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第5話 「戦闘」

 

「かかってきな!」


 戦闘の構えをとった、追い剥ぎの兄貴分であろう男が叫んだ。それと同時に男に向かってディアンが走り出す。

 全身を黒に包み、刺々しい装飾のついた男の服が小刻みに振動し後ろに流した髪が揺れている。これが戦闘の気迫というものか、とわたしは思う。


「その走り方、隙だらけだぜ! 喰らいな!」


 男はそう叫ぶと、両手拳を握りしめ少し後ずさりしたあと、自身に向かって走ってくるディアンにめがけて、拳を放つ。


「ただの突きか? お前こそ……」


 ディアンは男の拳をしゃがんでかわす。続けて、流れるように男の懐に潜り込むとディアンは右の拳を強く握りしめた。


「隙だらけだ」


 ディアンは強く握りしめた右の拳を、男の腹部めがけて叩き込む。その攻撃は、見事直撃した。かのように見えた。

 次の瞬間。


「ふっ」


 男が不敵に笑うと、命中したかと思われたディアンの拳が見えない力によって弾き返される。


「なっ……風!? 拳が入らねぇ!」


 風。それが男の能力か。だとしたらわたしの能力との相性は最悪だ。わたしが参戦しても、奴の能力の風に、わたしの炎が掻き消されるだろう。ここはディアンに頼るしかないのか。

 拳を弾き返されたディアンは体勢を崩した。


「どうした!? 調子がいいのは威勢だけか!? あァん!? お前も超人なんだろ。能力を使ってこいよぉ!」


 男のその言葉を聞くと、ディアンの目は男を睨みながらも、その表情の、どこかで笑っていた。そんな気がした。


「あぁいいぜ! 使ってやるよ……。もうめんどくせぇ、手短に終わらせるぞ! うおおおっ」


 弾き飛ばされたディアンは、わたしのすぐ側で体勢を立て直し、振り返らず言った。


「エレナ。少し離れてろ」


 わたしは返事をする暇がないことを無意識に悟った。思い切り後ずさりする。すると、ディアンの周囲の大気が、ピリピリと振動しはじめたように見えた。その振動はやがてどんどん広く、振動から"衝撃"へと形態を変えていった。

 男は異変に気付いたのか、冷や汗を垂らし警戒する。それはわたしも同じだった。

 来る。ディアンの能力が発動する。




 それは一瞬の出来事だった。男の皮膚は灼熱の炎に当てられたように焼け爛れた。


「ひっ」


わたしは思わず短い悲鳴を漏らす。

 身につけた刺々しい装飾品は崩れ落ち、全身を包む黒い衣服にも亀裂が入っているのが確認できる。周辺の地面までをも、削り取ってしまったようだ。


「がッ……まさか……ここまでとは……」




「けっ、呆気ねぇなぁ。てめぇの方こそ、調子がいいのは威勢だけだったようだな」


 ディアンが全て言い終わる前に男は地面に崩れ落ちていた。ひとまず危険は回避されたようだが、わたしの鼓動は未だに急ぎ足で波打っていた。


「危なかった……」


 わたしは肩を撫で下ろした。


「少しやりすぎたぜ」


 ディアンは追い剥ぎの男ではなく、抉られた地面を見てそう言った。

 汗はかいていたものの、その呼吸は全く乱れていないといった。初めて目にしたディアンの力はとても強大に見えたのだが、能力者は体力を消費しないのか、という疑問を抱いた。


「今のがディアンの力……なんだね」


「そうだ。俺の力を見た者は、皆口を揃えてそれを"衝撃の能力"という。もう少し洒落た名前が良かったんだがな……。ってあれ?」


「まだなにかあるの……?」


 ディアンは焦った様子で続けた。


「もう一人の追い剥きは?」


 その言葉を聞いた途端、背後に寒気を感じる。物凄い速度で冷たい者が背を舐めていく感覚。あまりにも露出しすぎた殺意だった。今までどこかに身を潜めていた追い剥ぎはわたしの背にナイフを突き立てていた。


「うわああ! よくも兄貴を!」


 追い剥ぎはディアンに対して、恐慌していたようだった。ディアンはそれでもお構いなしに何気なく返した。


「無駄だっての」


 軽々しく追い剥ぎの持っていたナイフを取り上げると、追い剥ぎに拳を一発、叩き込んだ。追い剥ぎは気絶して、その場に倒れこむ。

 わたしは呆気なく倒れる追い剥ぎに対して、哀れみさえ感じていた。むしろそれは、ここまで戦闘慣れしているディアンに対しての若干の恐怖だったのかもしれない。とその時。



「こっちだ! こっちから音がしたぞ」

「急げ!」


 数人の成人男性の声が聞こえた。どうやらこちらに向かってきているようだ。


「くそ、憲兵か!? 今の騒ぎに気づかれたか……」


 ディアンは面倒くさそうにそう呟いた。


「えっ、それって大丈夫なの? 早く逃げた方がいいんじゃ」


「…………」


 その後、ディアンから発せられたのは信じ難い言葉だった。


「とどめを刺さないと」


 わたしは、その人ことに驚愕した。わたしは当然ディアンを咎める。


「ディアン!? もう二人とも気を失ってるじゃん! これ以上攻撃する必要なんてないよ!」


「なに? 悪を放っておけっていうのか? こういうやつを野放しにするなんて、正義のすることじゃない」


 ディアンは真剣に、本心から言っている様子だった。


「じきに憲兵が来る。こいつらのことは憲兵に任せよう?」


 わたしなディアンを刺激しないように、穏やかな口調で問いかけた。


 暫く沈黙する。




「すまない。少し冷静さを失っていたようだ。……なんだか過去のことを思い出していた」


 ディアンはわたしの言葉に少し悩んだあと、そう言った。


「過去?」


 やはりディアンには、絶対に過去になにかある。

 とても闇の深い出来事が。わたしは、何故だかそんなディアンを放っておけなかった。

 お助け隊に志願する者としての、本能的な衝動なのかどうかはわからなかったが。




 ディアンは深呼吸をし、落ち着いた様子でわたしに言った。


「なんだか騒がせちまって悪かった。引き続き、お助け隊の拠点へ向かおうか」


「う、うん……」




 それから約一時ほどかけ、お助け隊の拠点に着くまで、わたしとディアンはあまり言葉を交わさなかった。

第5話になります。戦闘回でした。

小説の執筆にあたって初めてのことだらけなので、この小説を書きながら、もっと小説のことについて学んでいきたいと思います。

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