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RETURN ~少女好きの俺が悪者を倒す~  作者: 半裸紳士
悪討疾走編
14/81

謁見

前回のタイトルがアレチェスカ騎士団になっていたのは単なるミスです。訂正致しました。

翌朝。結局ソファーで一度も目覚める事なく寝ていた俺はテキストの喧しい呼び声によって目を覚ます事となった。耳元で騒がれたものだから不快極まりない。

寝起きも相まって不機嫌な表情のまま、俺は頭はガシガシと掻いて部屋を見渡す。昨日は荷物を置いてすぐに寝てしまったからよく見ていなかったのだが、改めて借りた部屋を確認してみると中々の広さだった。

今俺が座り込んでいるソファーが部屋の中央を陣取るテーブルを囲む様に置かれており、そこから数メートル先には宿の一室だと言うのにキッチンがある。簡潔的に言うと、借りた部屋は宿の一室と言うよりかは高級ホテルに近かった。


「…朝からうるさくするようなら要らない雑誌と一緒にゴミの日に出すぞ」

「昨日この宿に着く前に早朝に起こせって命じたのは何処の誰でしたっけ!?」


確かにそんな事を言っていた気がする。だが、それとこれとは別問題だ。

テキストは俺が命じた朝早くに起こせに対して朝早くから馬鹿みたいに騒ぐと言う暴挙に出た。これは許されざる行為。死罪からは決して逃れられないのだ。


「最後に遺言はあるか?」

「死にとおございません!!」

「そうか、死ね」

「いぎゃあああああ!?」


真っ二つに引き裂こうとするもテキストは不細工な悲鳴を上げて部屋の中を縦横無尽に飛び回る。あまり暴れて物を壊したりすると弁償代が怖いので追い掛けはしないでおく。

さて、冗談はさておき。俺がテキストに朝早くに起こすよう伝えていたのは事実。出来れば商業街が混む前に見て回りたいと言うのが理由だった。


「やれやれ…ん?そう言えばシュラは何処行ったんだ?」


ふと向かいのソファーを見ると昨日同じ様に寝たであろうシュラの姿が見られなかった。早起きなのは昨日までの旅で知っていたが、俺に何も言わずに何処かに行ってしまうなど珍しい。

ソファーから離れるのは少々名残惜しいが、これから毎日堪能出来ると割り切って三つある内の一番奥の部屋を覗いてみる。机、棚、クローゼット、ベッドがあるだけの殺風景な部屋だった。

何だか初めてシュラと出会った時の事を思い出して楽しくなってきた俺は高らかな笑いと共に隣の部屋の扉を開け放った。だが残念ながらそこは先程と同じ殺風景な部屋。


「ここもハズレか…だが、残りは後一つ!」


そう言って次の部屋、何故か他の部屋と違って横開きの扉に手を掛け、勢いよく開ける。


「ふはははは!見つけたぞ!」


この時、俺は小太りの店主が言っていた話を忘却の彼方に押しやってしまっていた。この宿屋の部屋には風呂が設備されていると言う重大な事を。


「ひぅっ!?」

「こんなとこ、ろ…に……?」


その部屋、脱衣所にいたのは霰もない姿の美少女。長旅のせいで大した手入れも出来ずボサボサだった紫色の髪が艶やかなストレートに生まれ変わり、さらには濡れて肌に張り付いている。タオルの上からでも確認出来る魅力的なスレンダーボディは透き通る様な白い肌をしていて、俺の視線を釘付けにしてしまう。

そんな刺激的な光景に今まで抑えていた俺の少女への過剰な執着心が理性から逃れ、気付けば荒い呼吸と共に手をワナワナとさせながらシュララと言う美少女に歩み寄ろうとし始めていた。止めようにも転がり出した大岩を止める事は誰にも出来ない。

ただ、強大な力を持つ者は例外であるのだが。


「い、いやぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「そんっ!?」


甲高い悲鳴。共に俺へ飛来し、額に直撃する櫛。

櫛がぶつかったとは思えない程のダメージを受けた俺は眼前に火花が散ったエフェクトを錯覚し、仰向けに倒れ伏せる。これがアルテシア様が用意した肉体じゃなかったら気絶していたに違いないだろう。

