テストに負けた日
今回暴走した。
「いえーい」
「いえーい、じゃない!私の鞘で何やってくれてるのよ!?」
「ええっ…」
「何その何で怒ってるのって顔!!」
何故か急に怒り出したユリカの理解に苦しみつつ、俺は男に肩を貸して歩み寄ってきた女性に視線を向ける。
「腑に落ちない勝ち方でしたが、実技試験は無事合格ですわね」
「実技試験"は"…?」
聞き捨てならない言葉を聞いた様な気がして、俺は訝しげに問い掛ける。すると女性は微笑みを浮かべて言った。
「ええ。お次は一般常識のテストです」
◇
「参りました…」
結果を言えば、惨敗だった。元々の頭脳が悪かったのか、記憶喪失が原因なのかは分からないが一般常識のテストの半分も埋める事も出来なかった俺は、回収されたテスト用紙の採点をしている女性を見つつ、机にうなだれた。
幾ら実技試験で教師に勝ったとしてもテストでボロボロでは意味がない。そもそも、事前に試験があると聞かされていればテストが無かったとしても勉強の一つや二つくらいはしていた。
それがどうだ。学園に編入する事も試験がある事も直前に伝えられたではないか。セリオリーゼ家には事前に知らせると言う機能が備わっていないのではなどと考えてしまう。
まあ何時までもグダグダと言ってられない。終わった事にはもう手の出しようがない。
「――はい、テストの採点が終わりました」
顔を上げ、ゴクリと息を呑む。女性はテストを裏返し、点数を発表した。
「28点です!」
「くっ!」
テストをよく見ればあってるのはほぼ記号問題と選択問題だけだった。俺は机を叩いて突き付けられた現実に嘆いた。
「これにて試験は終了ですわ。試験結果とクラスについては明日、学園長室にて行われますので忘れず遅れず訪れて下さいね?」
「はい」
「では私はこれで失礼しますわ」
女性は軽く会釈するとそそくさと教室を出て行ってしまった。結局二人の教師が誰なのか分からないままだったが、そのうちまた会う機会が来るだろう。二人が誰であるのかなどは頭の隅に追いやり、俺も教室を出た。
そこで律儀に待っていてくれたユリカが俺に気付いて寄って来る。
「あ、どうだったの?」
「28点。惨敗さ」
「なんて言うか、お疲れ様」
「元はと言えばユリカ達が早く教えてくれないからこうなったんだぞ?」
「何?私達のせいにするって言うの?」
「実際そうだ」
そうやってヒートアップしていく責任のなすくりあい。次第にみっともないと気付いた俺達はお互い溜め息を吐いた。
「何やってんだか…」
「全く以て同意。着いて来て」
ユリカが疲れたと言った様子で何処かに向かい始める。俺は何も言わず、言われた通り後を着いて行った。
そして寮だと言って案内されたのはアリーナと同等の大きさを持つ建物、全校生徒が住まう寮だった。以前のツヨシから言ってしまえば高級マンション。
「贅沢な暮らししてるなぁ」
「世界で二つとない名門とまで呼ばれてる学園だし、妥当なんじゃない?」
「それもそう、か…?」
「さ、こんなところで突っ立ってないで中に入ろ」
先導して寮の玄関へ入っていくユリカ。またもや、俺はその後ろを行く。
最近ユリカの背中ばかり見ている気がしてきた俺は、早いところ世話を掛けさせないよう頑張ろうと決意したのだった。
「この寮は男女混合で相部屋形式なの。基本、男女が同じ部屋になる事は無いんだけどね」
「男女七歳にして同衾せず…」
「何か言った?」
「え?いや、何も」
思わず口走った言葉は何だったのだろうか。聞いた事のある様で覚えのない、そんな言葉。
考えててもしょうがいないと頭を振り、玄関付近にあった受け付けに近寄る。
「アンタの部屋は既に割り振られてる筈だから、そこで聞いて。明日、またここで会いましょ」
それだけ伝えるとユリカは欠伸混じりに「風呂入って寝よ…」と呟き、フロア中央の魔法陣に乗って姿を消した。恐らくこの魔法陣で階を行き来するんだろう。
「…俺もさっさと部屋行って寝よう」
そう思い、受け付けのベルを鳴らす。数秒後、カウンター越しに現われたのが三メートル程の天井に首を曲げないといけなくなるくらいの大男で、思わず俺はあんぐりと口を開いた。
眉毛のない悪人面の大男は睨む様に俺を見下ろし、低い声で言う。
「お前、見ない顔だな」
「あ、えっと…明日、編入予定の、ツヨシって言います…」
その威圧感にどもりながら名乗ると、大男は懐からノートを取り出して確認し始めた。大男が大き過ぎてノートが手帳サイズに見えてくる。
「そう言えば、そんな事を学園長が会議で言っていた。つまり、お前は部屋の場所を知りたいんだな?」
