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魔法少女はもう泣かない  作者: 存在X
第二章 『小さな一歩』
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第十三話 川を下る筏村

じ、字数がぎりぎりでせう(;´・ω・)

待ち人来る、とはこのことでしょう。

もっとも、来るのは人ではございません。



ゆるゆると流れていく川の上に

小なりとは言え立派な村。

それが突如として現れてくるではありませんか。


「アフア、あれが『船便』?」


「さようにございますね。あれならば、とても快適な船旅かと」


その正体は、大きな筏でした。

大きな、大きな、とても大きな筏です。


ざっと私が見たところ

それは全長が400メートル。

幅に至っては、80メートルは在ろうかという

巨大な筏でございました。


「オーイ! オーイ!」


さっと、渡し船を操る船員のなんときびきびしたことでしょうか!


海軍の現役だといわれたところで、

疑うことすら思い至らないことでしょう。


戦時中であれば、間違いございません。

最寄りの勅任艦長が根こそぎ徴用していくほどの

良質な船員ばかりです。


「お待たせいたしました! どちらまで?」


「港湾都市、マルケラスまで。あ、料金は一人と一匹でお願いします」


如何に淑女であるとはいえ

犬である私が喋れば、知らぬ人間は動揺を隠せません。


この点で、動じることのない人間は

間違いなく従軍経験者でしょう。


「おっ、こいつは驚いた。使い魔さんか」


ちらり、と彼女の背負っている防水キャンバスのケースに目を留め

得心したとばかりに頷いている船員の度胸は大したものです。


「ということは……お嬢さん、魔女?」


大正解、と私は微笑んでいました。


「退役しまして。ちょっと、あれこれと見て回ろうかなって」


ああ、なるほど、と船員の兄ちゃんは快活に笑って見せます。


「旅路は危険事が一杯だ! って忠告を普通ならするけれどもね」


第116アケラーレ『ルカニア』という部隊を知らずとも

魔女の為してきた偉業を知っていれば

道中の安全は案じるだけ杞憂なのだと分かることでしょう。


「魔女には、なんと言ったかな。そうそう、稲大陸の言い回しで『魔女に薬草学を語る!』だったかな?」


「そこは、確か『悟りを開いた人に、説教をする』ということだったかと」


「こいつは、驚いた。悪くとってほしくないのだけど、犬さんは、また、えらい博識だな」


「あははは、アフアはお勉強が好きでしたから」


「エルダー・アナスタシア。あなた方が、おさぼりになっていただけですよ」


くすくす、と。

愉快なおしゃべりを

愉快な道中の連れ合いと。


全く、悪いものではございません。


かくして、私は彼女を連れて

悠々と船室へ向かいます。


何分にも、と申し上げましょうか。

魔女とは言え人間には

色々と面倒ごとも多いのでしょう。


船室に荷物を広げ、鏡の前に座る彼女の髪は

出かけ際に梳いたのが嘘のように乱れてしまっています。

悪戯な風や筏船の人口密度が宜しくないのでしょう。


「エルダー・アナスタシア、櫛はこちらに」


「ありがと」


彼女はそのまま、鼻歌交じり

長い銀髪をゆっくりと梳いていきます。


それは、幸せそうな動作。

平和の配当です。

もう、誰も、長髪を咎めたりはしないでしょう。


第116アケラーレ『ルカニア』の『私たち』の望み。

おしゃべりを楽しみ、お化粧を楽しみ、

そして、『私たち』で語らう。


慎まやかで、小さくて、でも、大切な想い。


風に飛ばされるようにしっかりと帽子をかぶり

暖かな木蘭色のセーターと、マフラーを巻いた彼女も思いは同じです。


「さぁ、いくよ、アフア! 筏村の皆さんにご挨拶しないとね」


「社交でございますね。ハンカチはお持ちですか? ああ、ハンドクーラーは?」


「アフア、私は魔女だよ? ハンカチはともかく、ハンドクーラーはいらないよ」


彼女の反論も、まぁ、分からないではございません。

けれども、私も申し上げねばならないのです。


淑女の嗜みではございませんか、と。


「エルダー・アナスタシア、嗜みにございますれば」


かくして、私と彼女はワイワイとやりながら

先客の皆様へご挨拶申し上げるべく

連れ立って筏村の中央へと歩んでいきます。


全長400メートルもの巨大な筏群ともなれば

カフェーとも申しましょうか。


水上にあってすら

暖かなお茶の一つも出せるものと

大層な評判なのです。


けれども、と申し上げるべきでしょうか。


カフェへ向かうはずの私たちは、行き交う途中で目にした

子供たちの活況に思わず目を細めて足を留めてしまいます。


「……随分と、子供が多いね」


「作用にございますね。大筏なので、小舟に比べれば安全だからではないでしょうか」


「ああ、そっか。下手な小舟より安全といえば安全だし、陸路よりもずっと安くて速い」


ワイワイ、と騒ぐ小さな子供たち。

小さな魔女、ああ、古風に申し上げるならば魔法少女ですね。

幼き『私たち』と同じ頃の年頃です。


元気がある姿を見るというのは、大層良いものでしょう。

私も、彼女も、ほっこりといたしてしまいます。



「って、あれ? アフア。じゃあ、帰りは?」


「はい?」


だから、と申し上げるべきでしょうか。

気づきたくはございませんでした。


ええ、気づきたくは、なかったのです。

筏村での、心温まる交流にご期待ください。

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