一切覚えてないけど、自分がどんな奴だったかは思い出す事が出来た」
そう、土台は出来た。後は英雄と呼ばれた自分を思い出して目的を定めるだけだ。
「じゃあ魔剣は――」
「悪いけどそこまでは思い出してない。しかもその魔剣とか俺の手元にないしな」
「役立たず」
「図々しいにも程があるだろ!」
何なんだこいつは。少女じゃなかったらぶん殴ってたぞ。
そんな腹を立てる俺とは裏腹に、ユリカの作った朝食がテーブルに並べられる。和食じゃないのが少し残念だが、異世界の料理はどれも新鮮で美味しい物が結構あるから何とか諦めが付けられる。
特に俺が好きなのはオニブタのステーキだ。オニブタとは鬼の様な角を生やした豚なのだが、凶暴そうな見た目とは反して草食系で大人しい食用愛玩動物としても幅広く飼われている焼くとジューシーな奴だ。
ソファーから椅子に移動して座ると、まずベーコンの香ばしさが鼻をくすぐった。
「おお!いい香りがしますね!もしかしてユリカさんはお料理上手でして!?」
「母様から習ったのよ。寮生活となると料理を作らなきゃいけないかもしれないし、食堂が開くのは昼からだから」
テキストが無い鼻で匂いを嗅いでいる様を見て何とも言えない気持ちを抱きつつも、俺は目の前の料理、ベーコンとレタスと目玉焼きを挟んだパンを見下ろす。
何処の世界でもこう言った食べ物は共通なんだな。
「――ってか、料理なのかこれ」
「何、文句あるの?」
「ない!ないんだけど、何だかなぁ…」
ユリカが作った料理は、俺の思っていた料理とは違ったのだ。僅かなこれじゃない感を抱きつつ、手を合わせてユリカの作った朝食を一囓り。
うん、美味い。このベーコンはきっとスネークアローと言う食用魔物の肉を使っているに違いない。
◇
「――とにかく、クラス対抗戦の神髄は如何に相手を圧倒出来るかにあるのよ。分かった?」
朝食も身支度も終えてユリカからクラス対抗戦のいろはを教わっているうちに教室に到着する。いろは、と言うには少し大雑把過ぎるのだが。
「分かった。つまり勝てばいいんだろ?」
「そうよ。ま、せいぜい頑張ることね。ここからはもう敵同士だから、もし私と当たっても手加減しないから覚悟しといてね」
手をヒラヒラと振りながらSクラスの教室へ歩いて行くユリカを見届けつつ、俺は教室に足を踏み入れる。瞬間、誰かが俺の前に立ち塞がった。
「おお、我が友よ!昨日はどうしてしまったと言うのだ!?突然倒れてしまうなど情けないではないか!」
「うわあ、ややこしい奴に絡まれた」
言うまでもない、ジェイルだ。悪気はないのだろうが両手を広げて入るのを邪魔しているから俺は静かにジェイルの腕にチョップをしてポーズを解除させる。
「いたっ!きゅ、急に何をするんだ君は!?」
「いや、そこに立たれると邪魔なんだよ!」
力強くそう言ってやるとジェイルはハッとした顔になって数歩下がり、両手で顔を覆った。
「嗚呼、俺とした事が…」
ブツブツと自分の行いに恥じだすジェイルの隣を素通りして自分の席に向かう。途中クラスメイト達から心配げな視線を送られたが一々反応していられないので取り敢えず気持ちだけ受け取っておく。
「よ、ハルート、リーナ。おはよう」
「つ、ツヨシ!お前もう大丈夫なのかよ!」
席に着いて二人に挨拶をするやいなや急にハルートが大袈裟に心配の言葉を送ってきた。まあ、確かに昨日は突然の事で倒れたから心配するその気持ちも分からなくもない。
「すっかりこの通りだ!心配掛けて悪かったな!」
元気アピール。再び上腕二頭筋を見せつけるポーズを取ってみせると、腑に落ちない感じだったが少し安心した様でハルートは椅子に腰を降ろした。リーナも同様だ。
「だったらいいんだけどよ」
「あんまり無理すんなよ!今日はクラス対抗戦なんだからさ!」
リーナが目に闘志を纏わせやる気を見せる。ハルートも心なしかそわそわしている気がする。どんだけ熱いんだよこいつら。
「分かってるって」
俺がそう言ったところでリンドが教室に入ってくる。元々ざわついていたクラスがさらにざわつきを増す。どうやらリンドがチャイムの鳴る前に来ている事に対しての様だ。
「先生。今日に限って早いですね」
教卓のすぐ前に座っていた眼鏡を掛けた男子生徒がリンドに訊ねた尋ねる。皆も気になっているのか既にざわつきは収まっており、聞く体勢に入っていた。
リンドは不敵に笑みを浮かべると、着崩した上着の懐から一つの封筒を取り出した。そして、それを掲げて高らかに言い放つ。
「ふふふ、聞いて驚けよお前ら!なんとな、今回のクラス対抗戦でこのクラスが優勝すれば俺の給料が倍になるんだってよ!!これはやる気出すしかないだろうが!!」
欲に塗れた理由を聞いて、クラスメイト皆が椅子から転げ落ちそうになっている。当の俺は王道な怠慢教師らしい理由だな、と思いながら苦笑いしていた。
「魔力と魔力回路と魔力貯蔵器」
魔力とは人、魔物、魔族が内に宿す魔法を使う為に必要不可欠で、胸の中心に存在する不可視の魔力貯蔵器より全身に張り巡らされた魔力回路を循環している力の事である。
器の大きさは全生物合わせて平等であるが、魔力回路の数には個人差が出てしまう。メシアは例外。
魔力回路が多ければ多いほど貯蔵出来る魔力量も増え、魔法を使う回数も多くなるが、逆もまた然り。
魔力操作についてはまたの機会に。