「は、はい」
「今確認する」
相変わらずの威圧感で次第に冷や汗まで掻いてしまった俺は部屋に着いたら風呂に入ろうと決めた。
少しして大男がノートを閉じる。
「三階の309号室だ。部屋に着いたらルームメイトに挨拶をするんだぞ」
「分かりました、ありがとうございますっ」
ペコッと頭を下げると、俺は駆け足気味に魔法陣へ向かった。理由は勿論、大男のプレッシャーに耐え切れないからだ。
俺が乗ると魔法陣はすぐに輝き始める。すると急に目の前に一から六までの数字が現われた。そう言えばユリカが魔法陣で消える際に、何もない空間をタッチしていた気がする。
試しに三をタッチしてみると、案の定魔法陣はその効力を発揮した。視界がぐわんと歪み、気付けば別のフロアに立っていた。
確か自分の部屋は309だったか。部屋の扉に書かれた番号を順に辿り、言われた番号の部屋に着く。
「ここが明日から世話になる部屋か…大丈夫かな、人起きてるかな?」
ノックしてみる。が、反応無し。ルームメイトがまだ帰って来ていないのか、寝ているのか。何にせよ、入って荷物を置きたい。
ドアノブを回して鍵が開いている事を確認した俺は中に入った。明かりは点いている。消し忘れて寝てしまったんだろうか。
取り敢えず居間に荷物を置いて部屋を見て回る。寝室を覗いて見たが誰もいなかった。まだ帰っていない可能性は明かりが点いている事からないと判断する。だとしたら少し部屋から空けているだけか。
「ま、そのうち顔を出すだろ。悪いけど先にゆっくりさせてもらうか」
そうと決まれば早速風呂に入ろう。今日は色々疲れた。
洗面所に向かい、服を脱ぐ。風呂場の明かりも点けっぱなしとは電気代とかを気にしないタイプなのだろうか。それとも暗所恐怖症の類か。
服や下着を籠に投げ置き、風呂場を戸に手を掛ける。この時、俺は風呂に入る事に気を取られ、見えていなかった。その籠に、"女性用"の服や下着があった事に。
「ひょー、広い!」
「えっ!?」
戸を開け放つと、そこは数人で入っても余裕のあるくらい広かった。つい声にまで出してしまう。
でも、そこは重要じゃなかった。――今、聞き覚えのある声がした。
「――嘘、だろ」
湯船に浸かる、白い肌を高揚させて蕩けた表情の美少女。濡れた真っ赤な長髪は高い位置で纏められていて普段とは雰囲気が違って色気がある。加えて、発育が良く形崩れの一切が見当たらない乳房はしっかり俺の視線を釘付けにし、滴る水は鎖骨のラインを滑って谷間へ姿を消す。それより下の素肌は水面の揺らぎでハッキリとは見えないが、日々鍛え続けた成果とも言えようお腹には無駄な脂肪がなく、理想的な臍までのボディーラインが視認出来る。間違いなく、触れば柔らかな感触を味わえるのだろう。腰のくびれもまた、崩れがなくそこから続く脚は程良い肉感を残していて見ているだけで挟まれたくなる衝動に駆られる。だが何より点が高いのは浴槽の底で形を変えるお尻だ。布越しからでもその弾力、形の良さは見て取れてはいたが、実際はどうだろうか。弾力だけではない、揉みしだけば指と指の間より実が溢れるのは必須だ。
ちなみにどうして入り口付近にいた俺が浴槽の底の様子まで分かるのかと言うと、ちゃっかり浴槽の近くまで近寄っていたからである。どうせ、この後何かしらされて意識が飛ぶに違いない。ならば最後の最後まで記憶に焼き付く様に堪能するのが意地と言うものだ。
しかし、何時まで経っても罵詈雑言あるいは一撃で昏倒させる程の暴力は襲って来ない。それもその筈。
当の哀れな被害者である赤髪の美少女、言うまでもなくユリカは慌てに慌て、一応近くに投げれる物はないかと探したのだが特に見つけられず、挙げ句に全裸の男が前を隠す事もなく近付いてきたのだ。間近で見せつけられたと言っても過言ではない状況に、とうとうユリカの思考回路はオーバーヒートしてそのまま目を回して気絶してしまっていた。
「あ、お、おい!?ユリカ?ユリカさん!?」
その後、慌ててユリカを湯船から引っ張りだした俺は戸惑いつつもバスタオルで体を拭き上げ、用意していたらしい服を着せた。そして恐らくユリカの寝室のベッドに寝かせ、掛け布団を被せて任務完了。
ここまで理性を抑え切った自分に拍手した。
「加護」
女神アルテシア様が人、物に授ける異能力に近い力。
初級、中級、上級、最上級とランクがある。最上級が一番強力な加護なのだが、
逆に初級と言って侮れば痛い目を見る時もある。
基本どの様な加護を持っているかなどは教会に行けば知る事が出来る。一部例外もあり、
教会でも知り得ない加護もある(メシアの『魔拳士』など)。