激痛の走る額を抑えて悶絶しているうちに脱衣所の扉を閉じたのか、少し力強い音が聞こえた。何気に櫛も回収していく早業まで成し遂げるとはシュラも成長したものだ。

そして時は経過して商業街。俺は目の前をズカズカと歩くシュラの後ろを追い掛ける形で着いて行っていた。


「な、なあ。悪かった、ごめんって。だから機嫌を直してくれ…」

「……知ーらない!」

「テキスト、知恵を、知恵を貸してくれぇ…!」

「私を散々弄んだ挙げ句か弱き少女に手を出しそうになった犯罪者予備軍に知恵を差し出せと?笑えますね!」

「だからさっきから何度も謝ってるじゃないか!?」


ずっとこの調子が続いている。どうにか打破したいのだが俺にはこんな使い古されたラッキースケベでも初体験なのは変わりなく、対処法が何一つ思い浮かばない。テキストに助けを求めても寝起きにからかわれた事に腹を立てていて軽くあしらわれてしまう。マシロに関してはそもそも喋らない。

どうにか出来ないものかと頭を抱えていると、ふとシュラが俺に向き直って言った。


「一つ、条件を呑むなら許してあげる!」

「出来る範囲なら何なりと…」

「荷物持ちになって!」

「…そんな事でいいのか?」

「うん」

「このツヨシ、シュラ様の為にどんな荷物でも持ってみせよう!」


シュラの慈悲深さに感動しながらも俺は胸を張ってそう言い放った。


「とは言ったものの…凄い量だな」


シュラの買い物や個人的に興味深かった物を買ったりしているうちに何時の間にか殺風景な部屋に山が出来る程の量になっていた。マシロを連れていなかったら全部一気に持ち帰るのは無理があったに違いない。


「整理が必要か…」

「マスターとシュラちゃんの物で分けて別々の部屋に置くのはどうです?」

「それが一番良いな。そうと決まれば早速…」


そこまで言った途端、不意に部屋の扉がノックされた。


「はい?」

「良かった。部屋は合っていたみたいだ」


返事をして開けると、そこには旅の時とは違い軽装に身を包んだセインが立っていた。まさか再会を約束して一日で会う事になるとは予想していなかった俺は内心驚きつつも、冷静に対処する。


「セインじゃないか!何か用か?」

「うん。早速だけど、王様から招集の命が下ってね」

「早いな」

「王様は来れる時でいいって言ってるんだけど、ちょっと城内に納得のいかないって人達がいてね」


来た、これだ。俺がなるべく城へ行きたくなかった理由。

考えれば当然だろう。ぽっと出の何でもない奴が勇者よりも早く魔王を倒したなどとは到底信じられない話だ。疑う者も出てくるのは絶対に回避出来ない。

どっちにしろ遅かれ早かれこの話が王様に報告されると言う時点で騒ぐ奴が出るのは確定されていたと言う事だ。俺は憂鬱げに溜め息を吐いた。


「面倒だな…シュラ、マシロ!」

「何々ー?って、セインだ!」

「やあ、シュラちゃん」


セインは自分に気付いたシュラに爽やかに微笑むと片手を上げて挨拶をした。中性的と言うか女顔のせいで何処か可愛げを覚えた事は忘れておこう。俺は健全な少女好きだ、同性に興味は無い。


「これから城に行くぞ」

「わー!城だって、マシロちゃん!」

「………」


城に行くと聞いて喜ぶシュラがマシロの手を握って嬉しそうにはしゃぐ。対するマシロは真顔でされるがままだ。


「良かった、来てくれるんだね?断られたらどうしようかと…」

「断ったらお前も色々大変だろ?それに招集掛かったら行くって昨日約束しちまったしな」

「ありがとう、助かるよ」


頭を下げるセイン。やはりセインは真っ直ぐ過ぎて少し俺には眩しかった。

そんなこんなで俺達はお馴染みの黒衣を着て謁見の間にシュラ、マシロ、テキストを引き連れてやって来た。勿論先頭はセインだ。

レッドカーペットを歩くのは実に気持ちが良いなどと思っていると玉座に座っていた王様が立ち上がった。実際、その人物が王様なのかと言われると正直肯定は出来ないが、身に纏う明らかな王族衣装とオーラが自然と王様だと言う事を物語っていた。

