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魔法少女はもう泣かない  作者: 存在X
第一章 『さようなら、旧秩序』
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第六話 『私たち』の逆鱗

その政治家さんのお召し物は

立派なお洋服でした。


懐にぶら下げておられるのも

立派な金時計でした。


お連れの方々は

帝都一流新聞社の記者諸氏でした。


「みたか、諸君! これこそが、嘆かわしい最近の若者なのだ!」


その政治家さんには

愛国的でとっても立派に

国難に際しては率先して身を投じられた

『お兄様』もいらっしゃられました。


「勇敢で正義と愛国の心に満ちた我が兄のような愛国者だけが死に絶え、こんな卑劣漢どもだけが生きながらえている!」


悲しいことに。


あるいは、喜劇というべきことに。

その人の周りにいる人々は、どこまでも立派でした。


だから、『誰もが』勘違いしてたのです。

その政治家さんも良識人なのだ、と。


「なんと嘆かわしい!」


『立派な人』なのだろう、と。


だから、その日、『愛国的な良識者』が憤った瞬間。

従軍したことのあるほんの数人を別として、

記者の誰もが『絵になる写真が撮れるだろう』程度にしか考えていませんでした。


良きにしろ、悪しきにしろ、売れる題材だろう、と。



政治家さん当人しても、最高の瞬間のはずだったのです。


『低俗な若者に良識の鉄槌を』


有体に言えば、戦後の選挙で、大臣も狙えるだろうと意気揚々と乗り込みました。


……乗り込んでしまったのです。


魔女の夕べという、侵すべからざるものへ。。


「ああ、なんておかわいそうなお方。戦地の敵兵とて、今少し知性のある罵り声でしたのに」


「エルダー・アナスタシア。それは、言わぬが花と申しますよ?」


「おかわいそうに。あんな立派な身なりなのに、中身が空っぽな殿方なんですから、いたわって差し上げないと」


クス、クス、クス。



「なっ、愚弄するか!?」


「あら、あら、あら。難しい言葉をご存じですのね」


「よちよち、お上手、お上手ですね」


「飴玉でも差し上げましょうか? おててを叩いて、褒めてあげましょうか?」


「さぁ、さぁ、さぁ、空っぽの頭で頑張ってお答えくださいませ」


愚かな彼は、知らないのです。


「私を、誰だと思っている! 帝国民主行動党の良識派に、なんという暴言を吐く!」


『社会の地位』など、魔女の夕べでは意味がないことを。


そこは、死せる『私たち』と、

未だ死さざる『私たち』の

境界定かならざるサバトの宴。


『私たち』の世界。


「第116アケラーレ『ルカニア』。星は9つ、折れた箒が23本」


故に、彼女は立ち上がるなり歌っていました。


「第216アケラーレ『ミネルウァ』。星は7つ、折れた箒が16本」


姉妹たちと。


「第316アケラーレ『テルミヌス』。星は4つ、折れた箒が11本」


箒仲間たちと。


「「「それで、大変にご無礼を承知で、愚昧な魔女よりお尋ねさせていただきます事をご海容くださいませ」」」


憤りを隠さずに、

泣けない涙を胸中でこぼしつつ

嘲りの色を込めて

『私たち』は歌っていました。


「サバトもご存じないような方が、死者を悼む? 本気ですかしら」


「クスクスクス、ああ、おかしなこと。おかしなこと」


「折れた箒を囲むことなど、『いつものこと』。夕べの語らいなぞ、珍しくもございませんに」


『私たち』の雰囲気に、記者たちの雰囲気が変わった瞬間のことでした。

取り繕わなければ、と政治家さんは悪あがきをしてしまっています。


それは、致命的でした。


「魔女を騙るか! この詐欺師ども! 私は、本物を知っているのだぞ! 偽物共が!」


偽物、と呼ばれた瞬間。

『私たち』を偽物と彼は決めつけてしまったのです。


魔女の夕べで。

『私たち』のお茶会で。


「本物をご存知?」


「ご存じ? ご存じ? あら、おかし」


「あんな方が、何をなされるのか不思議ですわ」


「私たちみたいな小娘ですら、国家のお役に立てるというのに、お恥ずかしくないのかしら」


たっぷりと悪意を滴らせて。

彼女たちは、殊更に嬲るように。

記者諸氏と政治家さんをぐるり、と囲むように踊り始めます。


「きっと、大きなお尻で椅子を温めるお仕事よ」


「でも、椅子がおかわいそうだわ」


「椅子だって主人は選べないのだもの、仕方ないわよ」


「おお、哀れなりしは木材の朋友かな?」


くすり、と。

くすり、と。



「ぶ、ぶ、侮辱はいい加減にしてもらおう! この、紛い物どもが!」


「アフア、その人、噛んじゃって良いよ?」


「エルダー・アナスタシア、ご容赦くださいませ。私、病気にはなりたくありません」


「あら、エルダー・アナスタシアったらうっかりさんねぇ」


「本当に。使い魔さんのお気持ちも、考えて差し上げなきゃ」


「あ、ごめんね、アフア?」


「構いません」


彼女と、一匹と、『私たち』の逆鱗。

触ることすら、憚るべきを。

恐れ知らずは、愚者ゆえに。


「い、い、犬が喋った!?」


引き金を引いたのは、自業自得。

虚飾の立派さが削げ落ちる瞬間。

彼は、知るのでしょう。


「使い魔もご存じない? あらあら、始めてご覧になられますの?」


「『本物の魔女』をご存知ならば、説明は必要ないのではありませんでして?」


「それでは、『楽しく遊びましょう』」

もうちょっとだけ

この政治屋さんの物語が 

続くんじゃ。

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