騎士の使命
魔王城。
それは世界の果てに位置すると言われている。
大陸1つ全てを敷地とし、100層以上もの城壁に囲まれている。
嘗て、数々の猛者たちが魔王城攻略に挑んだが、皆城の姿すら見ることは叶わず朽ち果ててしまった。
まさに、難攻不落の無敵城砦だ。
そんな場所に、今私は居る。
憎むべき宿敵と共に・・・。
「お帰りなさいませ、魔王様」
少年の帰りを笑顔で出迎えるエルフの侍女。
城壁外の印象とは打って変わって、城の庭はのどかで穏やかだ。
日光が暖かくて気持ちが良い。
「魔王様、そちらの方は?」
「新人。君の後輩って訳」
え?私が後輩・・・?
「そうなんですか!わ~、はじめまして宜しくお願い致します。私、マリーと申します。」
唐突に自己紹介が始まった。
魔物に軽々しく口を利くものではないが、騎士として名乗られたら名乗り返さぬ訳には行かない。
「ゎ...ぁ...」
喉が枯れ過ぎていて、声が出なかった。
「はわわわ!?直ぐにお飲み物を準備致しますね!!」
慌てて城の中に入って行く。
「それじゃあ、食堂まで案内するよ。ついて来て」
少年の後に付いて行く。
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長い回廊。
この少年と私以外の気配は全くしない。
どうやら、この城には少年とさっきのエルフしか居ないらしい。
「ふあ~。」
大きなあくびをしている。
呑気なものだ。
とても、世界を支配している魔王だとは思えない。
それに・・・
無防備な背中だ
今なら、コイツを仕留めることが出来るんじゃないか?
だが、相手は腐っても魔王。
そう易々と暗殺が成功するのだろうか?
コイツはきっと、とんでもない力を持っているに違いない。
何せ、突如別の世界からやって来て、瞬く間に世界を征してしまった男だ。
もし変な気を起こせば、きっと私は・・・。
いや、覚悟を決めろ。騎士として!!
魔物討伐のため命を捧げると神に誓ったはずだろう?
ならば、恐れることは無い。
使命を果たすのみ。
回廊の壁に装飾として飾ってあった剣を手に取り、少年の首に斬りかかる。
「え?」
装飾品で切れ味は余りなかったが、剣は首を貫いていた。
少年は力なく倒れる。
「・・・やった・・・のか?」
不気味なほど呆気なく終わってしまった。
脈は止まっている。
竜に化けたり、復活の呪文を唱えると言った気配もない。
完全に死んでいる。
ガシャン!!
ガラスの割れる音がした。
「あ・・・あ・・・魔王様!!」
エルフの侍女が驚きの余り飲み物の入ったグラスを床に落としていた。
どうやら、さっきの一部始終を見ていたらしい。
彼女が少年の傍に駆け寄る。
「そんな・・・魔王様・・・。」
少年を殺した私には目もくれず少年を気に掛ける・・・実に出来上がっている主従関係だ。
少年の死体を抱え、エルフの侍女は何処かへ立ち去ってしまった。
健気に尽くす彼女の後ろ姿は、私に言いようもない罪悪感を与えてくる。
魔王討伐とは、こんなにも釈然としないものなのか・・・?
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おめでとうございます!!
見事、魔王を打倒した!!
と言う実感は余り感じられずにいた。
何をする訳でもなく、ただ魔王城の中を彷徨う。
これで世界は変わったのだろうか?
そんな疑問すら湧いてくる。
途方に暮れる中で、私はある部屋に辿り着いた。
マリーの部屋
扉の鍵は開けられていた。
何の気なしに中へと入る。
「・・・。」
部屋の中は机とベッドが置かれているだけだった。
ただただ質素だった。
机の上には1冊の手記が置かれていた。
気になってそれを手に取る。
手記の内容を読むとそれは、あのエルフ侍女の日記であった。