剣術の稽古
中谷堂のよもぎ餅はとても美味でした。
本を読んで午前中を過ごし、昼食も済ませた俺はユリカと共に日課としている剣術の稽古の為、屋敷の中庭に来ていた。木刀を持って暴れ回しても十分余裕のある広さの中庭は何度見ても感嘆してしまう。
ちなみにだが、このセリオリーゼの屋敷はアレチェスカ王国の領土にはなく、別の国であるファヴル二ア国の領土に存在している。元々ユリカは魔の国、ファヴル二ア国が出身で、武の国、アレチェスカ王国で己を磨くために学園の長期休みを利用してアレチェスカ王国に滞在していただけらしい。
つまりユリカはわざわざ眠ったままの俺を荷物ごと実家まで運んできたわけだ。ご苦労な事で。
そうしてここに居候するまでの事を振り返りながら素振りをしていると、不意に背後から足音が聞こえた。振り向いて確認するまでもなく、ユリカだ。
素振りを止めて手に持っていた木刀を地面に突く様にし、振り返る。そこにはラフな格好をしたユリカが木刀を担いで立っていた。もう見慣れた姿なのだが、どうしても視線はたわわな胸に向いてしまう。
心頭滅却。心頭滅却。自分にそう言い聞かせて邪な考えを振り払った俺はキリッと表情を変えてユリカを見据えた。
「準備万端って様子ね?」
「今日こそは一本取らせてもらうからな」
「やれるもんならやってみなさいよ」
やや挑発気味に言うと、ユリカは自然な体勢を取り始める。一見隙だらけに見える戦闘スタイルだが、実際打ち合ってみると正式な剣術とは違い、想像も付かない攻撃を繰り出してくるので中々厄介なのだ。
しかもユリカのそれは特に変則的だ。かく言う俺も同じ戦闘スタイルを使っているのだが。
少しの沈黙の後、先制に出たのは俺だった。剣術の師匠とも言えるユリカに先手を取られるとそれはもう防戦一方になってしまうからだ。
「ったあっ!」
一気に距離を縮め、懐に潜り込んで斬り上げを放つ。地面との摩擦で切っ先がガガガッと音を立てつつ、俺の斬り上げがユリカへと迫る。そして、それを当然の如く木刀の腹で受け止め、流しつつ蝶の様に舞い、俺の背後を取るユリカ。
今度はユリカの反撃が俺の背中へと迫る。横一閃に薙ごうとしているんだろう。俺は直感的に振り上げた腕を背中に回し、背中に当たる寸前だった木刀を防いでみせる。
流石に片手だった事もあって手の平に軽い反動と痺れが来るがそれらを無視して木刀を握る腕に力を加える。
「ぬぅ…おらっ!!」
「っ!」
力任せにユリカの木刀を退けた俺は勢いに任せて半回転し、そのまま一閃。荒くそして鋭い薙ぎ払いがユリカを襲う。だが彼女が驚いたのも束の間、即座に反応したユリカはその場で飛び上がり、木刀の上に着地して俺の眼前に木刀の切っ先を突き付けた。
「ふぅ…これで私の勝ち。異論はある?」
「いや…これは完全に俺の負け―――なんて言うと思ったか!」
そう言いつつ、木刀を手離す。当然支えを失った木刀は落下を始め、どう言う原理でかは知らないが木刀の上に立っていたユリカも体勢を崩して落ちる。俺はその隙を逃さず、落ちる寸前の木刀を蹴り上げて手に取り、尻餅を突いたユリカへと木刀を突き付けた。
形勢逆転。俺は勝ちを確信して決め顔をする。目を閉じてニヤリと。
「あっ…ん」
「へ?」
ユリカが突然短く喘ぐものだから俺はつい目を開いて確認する。そして、俺の突き付けた木刀の切っ先が見事にユリカが携えた果実を突いている光景を目にしてしまった。
思わず俺は呆然としたまま木刀でツンツンと突いてしまう。何故かしなければいけない気がしたのだ。本能敵に。
「ぁっ、く…ち、ちょっと、何してるのよ!?さ、最初のは偶然だったから目を瞑ろうと思ってたのに、分かった上でつつくとか神経どうかしてない!?」
「わ、悪い…何か凄そうだったから…」
「どどど、何処見て言ってるのよこの、変態――っ!」
赤面にして慌てふためきだしたユリカが咄嗟に投擲した木刀が見事に俺の額にクリーンヒット。そのまま仰向けに倒れた俺は朦朧とする意識の中でユリカの貴重な面を見れたと達成感に満たされていた。
ブラックアウト。
『勘定』の加護
女神アルテシア様より商人限定で授けられる初級の加護。
特殊発動型の加護で、相手と金銭のやり取りを行う際に発動する事が出来る。
発動後は金銭を重さ、音で判断出来る様になる。それが例え袋越しだったとしても。
実際にツヨシが止まった宿屋の店主もそうする事で料金通りか確認している。




