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魔法少女はもう泣かない  作者: 存在X
第二章 『小さな一歩』
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第一四話 魚、私、空

ぼちぼち、続けていきたいなぁと思います。

青く澄んだ空。


往くは魔女の誉れ。


おお、空を統べるものよ!


でも、砂時計のように

さらり、さらり、と落ちていく何か。


赤い花が、綺麗に咲いて。


でも、それは。


本当にお花?


赤い、染み。


ぽとり、という音。


「エルダー・スペレッセ?」


「ほえ?」


ぽかん、と彼女は明るさに目を細めつつ

自分を覘き込んでいるアフア嬢の姿に気が付きます。


筏村に乗り込み、あれこれ思い悩んでいたものの

気が付けば随分と太陽の沈んでいること。


はぁ、と見つめていれば融けてしまいそうな夕焼け。

綺麗で、無慈悲で、ちょっとだけ暖かそうな光。


「……寝おち?」


「はい、エルダー・スペレッセ。ぐっすりとお休みでした」


「ぐっすりかぁ」


はい、と再び頷くアフア嬢に対し彼女は困ったようにはにかみます。


「夢見が良くなかったんだけど」


「ですから、あまり思い悩まれてはと申し上げました」


「アフアはつれないなぁ」


それが使い魔ですので、と瀟洒な使い魔は嘯く。

尻尾の端々まで凛とした姿は、気品に満ちた気高いそれ。


……彼女の元主も、きっと、彼女のことを誇りに思えるだろう。


「私も、しゃきっとしないとね」


「お水を頼んでおきました。どうぞ、お顔を」


そっと示されるのは、タライ。

並々と張られた水は清涼さに満ちている。


ありがとう、と手を伸ばしかけたところで何かが引っかかる。


水の周囲に漂うは、微かな揺らぎ。

ほんの僅かな違和感は、残留痕跡。

彼女もまた、第116アケラーレ『ルカニア』がエルダー・ウィッチ。



間違いなくアフアが冷やしたという事実を即座に読み取って苦い顔になってしまいます。


「……冷たいから、やー」


「みっともない顔を晒すのはおやめくださいまし」


「アフア、あっためて」


「シャキッとすれば、何か良い思案も浮かびますとも」


こんな時ばかりは、彼女もお手上げです。

エルダー・ウィッチとて出来ること、できないことが在るのです。

もうちょっと小器用な魔法を覚えておけばと反省するしかありません。


「……停戦協定を結ぼう」


「戦っておりません」


ぐふう、と淑女にあるまじき音が口から零れるのも厭わず彼女は顔を起こします。


「現実は、何時だって、過酷だね、アフア」


「現実逃避も結構ですが、ここで起きられませんと夕餉も食べ損ねることになりますが」


「……ううん、そっか、そうだね」


よっこいしょ、と起き上がる所作は緩慢でした。


ナマケモノのごとく、のそり、のそりと擬音が付きそうな彼女は、心底から面倒だとのっそり、のっそりとタライへ歩み寄ります。


「はぁあああ、億劫だぁああああ」


……ああ、これ以上は淑女の名誉にかかわること故に、ご寛恕を。




偽装という単語をアフアは知っています。

それは、戦場においてカモフラージュと呼ばれるものです。


「さて、ディナーの時間ね、アフア?」


「はい、エルダー」


キリリと顔を引き締め、衣装を整え、花の顔に薄化粧までほどこした彼女は実に『凛然』たる品格、品位、淑女のオーラに満ち溢れています。


つい先刻までの醜態を覚えている使い魔嬢にしてみれば、詐欺も良いところです。


口に出すことはありませんが、日々、もうちょっとだけ……と思う次第。


そんな思いを振り切り、彼女に使い魔嬢は続いて歩き出します。

向かう先は、筏村の中央部。


連れ立って向かう一人と一匹ですが、しかし、嫌でも見てしまいます。


子供たちの食事とは、パンと薄い野菜スープ。

それも、残り物でしょうか?


「アフア?」


ああ、と察しの良いレディーたる使い魔は彼女の懸念を理解します。


「……出稼ぎにでる子供たちというのは、つらいものです」


「ねえ、アフア?」


如何にかできないの、という言外の言葉もわからなくはありません。しかして、使い魔嬢としては言わざるを得ないのです。


「『魚を恵むなかれ、しかして、取り方を教えなさい』と申します」


「言うは易し、だよねぇ」


「なんでしたらば、一人、二人ほどお買いあそばされては?」


「……アフア、人身売買は違法だよ」


「御意。ですが、『奉公契約』は許されております」


口にこそしないものの、使い魔嬢はおおよそのめどをつけています。

ここらに居る子供たちは、名目上は『奉公』に出される子供たちでしょう。


口減らし。

そういうことです。


嫌だなぁ、と顔で語るエルダーは『その辺の機微』にはとてもお詳しい由。


「お気持ちはわかります」


エルダーのような『支払いが確実な魔女』が買うといえば、もう、それは、喜色満面で売りつけてくることでしょう。


「私、魚の取り方を教えられると思う?」


「……同情から弟子をお取りに?」


「偽善かなぁ……やっぱり」


「そもそも、僭越ながら……教育できまして?」


「ウォーカーだもんねぇ……。空とか、絶対飛べないよ」


だって、と彼女は小さく笑います。


「誰かが堕ちて真っ赤になる夢だけで、うなされちゃうもん」




次回の更新はさっぱりめどがついていません。

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