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RETURN ~少女好きの俺が悪者を倒す~  作者: 半裸紳士
悪討疾走編
17/81

魔王軍残党殲滅作戦

長篠の戦い。

騎士達の後を追って辿り着いたのは城から聳え立つ物見の塔だった。城下町の様子だけではなく、その外までも見渡せる。

何か魔法が発動しているのか普通の視力では見える事のない遠い場所さえも視認出来た。俺は南の方角に魔王城で見慣れた旗を掲げている軍勢を見るなりその数に驚いた。千人は軽く超えているだろう。

残党と言う割には随分多くてチビってしまいそうだ。


「おいおい…残党って数じゃねえぞ」

「流石に魔王を倒したとは言え、数には負けるか」


ミレリアス王が挑発に混じりに隣に並び見上げてくる。俺は不敵に笑うと腕を組んで言ってやった。


「へ、へへん!あんな数、朝起きて伸びするまでの時間があれば瞬殺だっての!」

「ほお、それは頼もしい」


膝が笑っているのには気付かれていないらしい。でまかせを言って出た冷や汗が冷たく俺の逃げ場をふさいでいく。

冗談はともかく、この状況をどうしたものか。アレチェスカ王国はそれなりに大きな国だ。東のギルド街の猛者を集めて騎士団を総出させても勝てるかどうか怪しい。ここは立場を危うくしてでもマシロに本気を出させるのがベストか。

俺が頭を悩ませていると報告に来ていた兵士がミレリアス王に跪いて最前線の状況を伝え始めた。どうやら既に魔王軍残党と応戦している者がいるようだ。


「現在、ギルド街の腕の立つ冒険者達が最前線にて応戦をしていますが、戦況は押される一方です!既に負傷者も出ています!」

「ぐぬぬ、奴らめ!七聖魔術師の不在をいい事に…!」

「七聖魔術師?」

「アレチェスカ王国を支える七人の聖魔術師の事ですよ。曰く、一人一人の力が勇者に匹敵する程だとか!」


テキストの話を聞いて俺は納得する。通りで騎士団が腑抜けているわけだ。圧倒的な力を持つ勇者一行とそれに匹敵する力を持つ七聖魔術師。この二つの戦力があればアレチェスカ騎士団の立場も薄くなる。騎士団長はどうか知らないが、その部下が手を抜くのは当然か。

しかし、何故その様な力を持つ七聖魔術師も勇者一行に同行させなかったのだろうか?城の守りなどの理由なら分かるのだが、その肝心な七聖魔術師の姿もここにはない。

忌々しげに魔王軍残党を睨み付ける副団長ミシェが漏らした言葉を聞くに、最前線にもいないようだし、一体何処で何をしていると言うのか。


「その七聖魔術師ってのは何処に?」

「ツヨシ殿らが来る以前に北の辺境にある遺跡に魔王軍の動きがあるとの報告を受けていたのだ。放っておいて此処へ攻め立てられても困る。だからすぐに七聖魔術師に魔術師団の総力を挙げて送り込んだのだが…こうして裏目に出るとはな…!おまけに七聖魔術師との連絡も途絶えた!恐らく…」

「…全滅した、か」


思い返してみれば確かに俺が魔王城で色々準備をしていた間、魔王は不在だった。その理由が遺跡まで遠出していたからだとすれば、勇者に匹敵する力を持つ七聖魔術師と魔術師団が壊滅したのにも辻褄が合う。

正直、マシロが相手だと雑魚に見えてしょうがなかった魔王だったが、あのままマシロが倒さず勇者一行が挑んでいたなら全滅、もしくは相打ち、さらに運が良ければ満身創痍で犠牲ありありの撤退になってしまっていたんだろうか。

実際俺と対峙した際、セインが仲間を失ったと言っていた。だとすれば魔王軍は思った以上に強大なのかもしれない。敵を甘く見ればあっと言う間にやられてしまうだろう。

ならば、俺に出来る事はたった一つだけだ。少しばかり偉人の知恵を借りさせてもらおう。


「聞いてくれ。一つ、提案したい作戦がある」

「魔王を倒した英雄の知恵ならば大いに頼らせてもらおう」

「あまり期待はしないでくれ。上手くいく確証はない」


ミレリアス王相手に何時の間にか敬語じゃなくなっている事に今更ながら気付くが、この際どうでもいいだろう。今は眼前の事に集中するべきだ。ここで敗北すれば多くの犠牲者が出てしまう。

その中に少女がいるのだとすれば尚更だ。


「単純な作戦なんだが―――」



作戦内容。第一列、第二列、第三列…と各ジョブごとに分けて列を作る。そして第一列が第二列の準備が整うまで時間を稼ぎ、必殺の一撃を放った後に最後に後退。今度は第二列が第三列の準備が整うまで時間を稼ぎ、第一列と同じく必殺の一撃を放って最後尾へ。これを繰り返す部隊をビリーブロング部隊と呼ぼう。

このビリーブロング部隊が最前線で食い止めている間に強大な力を持った連中で魔王軍を挟み撃ちにし、一気に魔王軍残党の本陣から根絶やしにする。至ってシンプルな戦法だ。

だがそんなシンプルさも活かせば最強の戦法となる。魔王軍残党は突然最前線の冒険者達が引いて警戒していた様だが、そのうちに作戦を全員に伝える事が出来た。見事にこの某魔王の戦法のお陰で食い止める以上の戦果を得る事が出来ている。

しかも最後尾に回った列の者は必殺の用意をしながらも消耗した体力を回復する事も出来るので勢いは増すばかりだ。


「魔王軍が魔王の策に嵌まろうとは思うまい!ふはははははは!」

「すっごく邪悪な顔してるけど、アンタ本当に魔王を倒した英雄なの?私から見ればアンタが魔王そのものなんだけど」

「くはは、よくぞ見抜いた――ってんなわけあるか!」


俺を魔王扱いしてくるこの赤髪長髪の少女は最前線で最も優秀な戦績を残していた剣士だ。ギルドに所属している冒険者らしい。可愛かったし本陣に攻め込む戦力としては十分だったので同行させているのだが、疑り深い上に妙に辛辣だ。

さっきからちょくちょく俺に精神的ダメージを与え続けている。おのれ、貴様が魔王軍残党の頭か!


「本当にこの戦いに勝てたら魔剣をくれるのよね?」

「さっきから言ってるだろ?魔剣あげるって」

「性犯罪者ってそうやって物で釣って襲うって聞くけど」

「誰が性犯罪者だよ!お前俺の目付きで判断してねぇか!?」

「………」

「目逸らすな!!」


さらにこの図々しさと来た。なんとこの少女の皮を被った悪魔、この一大事だと言う時に作戦に参加する代わりにそれなりの報酬を寄越せなどと申し出てきたのだ。頭のネジが幾つか外れているに違いない。


「そろそろ本陣ですよ、お二人とも!おいたはそこまでに!」


珍しく真面目なテキストが俺と赤髪剣士に注意を入れてきた。ご尤もなので素直に聞き入れて敵の本陣を見定める。戦力を最前線に回しているのか数はそんなに多くない。俺は手にした剣を握り直して気持ちを入れ替えた。

この戦いに勝てば、本当意味での魔王軍との決着が着く。負けられない。勝って少女の安寧を守るんだ。

『魔力集中』の加護

女神アルテシア様よりヒウラが授かった上級の加護。

常時発動型で魔法を使っていない間は常に魔力を貯蔵し続ける。

貯まった魔力は極めて濃厚で精密なものへと変換され、放つ魔法の力を何倍にも増幅される。

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