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RETURN ~少女好きの俺が悪者を倒す~  作者: 半裸紳士
王道横溢編
20/81

敗北の果てに

新章突入

魔王軍残党殲滅作戦から三ヶ月が経過した。


「あ、起きたんだ。おはよ」


窓から外を眺めていた俺に声を掛けるのは赤髪の少女。三ヶ月前の戦いに参加した冒険者の一人らしい。

三ヶ月前の戦いで瀕死状態だったと言う俺が奇跡的に一命を取り留めたと聞いてすっ飛んできたうちの一人が彼女だ。確か名をユリカ・セリオリーゼ。


「ああ、おはよう」


ユリカはお見舞いに来るなり俺に魔剣をくれとせがんできて、魔剣なんて知らないと答えると絶望して次の瞬間には俺を保護すると言い出していたのはとても印象的だ。

どうやら俺は以前、ユリカに戦いに勝利すれば魔剣を与えると約束していたらしく、一ヶ月眠り続けていた俺が目覚める日を今か今かと待ち続けていたらしい。だが現実は残酷で、ユリカが魔剣をせがんできた時点で既に俺は記憶喪失なるものになっていた。

実際、俺は目覚める前までの記憶が一切無い。目覚めたばかりの頃は自分の名前すら分からなかったし、三ヶ月前の戦いと言うものも知らなかった。今では二ヶ月間みっちりと教え込まれたお陰である程度の事は分かったつもりだ。


「朝食用意出来たから呼びに来たよ」

「作ったのは、マリエさんだろ?」

「まあそうなんだけどね」


何でもない会話。二ヶ月と接してきて全く変わらない距離感に何の疑問も感じないまま、俺はベッドを降りた。今ではすっかり傷も癒え、激しい運動をしても大丈夫なまでに回復している。

それならばこの家に世話になる意味はないのかもしれないけど、聞いた話では俺は外から来た旅人で住んでいたのは高級な宿屋らしい。そこに置いてあった荷物は全て現在俺が使わせてもらっているこの部屋に運び込まれているので無理に宿へ戻る必要はない。

それにユリカの両親である母マリエと父リュカは遠慮せずこの部屋を使っても構わないと言ってくれているのでお言葉に甘えさせてもらっている。今更出て行ったところで行く当てはない。

後、俺には仲間がいたらしい。今は姿を眩ませていていないが、皆勇者と同等、もしくはそれ以上の力を持っていたらしい。俺のベッドの枕元に置いている宝石が埋め込まれた本も以前は喋り倒していたらしいが、全然喋り出す気配がない。


「さ、行こうかツヨシ」

「ああ」


ツヨシ。俺の名前は、ツヨシと言うらしい。らしいと言うのも可笑しいが、記憶に無いのだから仕方がない。部屋を出て行くユリカを追いつつ、伸びをして関節を鳴らす。今日も体の調子は至って良好だ。

ユリカは貴族の生まれで、しかも上流貴族だ。なので住んでいる家もそれなりに大きな屋敷だ。最初の頃は広過ぎてよく迷っていた。

一階へ降りて食堂へ行くと既にマリエとリュカが椅子に座っており、食卓には豪勢な朝食が並んでいた。好物のオニブタのステーキが目に入り、俺は目を輝かせる。


「オニブタのステーキ!」

「本当に好きなんですね。おはようございます、ツヨシさん」

「おはようございます」


既にユリカは顔を合わせた後なのか普通に席に着いた。俺もあいさつをして空いているユリカの隣の椅子に座る。目の前の料理から食欲をそそる香りが漂い、つい俺のお腹が鳴ってしまった。


「さて、ツヨシさんのお腹もそろそろ限界らしいですし、早速頂きましょうか」

「申し訳ありません…」

「いえいえ、良いのですよ」


ユリカとは違い、柔らかい雰囲気と笑顔が特徴の赤髪の女性、マリエはそう言うと手を合わせた。


「生きとし生ける命に感謝を」

「いただきます!」


全員で合唱し、朝食が始まる。俺がオニブタのステーキに齧りついていると、不意にリュカが口を開いた。


「ところでツヨシ君に提案があるんだけど」

「提案?」


俺はリュカの提案と言う言葉に首を傾げ、口に含んだステーキを飲み込むのだった。

《睡魔》の加護

女神アルテシア様より授けられる中級の加護。

任意発動型で、加護が働くと周囲に霧が漂い、その中にいる対象の者は睡魔に襲われ眠らされてしまう。

大概悪党ばかりに授けられてしまうこの加護を実はアルテシア自身忌み嫌っている。

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