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魔法少女はもう泣かない  作者: 存在X
小話 或いはエルダー・ウィッチの船旅
19/25

終章 『それでも、見つめよう』

旅路の物語を、我が第116アケラーレ『ルカニア』の『私たち』に捧げます。

いつか、向こうで語らうその日まで。



第116アケラーレ『ルカニア』

エルダー・ウィッチ

アナスタシア・スペレッセ

4本足の生き物にとって、人間というのは奇妙な生き物です。


勿論、賢明にして淑女たる使い魔嬢とて、例外ではありません。

知恵深き犬の瞳に映るエルダーとは、まったく、謎に満ち溢れているではありませんか。


船室に戻るなり、ああ、疲れたとこぼす姿に凛とした気品はございません。

幻燐であったか、と嘆くほかにないでしょう。


「……アフア?」


「ご安心を、子供たちへ食事が配給されておりました」


「そっかぁ」


「とはいえ、先ほどのやり口、何度も使えるものでもございませんが?」


うん、と彼女は理解を示して頷きます。


困ったように。

少しだけ寂しげに。


とどのつまりは、いつものように。


「『私たち』じゃなくて、『私たち』ならば、何とかできたかな?」


「エルダー・アナスタシア、そのように詮無きことを」


でも、と彼女は珍しく食い下がります。


「お願い、アフア。『私たち』ならば、どうしたと思う?」


ふむーん、と使い魔嬢は考え始めます。


空に溶けてしまわれる今際まで

青と太陽を笑い飛ばし、箒を駆った

エルダー・ドロテーアであれば?


華を散華させるその瞬間まで

箒を愛し、空を泳ぐことを愛した

エルダー・マクダレーネであれば?


「私に、問うまでもなかったかと」


「……あははは、やっぱりかぁ」


分かり切ったことでしょう。


群青色の空を睨み

忌まわしい蒼い衣を身に纏い

雄々しく、怯まず、涙をぬぐった『私たち』。


紺碧の空に溶けてしまった『私たち』。

第116アケラーレ『ルカニア』の『私たち』。


どうして、『為すべき』を迷うことが在りましょうか。

道しるべは、己の中に。


「導くもの、光を灯すもの、何処にありや? 何処にありや? 全『私たち』は知らんと欲す」


ぽつり、と使い魔嬢は唄うように問いかけます。


「……ごめんね、アフア?」


「さようにございますか」


はぁ、と飲み込むのはため息。

使い魔嬢は困ったように引き下がります。


無理なものを強いるというのは

使い魔の本分ではございません。


「それでは、致し方ありません」


ああ、とそこで口を突いたのは

ちょっとした疑問。


『私たち』のありようを眺め続けていた

使い魔嬢ならではの、ちょっとした問いです。


「弟子の一人もお取り遊ばされるおつもり、ございませんか?」


「『私たち』は、許してくれないかもしれない」


けど、と彼女は続けます。


「きついかな?」


「でしたらば、どなたかにお託し遊ばされては?」


「……箒仲間に?」


はい、と使い魔嬢は優雅に首肯していました。


「エルダー・マクネアラ、エルダー・レニ、エルダー・レオンティーヌなど知己の方々に……」


「ダメ」


珍しく、はっきりとした否定のお言葉。


ぽやぽやとしている彼女の雰囲気が

この時ばかりは険しくなっています。


意外の念に駆られた使い魔嬢にしてみれば、

訳を問うたのは、当然でしょう。


「理由をお伺いしても?」


うん、と彼女は頷きます。


けれども。


頷いたまま、しばし、彼女は黙りこくっていました。


「エルダー・アナスタシア?」


いかがされましたでしょうか、と。

瀟洒に使い魔嬢が重ねて問うた瞬間のことでした。


ぽつり、と彼女は口を開きます。


「マクネアラとレニは、壊れた。レオンティーヌだけは、壊れかけ」


「失礼ですが、お三方とも箒を折られたとは……」


「アフア、貴方にもわからないことが在るんだねぇ」


しみじみと呟かれる声が

茶化しているようで

その実、悲鳴のような声色でした。


そこまで聞けば分からぬとて

使い魔たるもの

踏み入らぬ程度に礼節を弁えております。


「私、知っていることだけしか知りませんので」


「私も、かな」


呟くなり、再び黙りこくってしまわれる彼女。


胸中、慮るほかになし。


さて、さて。



「導くもの、光を灯すもの、何処にありや? 何処にありや? 全『私たち』は知らんと欲す」


紡がれるのは、悲しい独白。


エルダーの歌う嘆きの小唄。


「ほんと、上手いこと、言ったものだよねぇ」


彼女は、困ったようにつぶやきます。


「諦めることも、忘れることも、逃げることも許してはもらえない」


だからこそ、彼女は箒を降りたのでしょうか。

けれども、箒を降りたとて。


折れていない以上は、『私たち』なのです。


「では、いかがされるのでしょうか?」


マスケット銃を握りしめ、小さなエルダーはちょっとだけ苦しそうに笑います。


「いつもと同じ」


「いつもと?」


「うん、昔のいつも」


残酷な空に混じりこみ

眺めるは、地べたをに咲いた鮮烈な赤。


眺めることしかできない箒の上。

涙を拭うたは、ほんの数度。


渇きはてた瞳で

帰り立った宿営地で

語り、記し、語り継ぐだけの日々。


傍観者。

死を観察するだけの、傍観者。


「私たちは、ただ、見守るだけなんだよ、アフア」


「良しとされるのですか?」


「さあ、どうだろう。よくわからない」


でも、と彼女は小さく笑います。


「旅路の物語だからね。歩いて、歩いて、歩いていくんだ」


月明かりが、『私たち』の道を示してくれますように!

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