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魔法少女はもう泣かない  作者: 存在X
小話 或いはエルダー・ウィッチの船旅
18/25

間話2 食卓の小さな貴婦人

すきっ腹にアルコールは危険です(´・ω・`)

フィンガー・ボールに浸される手は、余りにも小さいものでした。


大人とは言いかねる少女の手。


けれど、食卓を共にする紳士貴顕の誰もが沈黙を保ち

驚きを礼儀正しく飲み込みます。


その視線の先にいるのは

凝視されていることに気が付き

はにかむのは、年頃の乙女。


傍には犬まで侍らせ

無邪気に話しかけている当人を

普通ならば食卓には招かぬもの。


しかして、しかして。


どうして、どうして。


彼女を、場にふさわしからぬ小娘と食卓から摘まみだせましょうか。

『彼女』を小娘よばわりすることが許されるはずもありません。


「いやはや、娘を思い出してしまいまして」


「不躾な視線でしたな、ご容赦を」


礼節と敬意に満ちた丁重な謝罪と共に、

紳士たちはシッカリと頭を垂れます。


ノブレス・オブリージュ。

それは、ある種、無限の傲慢です。

同時に、謙虚な精神たりえるのです。



第116アケラーレ『ルカニア』

エルダー・ウィッチ

アナスタシア・スペレッセ


魔弾の射手とまで謳われし、生きた伝説。



星が9つに、月桂樹が201個。


高らかに、唱和されるは彼女の武勲。


星であり、月桂樹の勇者であり

『彼女たち』の『私たち』。



国家に対し、仲間に対し、故郷に対し、

彼女は、義務を果たしました。


双肩で担うたは、重責。

小さすぎる手で成し遂げしは、偉勲。


「善き武勲と、名誉を知る我らがエルダーに」


「祖国と故郷に」


乾杯の音頭と共に持ち込まれるは、船団が秘蔵のシャンパン。


紳士貴顕らは惜しげもなく

こんな船上なればこそ、希少なそれを

惜しみなく開けていきます。


悲しいかな、彼女は味わうことが許されません。


ダメかな、と困惑したように

使い魔嬢に問う姿は年相応。


けれど、途中で船長がちょっとした気配りを見せることで物事は解決します。


倉庫から取り寄せたるはシードルとリンゴの果汁。


良きかな、良きかな、と言祝がれるは機転の妙。


「根が同じであれば、それは同じも同然ですな!」


元より、夕餉を重んじない夕べの集いなればこそ

すすむは酒盃、交わすは言葉。

エルダーと淑女の共に奏でし戦調べの音は高らかに。


勲を誇り、名誉を規範とし、戦場で馴染みし軍歌を斉唱するは武人の宴。


終いにとばかりに取り出されるは『霧の涙』と賞賛される貴腐ワイン。

乾杯する紳士貴顕にとって、すっかり冷めてしまった夕餉など興ざめも甚だしい。


冷菜ならばいざ知らず。

主菜のソースが冷めてみよ。

やれやれ、と彼らは嘆息するばかりだ。


さりはさりとて、ノブレス・オブリージュを掲げ

盛大に乾杯した手前、戦地帰りの愛国者たるもの

『冷めたメシ』が喰えぬともは間違っても口に出せない。


食卓の小さな貴婦人を前に、誰が、そのような戯言を口に出来ようか?


「私たちだけ、こんなにも素晴らしいものを頂くのは、気が引けてしまいますね」


「エルダー?」


「いえ、途中で子供たちを見ましたもので。戦地では育ちざかりでしたので……お腹いっぱい、食べたかったと。あの折は、子供心に思ったものでして」


けれども、『慈善』の名目とあらば話は違う。

ありがたい、と彼らは喜々として声を揃え、申し出ていた。


慎まやかな夕餉ではありますが、彼らにも、分かち合いましょう、と。

偉い人を酔い潰させて、一部目標を達成した! (誇張表現)

エルダー・スペレッセは悪女スキルを身に着けた! (大嘘)

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