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魔法少女はもう泣かない  作者: 存在X
第二章 『小さな一歩』
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第十一話 優しい眠気

郵便馬車でたどり着いたのは

中継駅とでもいうべき

ほどほどに大きな村落でした。


なにはともあれ、というべきでしょう。

長旅で疲れていた彼女と使い魔は

宿に落ち着きます。


人心地ついたところで

遅い夕食を温めてくれていたのは

宿の主人の心配りでしょう。


さて、問題。


温かい食事を

お腹いっぱいに食べると

どうなるでしょうか?


答えは、簡単です。




温かな寝室に入れば

うつら、うつら、

と瞳が泳ぎ始めてしまいます。



ふわぁ、とあくび交じりに

マスケット銃を立てかけたところで

彼女は眼をこすりながら

寝間着に着替えるや否や、

ベッドへと腰かけます。


「……ねぇ、アフア」


「はい、エルダー・アナスタシア?」


半ば、寝ぼけ眼で

天窓より室内を優しく照らす

月を見上げながら。


ぽつり、ぽつり、と。


「私、知らなかったんだなぁ」


彼女は、使い魔へと語り掛けます。


「瓶詰ポトフが世界最高のごちそうだと思ってたけど、訂正する」


「それはようございました」


「うん、色々あるんだねぇ……」


そのまま、一人と一匹は無言で

天窓越しの月を眺めながら

ただただ佇んでおりました。


ふう、と小さき魔女の口元からこぼれるため息。

困ったような笑顔は、『私たち』のそれ。


「エルダー・アナスタシア?」


「ふふふ、ちょっと、ね」


ただ、と彼女は続けます。


「『私たち』にも、食べさせてあげたかったなぁ……」


何気なさを装っての一言。

胸中にあるのは、いかほどでしょうか?


彼女は、知らなかったのです。


『私たち』の一人として

どれほど残念なことなのかを知るものは

もはや、さほども残ってはおりません。


「そうですね、先達の『私たち』もそうお考えかと」


「うんと……どういうこと?」


「エルダー・アナスタシア、初期のころの『魔女の夕べ』は全て自作のお料理だったのですが」


「そうなの?」


知らなかったなぁ、と零れ落ちるのはため息。


月明かりだけが見守る部屋で

あくびの涙をぬぐうように

彼女はそっと、小さな手を動かします。


『私たち』の夕べですら、語り継がれないモノガタリ。

風化してしまった、『私たち』。


「魔女の伝承は、箒が折れすぎましたので……」


魔女となった春。

魔女としての夏。

魔女であり続ける秋。

魔女であるが故の冬。


四季折々の色彩豊かな記憶ですら

残酷な時の流れには抗えないのです。


けれども、けれども。


それは、理。


常人の、理。


魔女は、魔女の理に生きるのです。


なにしろ、と申し上げねばなりません。

『私たち』は、『私たち』なのですから。


「そっかぁ……じゃあ、『私たち』のお料理も覚えないとね」


『私たち』という在り方は

義務よりも濃淡であり

意思よりも堅固であり

ありていに言うのであれば

必然でありました。


彼女は、『私たち』なのです。


「また、目標が一つ見つかったね」


はい、と使い魔は静かに頷きます。


「昔のお料理って覚えているの?」


「申し訳ありませんが、魔女と使い魔では味覚が違いまして。多少ならば、分かるのですが……」


「ああ、そうだよね。なおさら、残念だなぁ……」


「一応、いくつかの得意料理は歌にもなっていましたよ?」


「歌?」


「ええ、料理歌です。私は口ずさんでおりませんでしたが、どなたかが本にまとめられた、と聞いたことが」


「ありがと。それも、探さないとね」


あくびを噛み殺し

彼女は満足げにほほ笑みます。


一歩、一歩。


まだまだ、先が長いとしても。

旅路の長さは、誇るべきなのでしょう。

喜びですら、あるのでしょう。


『私たち』のモノガタリは、

彼女と一頭の白い犬が

その足で歩んでいくのです。


きっと、『私たち』に

たくさんの土産話を持っていけるに違いありません。

おしゃべりの花がさぞ咲くことでしょう。


「やることが一杯だね」


「さようにございますね」


うつら、うつらとしつつ

彼女はベッドへ

ぽすん、と横になっていました。


「楽しみだなぁ……。おやすみ、アフア」


「お休みなさいませ」

やりたいこと、また一つ見つかってよかったですね。・゜・(ノД`)・゜・。

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