第8話 「練習」
「ちょっ、なにしてんの!?」
「なにってお前」
「ちょっと待って今からなにするつもりなの」
「練習すんだろ練習。なにか勘違いしてるだろエレナ。汗かくから脱いだだけじゃねえか。俺の能力は体力、使うんだぜ」
「……え? わたしの能力の練習でディアンも能力を使うの?」
「ん?あぁそうだが」
わたしの能力の練習で、ディアンが能力を使うということは能力を発動させるお手本を見せてくれるということか。
生憎わたしは能力を発動させることはできている。
「わたし能力を発動させることはできるから、お手本とかは別になくても……」
「そういうことじゃない。実は超人は無意識に能力を発動してしまうことがあるんだ。ある状況の下でな」
「ある状況?」
「あぁそうだ。俺が能力を使うのはその状況を作り出すためだ」
大気が振動しはじめた。それは、ディアンが能力を発動するときの前兆のような現象。
ディアンが追い剥ぎに能力を使ったときに一度体験したものだ。湖にも波紋が広がる。
次の瞬間。
「うわぁ!?」
わたし背後で空気が炸裂し、湖の飛沫がとぶ。その衝撃でわたしの体は前に仰け反ってしまう。
「例えば命の危険を感じたとき。とかな」
「ディアン〜〜……」
「すまんすまん……。そんなに唸ることないじゃないか。うーむ……。咄嗟には発動しないのか」
ディアンの軽い態度に不安を感じるどころか、命の危険さえ感じる。これはディアンの目的通りなのか。
「とりあえずだ。エレナ、さっき自分の意思で能力を発動させることはできるって言ってたな。ちょっとやって見せてくれ」
「わかった」
わたしは右手に力を込める。
「おおおおっ」
その拳を解放すると、掌の上に炎が灯る。
「こんな感じかな」
「ほう。なんというか……。弱いな」
「おおおっ」
ディアンの直接すぎる発言に、少々苛立ちを覚え、能力をさらに解放する。
すると、右手の手の上にあった炎は、さらに勢いを増し、わたしの頭上の高さを超えた。辺りに熱気が広がる。
「おぉ、大きくなった」
気が抜けたように上方を見つめた。おそらく感心していないなこの男。わたしは思う。
「ほっ」
炎が揺れ、弾けた。空気がピリピリと震えていたので、それがディアンの能力によるものだということが容易にわかった。
「ちょっとディアン。今炎消したでしょ」
「あぁ、なんとなわかったぞ。エレナの能力。能力自体は弱くない」
「本当!? よか」
「だけど咄嗟に発動させるのが難しいみたいだな」
ディアンはわたしが言い終わる前に遮った。
「あとは力の制御。ある程度は出来てるみたいだが……。外からの影響を受けすぎだ。たとえ力が強く立ってそれを制御できないんじゃ、元も子もないぜ」
「な、なるほど……」
「おそらく明日の適性判断では、そういった部分も含めた強さを評価されると思う」
「課題は力の制御か……」
わたしは拳を握りしめた。王都に来てからというもの、立て続けに生まれる不安が途切れない。
「まぁ、落ちないように頑張るしかないな」
「ちょっと、不安になるようなこと言わないでよ……」
「ははっ悪い」
ディアンのその清々しい雰囲気が、逆に不安を募らせる。
それからは日が完全に沈むまで炎をディアンに消されないように保つ、という練習を繰り返した。
日が沈む頃には、わたしもディアンも狼狽して、地面にひれ伏していた。
「どうしよう……。一度も成功しない」
「もう、そろそろ……。食事にしないか。一旦、休憩をとろう……。こんな状態じゃ成功しないぜ」
息を切らしながらディアンは提案した。わたしはその提案に乗るしかなかった。ディアンの言う通り、こんなに疲労した状態じゃ成功するものも成功しないだろう。ディアンは立ち上がり汗で濡れた腕で、脱いだ衣服を拾い上げ着ようとした。
わたしも震える足で立ち上がろうとする。疲労のせいで足に力が入らず、よろめいてしまう。例えるとすれば生まれたての子鹿のように。
するとその様子に気づいたディアンがわたしに向けて叫ぶ。
「エレナ、危な────」
ディアンの声は途中で途切れ、わたしは湖の中に沈んだ。
今回は説明会になってしまいました。超健全でしたね。力がうまく制御できないエレナ。翌日の適性判断までに間に合うのか。もう少し更新速度頑張ります。