いざルカリナ学園へ
よく前回までの話を忘れて伏線回収し忘れや設定ど忘れしたりする時がありますので
気になった事や不可解な場面があった場合はぜひ教えて下さると嬉しい限りです。
―――夢を見た。
それは、何かに追い掛けられる夢。俺はその何かから必死に逃げていた。
草木をかき分け、石ころに躓き、木の枝で切り傷を負っても走る足を止めずに森の中をただ延々と走り続ける。
次第に光が見えて俺は出口に至ったのだと確信して速度を上げた。だが現実はあまりにも残酷で、草木は俺の希望を嘲笑うかの様に出口を封鎖してしまった。
一気に希望が絶望へと塗り替えられ、とうとう俺の足も止まってしまう。万事休す。
悔しげに呻いた俺は、振り返る。迫り来る何かの正体を知った。
それは、あまりにも巨大で肉感な姿態。曝け出されたロマンが草木を薙ぎ倒して既に俺の眼前まで迫っていた。
よもやこの様なラストを迎えようとは思っていなかった俺は、最後の悪あがきと言わんばかりに出ない声を振り絞って絶叫した。
その光景を最後に、俺は圧倒的胸囲に押し潰された。
「―――うわあああああああああああああああああ!?」
ガバッと起き上がり咄嗟に周囲を見渡す。…どうやら自室のベッドらしい。
何とも言えない奇妙な夢を体験した俺は嫌な汗を流しながらベッドを出る。確かユリカと剣術の稽古をしていた筈なのだが、どうにも記憶が曖昧だ。元からだが。
不意に、額が痛む事に気が付いた。そう言えば軽いハプニングがあったのだったか。
「いて…」
「起きたのね」
「うおっ!?何時からそこに?」
「今来たの。急に悲鳴が聞こえたから何事かと駆け付けたのよ」
そんなに大きな声出していたのか。今度からは出来るだけ叫ばない様にしよう。出来たらの話だが。
「変な夢見てそれで絶叫したんだよ」
「絶叫する程の夢って何…」
困惑の表情を浮かべるユリカそっちのけに、俺はふと外が暗いのを窓から確認した。どうやら長い間寝ていたらしい。
「そうそう。明日辺りには屋敷を発つから用意しといてね」
「あ、明日?新学期は明後日じゃなかったのか?」
「そっか、アンタは知らないんだったわね。実はこれから通う事になるルカリナ学園はこのファヴル二ア国から南にずっと進んだ場所にある独立した魔術都市、アズワールにあるの」
言われてみればこの二ヶ月間ファヴル二ア国に滞在していて学園らしき建物を見た事がなかった。それに、それだけ距離が離れているとなるとリュカの言っていた月に二、三回しか会えないって話にも納得がいく。
俺は納得して頷く。するとユリカは俺に背を向け、「早朝に出るから今のうちに準備しといて」とだけ伝えて退室していった。あの様子だともう稽古の時の事は気にしていないらしい。
「準備、か。結構荷物あるからなぁ…」
セインとその他の面々が言うには元々俺は何でも入る大きなカバンを持っていたらしいのだが、ユリカが荷物を運ぶ際に全部確認したところ、そんなカバンは何処にも見当たらなかったとか。
泥棒に盗まれたか、俺の行方知れずの仲間が持って行ったのかどうかは知らないが、出来ればそんな便利なカバンがあるのなら置いていって欲しかった。
まあ今更ぐちぐち言っても過ぎた時間は元には戻らない。今は明日の準備に専念する事にしよう。
と言っても持って行く物は既に決まっているのだが。持ち物が比較的に少ない俺が持っていく物は何故かとても大事な物の様な気がする一つのカバンとテキスト。そして金貨がパンパンに詰まったカバン、この3つだけだ。
俺は持ち物を一カ所に集めるとそのままベッドにダイブした。早寝早起き朝風呂で潔く学園に向かうとしよう。そんな計画を密かに立てながら、俺は再び眠りに就いた。
◇
朝。朝風呂朝食身支度全てを済ませた俺は清々しい気分で揺れる馬車を堪能していた。何気に馬車に乗るのは初めてで興奮している。
「ここから学園まではどのくらい掛かるんだ?」
「早くて夜には着くわね」
「結構遠いんだな」
覚悟していたとは言え、流石に夜までこのテンションを維持するのは辛い。
「ああ、言い忘れてたけどアンタ学園に着いたら試験があるから」
「試験?」
「そ、試験。試験の結果次第でアンタのクラスが決まるの」
「クラスを試験で決めるのか?」
「やっぱ知らないか…」
ユリカが溜め息を吐いた後、面倒臭げに学園についてを色々説明してくれた。
試験の意味はユリカの言った通り、クラスを決めるものだそうだ。そしてそのクラスなのだが、どうやらS、A、B、C、Dと分けられているらしく試験の結果の良し悪しで何処に入るか決められるシステムらしい。
ちなみにSが優秀なクラスでDが落ちこぼれなクラスらしい。平等にクラス分けするのでは駄目なんだろうか。
そんなこんなでユリカと雑談を交わしているうちに、城壁の様な物が見え始めた。城壁から突き出た塔らしき建物はもしや学園の一部なのか。
「見えてきたわね。あれがルカリナ学園を中心に建てられた魔術都市アズワールよ」
最早感嘆の声すら出ない程、その巨大な都市は圧巻だった。
『倉庫』の加護
女神アルテシア様が物に与える事の多い中級の加護。
名の通り、この加護を付与された物は倉庫となる。
上限限界がなく、幾らでも物を入れる事が出来る便利な加護。




