表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/20

第7話 「民宿」

 

 ディアンのおかげでなんとか今晩泊まる宿が見つかった。その宿は三階建てで、他の建物と同じ白煉瓦造りなのだだが、骨組みなどに使われている木材が露出しており、その木目が年季を感じさせる。


「今日はここに泊まるんだよね」


「そうだな」


 ディアンは年季の入ったドアノブに手をかけた。ディアンがその手を捻る前に、私は口を挟んだ。


「……また助けられちゃったね。ありがとう」


 ディアンはドアノブに手をかけたまま扉を開けずに、わたしの顔を見ると悪戯ににやけて見せた。


「張り切ってた割にはすぐ折れたな」


「うるさい」


 今度はわたしの方が、呆れた口調で言ってやった。

 正直、あてもなく「自分が宿を探す」などと口走ってしまったわたしが悪いのだが。

 ディアンが扉を開けると、忽ち宿の中から酒の匂いが漂ってきた。


「うっ……。お酒の匂い」


 咄嗟にわたしは口元を手で覆った。私は酒の匂いが昔から苦手だ。家族もこのことを知っていたので、特に祖母はかなりの酒好きだったようだが、私の前で飲酒をすることはなかったし、もしも飲んだ日には私と接触するのを避けていたことが今ではわかる。当時はそのことで、祖母が相手をしてくれないと拗ねることもあったが。


「こんな真昼間から宴でもやってんのか?」


「王都は元気な人が多いんだね……」


 酒の匂いは嫌いだが、懐かしいものを思い出させてくれたので嫌に感じなかった。




 宿の内装は、壁が素朴な木版で覆われており、床には触り心地の良さそうな、高級感のある紅のカーペットが敷かれていた。玄関から正面に受付がある。一回は食堂も設置されているようで、受付の横の机には憲兵と思われる鎧を体に身につけた男性達が盃を交わしていた。

 天井に取り付けられたシャンデリアの明かりが、男達の飲んでいた酒の瓶を、綺麗に照らしていた。



 憲兵の声が聞こえてくる。


「へへっ、お助け隊さん達のおかげで、こうやって酒が飲めて、ひっくお助け隊様々だぜ〜……。ひっく」


 その声を聞いて、ディアンはそっとこぼす。


「……憲兵も昔は、本来はお助け隊と並んで町の治安を守る役目の筈だったんだがな」


 今の怠慢な態度の憲兵にディアンは嫌悪感を抱いているようだった。正義感の強いディアンには、目の前のこの光景が許せないのだろう。



「ディアン、早く部屋とっちゃおうよ」


 ディアンは憲兵の方を見たままで返事はない。私が受付のカウンターまで向かうと、中から若い女性が現れた。


「今日泊まれますか? 二人なんですけど……」


 私がそう言うと、女性はカウンターの中にあった伝票を取り出した。何かを確認すると、にこりと笑顔を見せてくれる。


「はい、大丈夫ですよ。ご一緒の部屋でよろしいでしょうか?」


「いや別々の部屋にしてください」


 わたしは即答した。


「即答か、つれねーな」


 ディアンはいたずらに笑っていた。気づけば先ほど憲兵に嫌悪感を抱いていた表情はそこにはなかった。そしてわたしは、いつの間にかディアンがこちらに近づいてきたことに気づけなかった。


「では、こちらが部屋の鍵となります」


 女性が差し出した二本の鍵を受け取り片方をディアンに渡す。


「『202』か」


 ディアンが読み上げた数字は、渡された鍵に記されていた部屋番号だった。


「わたしは『305』だ」


 ディアンの部屋は二階。そしてわたしの部屋は三階。階層が別れてしまっていることに少し不満を覚えたが、部屋を変えてもらうことはしなかった。


「夕食は別の場所でとろう。夜まで王都を回ろうか」


「でもわたしお金持ってないよ……?」


「…………。大丈夫」


 ディアンは一瞬間を置いて答えた。




 宿を出て、ふと空を見上げると太陽の位置は低くなっており、宿のある場所は城門の位置より低かったため見えなかったが、砂漠は赤く照らされていることだろう。

 ディアンはわたしの手を引いて、王都の道をすすんだ。わたしは静かに従っていたが、すぐに我に帰り、ディアンの手を弾いた。


「なんでわたしがディアンと手をつないで歩かなくちゃいけないの!?」


「えええ!? あっ……。すまん、なんとなくやっちまった」


 ディアンは赤面し謝ってくる。


「と、とりあえず。エレナは能力を使いこなせるようになるために練習をしようぜ」


 ディアンは慌てた様子で言った。


「練習?」




 暗くなってきた空の中、浮かぶ雲が太陽の光を受けて、赤い光線に当てられたように明るくなっていた。

 風が涼しい。ディアンがわたしを連れてきたのは、お助け隊の拠点とは逆方向。街を流れる水路が交わり、小さな湖となっている場所だった。湖面に赤く光る雲が映っている。


「うわあ、綺麗」




「ここなら大丈夫だろう」


 湖の周辺に人の姿はなく静寂地包まれている。

 ディアンは深呼吸をすると、おもむろに上衣を脱ぎはじめた。

宿泊施設を見つけることができたエレナとディアン。エレナが能力を使いこなせるようになるため、練習に連れて行くというディアン。しかしエレナが連れて来られたのは人気のない湖。ディアンは服を脱ぎ出してしまった。ここで一体何が起こってしまうのか。次回は超健全な修行回です。もしよろしければ読んでいただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