俺がここまで言うのにはやはり理由がある。容姿だ。容姿が限りなく美少女のそれなのだ。金髪で所謂王女編みとか言った髪型をしていてそこがさらに若さを引き立てている。


「ふむ。よくぞ参った、ツヨシ殿とその仲間達よ」

「いきなりですがお尋ねします。あなたがこの国の王で間違いないでしょうか?」


一応尋ねると、王様はコクリと頷いてから片手を張った胸に添えた。


「如何にも。妾がこのアレチェスカ王国の国王、ミレリアス・Q(クイーン)・アレチェスカで間違いない」

「ではミレリアス王。今日、この場に俺達が呼び出された理由をお尋ねしても?」

「それについては私から説明させていただこう」


ミレリアス王が何かを言う前に割り込んで来たのは黒髪短髪、大柄な体格で銀の鎧を装備した厳つい顔付きの男性だった。纏う気配が周囲で待機している鎧の者達の中でも特にずば抜けている。


「あなたは?」

「シュヴァルツ・スティングス。アレチェスカ騎士団の団長を務めさせてもらっている」

「騎士団長…」


通りで強そうなわけだ。納得がいって俺は満足げに頷く。


「ツヨシ殿と言ったな。まずは此度、急な招集に時間を割いて駆け付けてもらい、誠に感謝する」

「セインと言い、強い人ってのは皆真っ直ぐなのか…?」


思わずそう呟いてしまうが幸い誰にも聞かれていなかった。俺は黙って謝礼の続きを待つ。


「本題に入る。まずは城内の状況を説明すると、嘆かわしい事に我が騎士団にツヨシ殿達が魔王を討ったと言う話を疑っている者達がいるのだ」


申し訳無さそうに目を伏せながらそう告げたシュヴァルツ。その姿は自分の部下の無礼を恥じているとも取れた。よく見ると己の部下の意見を纏める事の出来ない自分に怒りすら感じているのか、シュヴァルツの拳は強く握られていた。


「次にツヨシ殿達をここへ呼び出した理由だ。これはミレリアス王直々の命ではないのだ」

「じゃあ俺達は誰に呼び出されたんですか?」

「私だ。私が、ツヨシ殿達を呼び出してもらえるよう頼んだのだ」

「何の為に?」


答えはもう分かっている。だがそれでも一応確認しておきたかった。呼び出した本人の口から直接、聞いておきたかったのだ。


「―――ツヨシ殿。どうか、愚かな私の部下に魔王を倒したその力を証明していただきたい。頼まれてはもらえないだろうか」


そう言って誇り高き騎士団を統べる男が、深く頭を下げた。謁見の間の騎士達がざわめき始める。それだけ今この場でシュヴァルツが頭を下げている光景は信じられないものなのだろう。

だが、不意に鳴り響いた手を叩く音にそのざわめきは一瞬で沈んだ。音の発生源はミレリアス王だ。


「静粛に!皆の者!聞いたであろう、見たであろう!あの誇り高き剣神と謳われた男がこうも無様に頭を垂れておる!この者をここまでさせたのは誰か!?魔王か、ツヨシ殿か!否、嘆かわしい事に事の原因は身内にある!!この様な事はあってはならぬ、ならぬのだ!よって妾はここに宣言しよう!今、この時を以て城内の修練場を騒ぎを静める為の決闘の場とする!!―――やってくれるな?ツヨシ殿とその仲間達よ」

「―――流石にここまでさせておいて断るわけにはいかねえよ」


一気に異世界転生物らしくなってきた様な気がしてきて気持ちが昂ぶった俺は敬語すら忘れて笑みを浮かべた。後にテキストは語る。この時の俺はとても邪悪だったそうな。

実際魔王を倒したのはマシロ一人なのだが、アレチェスカ王国が誇る騎士団長に頭を下げさせてまで俺達の功績を疑う馬鹿共には少しばかり痛い目に遭ってもらうとしよう。

今まで静かに待機していたセインに案内され、俺は決闘相手であるアレチェスカ騎士団副団長以下数名が待ち受ける修練場に到着した。

『寵愛』の加護

女神アルテシア様よりセインが授かった最上級の加護。

この加護の所持者は一生ありとあらゆる愛玩動物に自然と懐かれる体質になる。

ただし魔物にはこの加護は効かない欠点がある。

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