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第3話 「遭遇」

「なっ、何!?」


 砕けた壁の欠片がパラパラと音を立て転がった。壁に開いた、大穴からは真っ白に燃え盛る太陽の光がわたし達を突き刺す。

 わたしは壁の向こうに見えた人影に驚愕した。屈強な大男。ではない。背丈はわたしと同じかそれ以上。わたしも、年ごろの少女としては一般的な背丈のつもりだ。


「悪い、どうやって入っていいのか……わからなかったものでよ」


 声が若い。明らかに少年のものだった。砕かれた壁の破片を踏みながら彼は建物の中に入ろうと向かってくる。


「おれは王都に用がある」


 すっかり風通しのよくなってしまった壁を見て、「あちゃー」と顔面蒼白になる金髪の男と、多分同じ表情をしている全身鎧の男。そしてわたし。

 開いた口がふさがらないわたし達に、その男は告げる。


「いや、正直すまんかった。あとで金を出すよ。それよりも」


 見ると、ところどころ髪のはねた彼はわたしと同じくらいの歳の少年のようだ。襟足のところから長い髪の毛の束が二本、尾のように伸びている。明るいベージュ色の頭髪に太陽の光が反射して、眩しい。


「お前も王都に入りたいんだろ?」


「な、何故そのことを……」


 少年は「はは」と短く笑い、続けた。


「こんなところでもめてるやつなんて、通行証を持ってないか……なにか犯罪を起こしたやつくらいだぜ」


「わたしは犯罪なんて起こしてないからね」


「わかってるって。罪人を追放するにはちとばかし人手が寂しいし。それに」


「?」


 少年はゆっくりと近づいてくる。


「君はそんな目をしていない」


「えっ────」


私は一瞬硬直した。




「えっ、なんですかそれは……」


「なんで敬語になったんだ」


 正直、「なんだこいつは」と思った。普通初対面の異性にそんな台詞は言わないだろう。

 ましてや建物を破壊した直後にそんなことを言われては少し困惑する。いや、少しではないか。

 そもそも、気取るには少々若すぎるなとわたしは思った。

 それでも何故か清々しい雰囲気を放つ少年に気を取られてしまい、なんだか不服に感じてしまう。


「はい。通行証。これで二人は入れるだろう?」


 気がつくと、少年は金髪の男の目の前にいた。通行証といったそれを彼に差し出す。


「確かに通行証だ。しかし……」


 金髪の男は大穴の開いた壁の方に視線を向け、再び少年に視線を戻す。


「これをどうにかしないことには、王都に入るより先に君を追放しなくちゃいけなくなる気がするんだが」


「あぁ、それに関してなら大丈夫だ」


 わたしはなんのことかわからなかったが、少年はそう言うと、わたしからは様子が伺えないように背を背け金髪の男になにか耳打ちをした。

 すると金髪の男はなにやら驚愕しているようだ。

 こちらを向き、口を開く。


「すまなかったな。お嬢ちゃんには悪いことをした。

 まぁなんで、これから色々と大変かもしれないが頑張ってくれ」


「あ、ありがとうございます」


 金髪の男は全身を武装した兵士に目配せをすると、全身を武装した兵士は王都につながる扉を開き、わたしに言った。


「さぁ通れ」


 少年がなにをしてくれたのかさわからないが、彼のおかげで無事に王都へ足を踏み入れることができる。

 見ると、彼は笑顔を浮かべ無言で頷いた。

 一歩。初めて王都の地を踏むと、少年は告げた。高らかに。




「ようこそ王都へ!」



 扉の向こうには、今までに見たこともない景色が広がっていた。例えるならそう、絵本の挿絵のような。白煉瓦造りの住居が立ち並び、大通りには色とりどりの屋台が軒を連ているのがわかる。王都は正円の形状をしているようで、中心に向かうにつれて高度が低くなっているようだ。

 見渡せばたくさんの人が王都の中を行き交うのが確認できる。ここまでの規模の人数は初めて見る。面積だって故郷の何倍もあるだろう。人口はおおよそ百万、いや二百万は、くだらないか。


「その様子だと、君って田舎から来たんだろ?」


「うん」


「すごいだろ。王都って。王都にはおおよそ三百万もの人が暮らしているらしいぜ」


「三百万……!?」


 予想以上の人数に驚愕する。酔ってしまいそうだ。


「あぁそうさ。簡単には想像できない数の人間が、ここにはいる。みんなが安全に過ごせるのもあのお助け隊のおかげってわけよ。ほら、ここからでも見えるだろう?」


 少年は王都の比較的中央に聳える、白を基調とした建物の方を指差した。近くには、同じく白色に輝く巨大な王城もあるのだが、比べてみても王城の縮小版のように絢爛だ。おそらくあれがお助け隊の拠点なのだろう。


「すごいんだね。お助け隊って………。あっ、そうだ」


「ん?」


「わたしはお助け隊に入るために王都に来たんだ。わたしのこの力がようやくみんなの役に立つかもしれないんだ」


 わたしは右の拳を握りしめた。


「へぇー! 君もお助け隊へ志願するのか! 奇遇だな、俺もなんだよ」


「あ、あなたもなの!? もしかしたら一緒に働くことになるかも」



偶然の目的の一致に、わたしは驚きを隠せない。

同じ目的を持った人と会うことができて、わたしはどうやら嬉しさを感じているようだ。


「ははは、そうだな」


 少年とわたしは笑った。最初に見たときは変な人かと思って警戒していたけど、案外いい人そうだ。


「よかったら案内するよ、あそこまで」


 少年は再び、お助け隊の拠点であろう建物の方を指差した。


「いいの?」


「あぁ」


「俺も同じ用事があるしな」


 少年は笑顔を絶やさない。彼は本当にいい人だ、とわたしは思う。完全に警戒を解いたわけではないが。

わたしは彼を信用しはじめていた。


「そういえば君、名前はなんていうんだ?」


「名前ですか?」


「そうだ。ずっと君って呼ぶのもなんだか変だろう」


わたしは少し間をおいて、悪戯な口調で答える。


「人に名前を聞くときは自分から名乗るのが常識ですよ」


「おっと、そうだな……。おれはディアンってんだ。よろしくな」


「ディアンさん!」


少年は困ったような口調で返した。


「ディアンでいいよ」


「じゃあディアン」


得意そうにするわたしの方を見て、少年は笑いかけ、そして続けた。


「じゃあ次は君だ。名前はなんていうんだ?」




「エレナ」


「いい名だ」


少年の率直な感想に照れくさくなる。


「あ、ありがとう……さっきはありがとうね。もうダメだと思ったけど……でもディアンが王都へ入れてくれた。感謝してます」


ディアンの後ろを歩きながらそう言うと、背を見せている彼は返した。


「なに、気にするな。放っておけなかっただけだ。それに」


少年は一度深呼吸を挟み、わたしの方を振り返るとまた清々しい笑顔を見せ、続ける。わたしは思わず立ち止まった。これから少年から発せられる言葉を聞き逃さないように、意識を少年に集中させていた。




「人を助けるのは、お助け隊の役目だからな」


第3話目になります。

主人公達がお助け隊に入るのはもう少し先になると思いますが、ぜひお付き合いいただければ幸いです。

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