『私たち』への献辞
旅路の物語を、我が第116アケラーレ『ルカニア』の『私たち』に捧げます。
いつか、向こうで語らうその日まで。
第116アケラーレ『ルカニア』
エルダー・ウィッチ
アナスタシア・スペレッセ
空を見上げれば、紺碧の空。
人は、きれいな空だというけれど。
蟠りに曇った目には、
澄んでいて……残酷な蒼さ。
それは、大海原のような空。
いつだって、『私たち』は溶けていった。
第116アケラーレ『ルカニア』。
蒼空で散華した『私たち』。
折れてしまった箒。
解けてしまった芯。
覚えています。
春のあの日。
貴女の長髪が、戦争の邪魔だからと切り落とした日のことを。
忘れられるはずがありません。
夏のあの日。
お化粧ではなく、迷彩色を顔に塗りたくった日々のことを。
どうしてか、思い出せません。
秋のあの日。
夢を語り合った『私たち』が、消えていく日々を。
瞼を閉じ、ただただ顔を思い浮かべるだけでした。
冬のあの日。
恋を語らう相手を失った『私たち』を悼む夕べに。
第116アケラーレ『ルカニア』の『私たち』。
泣き虫だった私は、めそめそと泣いてばかりでしたね
『私たち』が撫でてくれた手の暖かさ。
もう、そのぬくもりは記憶の中でしか蘇らないのですね。
さようなら、『私たち』。
安らかに、などとは口にしません。
悔しかったでしょう。
やりたいことも、たくさん残っていたでしょう。
光をともす、ルカニアの魔女たちよ。
『私たち』は、いつでも、飛んでいました。
地に足をつけることもなく、仲間たちのために。
ずっと、ずっと。
『私たち』は、大地を見つめていました。
いつか、いつか。
平和になったら、どこまでも歩いて行けると信じて。
……紺碧の空に溶けてしまったみんな、見えていますか?
もう、マルスの門は閉ざされました。
世界に、色は戻ってきました。
四季折々の世界。
パクス、パクス、パクス。
誰もが、言祝ぐ平和。
素晴らしい青空の下で、喜ばれる平和の訪れ。
サンドイッチをバスケットに入れ
ハンカチをポケットに入れ
華のかんばせをほころばせ
おしゃべりの花を咲かせましょう。
喜劇に笑い
悲劇に悲しみ
楽劇に震え
生きとし生ける人々の歓喜の声!
さぁ! さぁ! さぁ!
オペレッタを奏でましょう!
きっと、『私たち』だけでしょうね。
歓喜の声が響く大地を見下ろし、ただただ、漂う『私たち』。
人々が舞うとき、私たちはやっと大地に帰ってくることができました。
……帰ってきたんです。
小さな一歩。
小さな足取り。
だけど、私と一匹と『私たち』は帰ってきました。
もう、空は翔べないけれど。
でも、私とアフアは立っています。
この、大地に立っています。
だからこそ、私がここで青空を眺めて泣きじゃくるのを許してください。
もう、慰めてくれる『私たち』が居ないとしても。
どうか、どうか、どうか。
今日だけは、泣き虫な私を許してください。
もう泣きません。
私は、歩いて、『私たち』が語り合った夢を拾っていきます。
歩いていきます。
想い出が風化してしまうとしても。
この思いが、風塵にまみれてしまうとしても。
『私たち』が空に溶けてしまったように。
その日まで。
私は、二本の足で歩いて、歩いて、歩いて、どこまでも行きます。