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魔法少女はもう泣かない  作者: 存在X
第二章 『小さな一歩』
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第八話 なれないことばかり

旅慣れぬ魔女の小さな失敗

銀色の長髪をたなびかせながら

一人の魔女が歩いていました。


小さな背中に背負っているのは

防水キャンバス製の綺麗なケース。


中に入っているのは

杖であり、相棒であるマスケット。


旅の連れ合いは

白い毛並みを誇る

賢い使い魔。


夕暮れ前の街道を

一人と一頭は

歩いていました。


てとてと、と軽やかに

白い使い魔は歩いてゆきます。


時折、何かを考えるように

鼻を動かし、周囲を見渡し

白い使い魔は意を決し

ついに尋ねます。


「エルダー・アナスタシア」


「うん。どうかしたのかな、アフア?」


「私たちは、『どちらへ向かっている』のでしょうか?」


それは、とても大事な質問です。

白い使い魔が出発した時から抱いていた疑問でした。


『私たち』の夕べから

そのまま駆けだしたのです。


もちろん使い魔の体力には問題もありません。


長距離行軍だって、お手の物。

整備された街道ならば、のんびりと歩けます。


でも、というべきでしょうか。

彼女は、ちょっと、息が上がっているではありませんか。


無理もないことではあります。

なにしろ、一日中歩きとおしなのですから。


「ええと、隣町?」


「隣町というのは、どれくらいなのですか?」


「だいたい、帝都から2時間ぐらい?」


なるほど、と賢い使い魔は頷いて見せます。

二時間ぐらいの距離であれば

思い立って月の下で駆けだしてもよいでしょう。


「方向は、あっているのですか?」


「もちろん! 私だって、単独飛行できるんだよ?」


「これは、失礼を」


空を見上げるのがお嫌いだとしても

天測の技量がなければ

エルダー・ウィッチとはとても名乗れません。


なので、彼女は『方向音痴』ではないのでしょう。


従って、というべきでしょうか。

賢明な使い魔はため息をこぼします。


「はぁ……。エルダー・アナスタシア。箒に跨っていらっしゃったときの感覚ですね?」


「うん、そうだね」


あちゃぁ、と言葉にしない程度の慎み。

それも、淑女の作法でしょう。


アウスグタ・フレデリカ・アレクサンドラ嬢は

どこまでも立派な淑女なのです。


「お伺いしたいのですが、徒歩で何時間でしょうか?」


「ええと、ええと、割と近くかなぁ……って」


街道が整備されているとはいえ

地上の歩兵が何日もかけて歩く距離。


それを、ふわり、ふわりと箒の旅のようにとらえられていたとは。


「ふらりと飛んでいけば、という世界ではございませんの」


ですから、と経験豊富な使い魔は断言します。


「そろそろ、野営の支度をしませんと」


「や、野営?」


淑女といっても、もちろん、感情はございます。

そんな次第で、彼女が苦労することで

学んでくれれば……などと考えていたに違いありません。


「はい、一応は訓練で何度か経験していますよね?」


「私、促成組だったから……」


えっ、と思わず使い魔嬢の尻尾が跳ね上がったのは

見なかったことにしておきましょう。


それが、紳士淑女の思いやりというものです。


「一度もですか?」


「えっと、えっと」


怖いもの知らずの魔女にだって

苦手なものはあるのでしょう。


彼女は、一生懸命に頭を抱え

そして、『あっ』、とほほ笑みます。


ホッとしかけた使い魔嬢。

やれやれですね、と呟きかけていますね。


でも、ちょっと、早すぎたみたいです。


「きょ、教本はもらったよ?」


かなしいかな、かなしいかな。

彼女の言葉は希望を粉砕するにたる一言です。


訂正。


「あ、あの、エルダー・アナスタシア?」


奈落の底へと突き放すものです。

使い魔は、知っていました。


彼女は、『お勉強が大嫌い』だったという事実を。


「お読みになられたことは?」


「確か、私物ボックスに入れてあるかなぁ……。まって、まって。ええと、一応、支配人さんが送ってくれた荷物の中に確か……」


「ええ、トムソン氏のご厚意で『野営セット一式』もございました」


旅慣れぬ魔女の旅路。

万事、世事に長けた紳士ならば

不足するであろう品々を思い起こすのも当然です。


というわけで、確かに『野営セット一式』を

トムソン氏は使い魔嬢に勧め

要らないよと渋る彼女を押し切って

無理やりにも売りつけたのです。


「エルダー・アナスタシアが、重たいので『船で送る』ということをされていなければ、何も問題はございませんでしたが」


「あれ? えっ、あ、だって、隣町まで行くぐらいなら……」


「もう日没も近こうございますが?」


彼女は泣いていません。

でも、その顔は

ちょびっと、深刻に困り顔でした。


「とりあえず、ですが。どこかで、宿を借りましょう」


「でも、あの、お金が……」


銀行に預けていて……と続ける彼女。

ですが、心配はいりません。


「大変に失礼かとは思いましたが、私が少し小分けにして運んでおります」


「ありがと! さすが、アフア!」


はぁ、というため息の音。

保護者というのは、大変なのですね。

アフアさん、なんて保護者スキル完備だ……(;・∀・)



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